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一途な思いは、ときとして人を狂気へと誘う ~STU48『そして僕は僕じゃなくなる』~

第3回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦において決勝大会に出場した6人のメンバー(池田裕楽、岡田奈々、矢野帆夏、小島愛子、峯吉愛梨沙、谷口茉妃菜)による楽曲。

間奏ではラテン調のメロディが流れるアップテンポのカッコいい曲。
ソロパートも多くて、ひとりひとりの特徴的な歌声がはっきりと聴きとれるのも良い。

一言で言ってしまえば、好きな人のことを狂わんばかりに一途に思い詰めている人を歌った曲。

1番の歌詞に、

君に何回LINEしたって
既読がつかないのはなぜだろう?

とあることから、おそらく「僕」と「君」とは、知り合いではあるけれども、付き合っているわけではないのでしょう。
つまり、「僕」の片思いということですね。

1番Aメロの歌詞を見てみると、

対岸に見える街の灯りが
美しく瞬(またた)いて見えるけど
どんな夜が囁いてるのか
僕は知る術(すべ)ない

とあり、さらに、

どこで誰と何しているのか?
恋は疑り深い

とある。
ここで言う「対岸」とは、「僕」と「君」との隔たりを表している。
その隔たりは、物理的・距離的な隔たりだけではなく、心の隔たりをも表している。
そして、「君」は今どこで誰と楽しく過ごしているのだろうかと妄想を膨らませているわけです。

そしてBメロで、

それならいっそ 今すぐにでも
君の元へ駆けつけたい
桟橋から飛び込んで 海を泳いで渡ろう
例え 雪が舞い落ちようとも…

とくるわけです。
いろいろと妄想して嫉妬に苦しめられるくらいなら、今すぐに「君」のもとに駆け付けたいというわけです。
どんな障害、どんな苦難があろうとも……。
それを、桟橋から飛び込んで雪が舞い落ちる海を泳いで渡るなどという狂った行動で言い表しているわけですけれども、それほどまでに思い詰めているということなのでしょう。

ところが、2番になると一転して、

遠い彼方のあの輝きは
近くで見てしまえば普通だよ
真実とはそういうものだ
無理に見たくはない

となる。
いろいろと妄想はしてみたけれども、実際にはきっとどうということなく過ごしているに違いないから、無理に知る必要はないと自分に言い聞かせている。

そして、

もどかしさが恋なんだ 手に入らないから恋だ
寄せる波こそが募る想い

とあり、ここからも「僕」の「君」への一方的な恋であるということがうかがい知れる。

さらに2サビの歌詞に、

ほんの少しの思い出を抱きしめ
傷つかないこちらの岸にいよう
不器用に 不器用に ただ一途に
大事な人を想ってたい

とありますように、自分が傷つかないように、ただ一途に「君」を思っているだけにしておこうというわけです。

落ちサビには、

灯りの浮かぶ海の水面(みなも)
それはどっちに語りかける?

という歌詞があるのですけれども、これはつまり、万難を排して「君」のもとに駆け付けるか、それとも、遠くから「君」を思い続けているか、どちらの「僕」であるべきかということなのでしょうかね?
あるいは、どちらの「僕」になってしまうのだろうかということでしょうか?

ラスサビ(1サビと同じ)には、「僕」の「君」への情熱的な恋情の言葉が並んでいるのですけれども、その最後に、

ゆっくりと ゆっくりと常軌失う
愛はいつでも人を狂わす
そして僕が僕じゃなくなる

とある。
「僕が僕じゃなくなる」というのは、もはや理性では自分をコントロールできなくなってきているということを意味しているのでしょう。
それほどまでに、「僕」は「君」のことを愛おしく思っているということなのですよね。
なんとも情熱的な歌ですね。

引用:秋元康 作詞, STU48 「そして僕は僕じゃなくなる」(2021年)


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