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名を失くしたアバター作者に捧げる、あるユーザーのやり場のない熱情

2023年のある日、boothからあるクリエイターの商品が自主的に取り下げられてしまった。

それにより、私が好きで普段からVRChatで使用しているアバターである『まりな*MARINA』もいなくなってしまった。他の人に布教することもできなくなってしまった。

その一方で、boothに残されたショップのトップページには「2023年内にアップデートを予定している」と書かれていた。私はその言葉を信じて今日まで生きてきた。


今でもこの文面は残っている


しかし、2024年になっても音沙汰はなく。

この記事が投稿される数日前、そのクリエイターのX(Twitter)のアカウントが削除されていたことが判明した。


今では本人の意思を知る術はないが。
果たして、私にできることはあったのだろうか?
こうならないために何かを変えることはできたのだろうか?


思い返すと、現実は非情だった。やむを得ない部分もあった。けれど、それでも私の中にはやり切れない想いが、行き場の無い熱情が巡っていた。




その3Dモデルクリエイターは、2020年頃からVRChat向けのアバターとして使用できるオリジナルキャラクターの3Dモデルを販売していた。

その方が売れっ子モデラーと言えたかは私には判断できないが、少なくともその作者の作品の1つが3Dモデルアワードのような企画で取り上げられる程度には、悪くないクオリティの3Dモデルを作り出していた方だった。


しかし、2021年頃から、その方は二次創作としての3Dモデルを(利用規約に反しないように)販売するようになっていた。

最初は、アズールレーンのユニコーンというキャラクターの3Dモデルだった。その時は5000円での販売で、販売期間を設けることで利用規約に反しないように工夫されて販売されていた。

この時は販売そのものが特別大きな話題になることはなく、自然に販売期間が過ぎていった。

私個人としては、権利関係とか違法な入手方法(3Dゲームからのデータ抜き出しなど)を疑われてしまうといった面倒事に絡まれそうなのが煙たく思っていたために、VRChatで二次創作の3Dモデルを使用することはなかった。

けれど、日頃から我が子のようにお世話になっているアバターの作者さんの新作品ということもあり、応援の意味を込めて購入していた。

またこの頃は、このクリエイターさんのアバターを使用しているユーザーを集めて集会のようなイベントを何度か開催したりもした。


その後、2022年に、その方から原神の胡桃というキャラクターの3Dモデルを販売すると発表があった。

この時、最初に販売された価格は1万円だった。
ところが、その告知が出た途端に様々な人々から非難の声が出始めた。曰く、「利用規約に反している」「利益の出ない範疇での販売の規模を大きく上回っている」といったような指摘だ。

これらの指摘は段々とエスカレートしていき、リプライも、引用リツイートも、果てにはタイムラインでの空リプでさえも、非難の声が飛び交っていた。

確かに、利用規約に反するという間違いをしてしまったのであろうことは否めないし、事実だったと思う。

けれど、だからって、そこまで言うことないだろうが!?

と思えてならないような言葉の数々が、タイムラインに流れ込んでいた。

この事態には私もさすがに居ても立ってもいられなくなり、知り合いの別のクリエイターが空リプで非難していたところに、さすがにそれは言い過ぎだろう、と擁護の声を上げた。しかし、二次創作の界隈にとってはタブーだったらしく、そうした知識に疎かった私はモヤモヤした想いを抱えつつも矛を収めるほかなかった。

そうした騒ぎがあった末に、件のクリエイターは公式に問い合わせを行い、その問い合わせの内容の詳細については明かせない、としたうえで、最終的に2000円でその3Dモデルが販売されることになった。



そして、その後。
そのクリエイターは、だんだんとTwitterの更新頻度を落としていった。通知設定をしていても、めったに通知が来ないレベルだった。1ヶ月に1度ツイートしたかどうか、あるいはそれ以下か。

数回だけその方とDMで言葉を交わすこともあったが、それだけだった。


そして2023年のある時、気づけばboothで販売されていた3Dモデルはすべて取り下げられており。

あとは文頭に記した通りである。


ここまでが、私の知っている事実(実際に起きたこと)だ。

ここからは先は、確たる情報がない中で、私がただ感情を書き残していく。


今となっては、誰が悪かったのかも分からない。誰も悪くなく、誰かが責任を負うことでも無かったのかもしれない。

ただ、そうだとしても、私自身の理性が「それは違う」と否定するのを分かっていて、そのうえで、この言葉だけはここに書き残さずにはいられなかった。

「お前達の振り翳した正義が、1人のクリエイターに止めを刺したのではないか?」と。


悪いことは悪いと言うべきだ。確かにそうだ。
悪いことをしてしまったら反省するべきだ。確かにそうだ。

しかし、曖昧だった表現によって、当事者と関係の無い外野が煽り騒ぎ立てたことによって追い込まれ、その結果として道が絶たれてしまったように思えてならない。

もちろん、そうでは無いと信じたい。信じたいのだが。

事実を目にしてしまうと、あまり冷静では居られない。


クリエイターでないただのいち消費者の身である私が、彼または彼女に何かかけられる言葉はあったのだろうか。それで何かを変えられたのだろうか。分からない。

ただ、少なくとも上げる声が足りなかったのは間違いなく。私は「また」失敗したのか、と自分の行動を悔いてしまう。


今回の件とは少し違うが、VOCALOIDを用いて様々な作品を公開したり、そこから派生してアーティストとなっていた方が若くして亡くなってしまった。

私はその方の楽曲が大変好みだったが、その人に対してその感情を十分に伝えることができないままに、先立たれてしまった。


少なくとも、あの人に私からもっと声をかけるべきだったのだろうか。

けれど、あれはあくまでも当事者と権利者が話し合うべき(実際そうなったと思われる)問題だし、私を含め外野が口を出すべき問題ではないのもまた事実であり。

1人のファンとして、何をするべきだったのか。
むしろ経過を見守るしかなかったのか。

ただただ、なにも出来なかった自分が悔しい。




これは別にVRChatに限った話ではないが、

叩ける対象を見つけては挙って叩こうとして、直接のリプライであれ空リプライであれ論破するなり玩具にして満足し、相手のその後については何の責任も持たずにその場を去っていく人々へ。

あんたの軽率なその一言で、仮想の存在が死んでいく。あるいは、現実の人までもが死んでしまうかもしれない。


周りが同じことをしているから、軽い気持ちで、自分も、と便乗して騒ぎ立てる人々へ。

度が過ぎれば、それは世界規模でのいじめを特定の個人に対して行っているのと同じではないのか?


相手がどんな暴論を振りかざす人であれ、ルールを守っていない人であれ、それを「批判」「指摘」するだけに留めず、相手に対して暴言を吐いたり、相手の人格を否定するような発言をする人々へ。


その言葉を口に出す前に、

ツイートのボタンを押す前に

少しでいいから「その後」のことを考えてくれないか?


自分には関係ないと思っているのかもしれないが、直接本人に届いていないならいいと思ってるかもしれないが、あんたの言葉が相手の居場所を、相手の命を奪うかもしれないんだぞ?


考えてみてほしい。

自分の発信した内容が直接叩かれるに留まらず、自分の存在を否定するような内容の通知が無数に届いたり、タイムラインを見ると自分のことかもしれないと思わされるような文面の数々が並んでいたりしたら?

もう、SNSを使うのが怖くなってしまうと思う。周りの人間が裏ではSNSで自分への悪口を言っているのではないかと思えて、人間不信になりかねないかもしれない。


いつからこの世は、こんなにも失敗が許されないような空気に満ち溢れるようになってしまったんだろうか?


だからこそ、言葉を発する時は、「それを聞いた相手のその後」についても、考えてあげてほしい。そのうえで、発する言葉を選んでほしい。


それが、自分の分身とも言えるアバターの産み手を失い、深い悲しみを背負った、私からの願いだ。


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