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互いを思いやる心 ~STU48『楡の木陰の下で』~

この曲は、STU48の10thシングル『君は何を後悔するのか?』のカップリング曲で、2.5期研究生による楽曲です。

ちなみに、2.5期研究生というのは、ASH(アクターズスクール広島)限定オーディション(New Wave Project)で加入した岡田あずみ、岡村梨央、久留島優果、諸葛望愛の4人のメンバーたちのことです。
加入時点で既に高いスキルを持っていて、歌に関していえば、第5回歌唱力No.1決定戦に4人とも参加して、3人が決勝に進出しています。
しかも、その中の1人、岡村梨央はファイナリストにまでなっているのですよね。

この曲は、別れをテーマにした曲ではあるのですが、歌詞の内容も曲調も研究生曲らしい、とても爽やかな印象が残る曲になっています。

1番Aメロ

 いつもの公園のベンチの指定席
 みんなに人気の 楡(にれ)の木陰の下

 僕たちが明日から 気まずくなってしまえば
 新たなカップルが 愛を語るのだろう

にれの木陰の下というのが、どういった場所であるのかの説明ですね。
「みんなに人気の」ということからして、よほど心地の良い場所なのでしょう。
そんな場所にあるベンチを指定席として、これまで「僕たち」は愛を語らってきたわけです。

1番Bメロ

できれば 何があったって 正直になって欲しい
どんなカッコ悪くてもいいじゃないか

公園のベンチで愛を語らう間柄の「僕たち」が、何を今さらという気もするのですけれども、後に続く歌詞を見てみると、今まさに別れの時を迎えていたわけなのですよね。
無理してカッコ付けることなく、正直な気持ちを包み隠さず話してほしいということなのでしょう。
相手にそれを求めているだけでなく、自分もそうしたいということなのではありませんかね。

1サビ

離れたくはないと 言ってたのに 夢と現実は違う
もうここには来られないと 君が泣いた夜
未来の一歩目を 引き止めちゃいけないと思う
だから この楡(にれ)の木の下で君を見送ろう

いったいどういった事情があって別れることになったのか、この曲の歌詞からは具体的な内容は何もわからないのですが、話の筋からして、「君」の側の何らかの事情によるものであることだけはわかります。
また、「未来の一歩目を 引き止めちゃいけない」だとか、後に出てくる「せっかくのスタートを無駄にするなよ」だとかといったような言葉が出てくることから、別れなければならない「君」の事情というのは、少なくともネガティブなものではないことは確かなようですね。

気持ちが離れてしまったとか、他に好きな人ができたとかいったようなことによる別れではなく、お互いに気持ちは残したままの別れということになるのですかね。
「君」としては、このまま付き合いを続けていても中途半端なものになってしまい、「僕」に嫌な思いをさせてしまうだろうということで、「僕」のことを思いやり、別れることを決心したのではありませんかね。
そうした「君」の思いを理解した「僕」は、新たな一歩を踏み出そうとしている「君」のことを思いやり、引き止めることなく見送ることにしたのでしょう。
そして、最後に「君」を見送る場所は、「僕たち」の物語がつむがれてきたにれの木陰の下ということになるわけです。

2番Aメロ

そよ風にざわざわと揺れる音が好きなのと
木洩れ陽を見上げて 耳を澄ませてた

切ないシーンですよね。
もしかしたら、木洩れ陽を見上げたのは、涙がこぼれ落ちそうになるのをこらえるためなのかもしれませんね。

2番Bメロ

あの時 黙り込んだのは 僕がどう答えるのか
少し期待をして 待っていたのかなあ

おそらく「君」には、もしかしたら「僕」が引き止めてくれるのではないかと、心のどこかでわずかばかり期待をしているところがあったのでしょう。
とはいえ、「僕」が「君」のことを思いやって、引き止めはしないだろうということも「君」はわかっていた。
そして、「僕」は「僕」で、引き止めたいという気持ちもあるのだけれども、仮に「君」を引き止めるようなことを言ったとしても、「君」の意思は変わらないだろうし、「君」を苦しめることになるだけだということもわかっていた。

この「君」が黙り込んだほんの少しのというのは、お互いのお互いを思いやる気持ちが交錯する瞬間だったのではありませんかね。

2サビ

季節が変わっても あのベンチにずっと座っていたいよ
僕たちの物語は譲りたくない
それでもせっかくのスタートを無駄にするなよ
今の僕にできる愛とは引き留めないこと

「季節が変わっても」というのは、文字通り月日が流れてもという意味と、これまでは2人してベンチに座っていたのが、これからは1人で座ることになるという状況の変化をも意味しているのでしょう。
たとえ1人になったとしても、思い出深いベンチの席は誰にも譲りたくないということでしょうかね。

そんな思いを抱きながら「僕」は、新たなスタートを切ろうとしている「君」の背中を押すわけです。
離れがたい気持ちがあることを互いにわかってはいるけれども、「君」にとってベストな選択として、「僕」は引き留めないことを決心したわけです。
「君」が、「僕」にとってベストな選択として、別れることを決心したように。

お互いに思い合っているのにもかかわらず、お互いを思いやるあまり別れていくわけです。
これが「恋」ならぬ「愛」ということになるのでしょうかね……。

Cメロ

辺りに星が降り注ぐ頃まで
なかなか立ち上がれない指定席

これでもうお別れなのかと思うと、名残惜なごりおしくてこのにれの木陰の下から離れがたいといったところでしょうか。

ラスサビは、1サビと同じ歌詞になります。

ところで、この曲は瀧野由美子の卒業シングルのカップリング曲ということで、もしかしたら、STUから離れて女優の道へ進もうとしている彼女を送る歌としての意味合いも含まれているのかもしれませんね。

引用:秋元康 作詞, STU48 「楡の木陰の下で」(2023年)


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