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ポジネガの蛇口と浴槽


もう無理だ。
と思って、家の近くの銭湯に出かけた。


会社終わりの6:30、まだ蒸し暑い中をすっぴんジャージでチャリを漕ぐ。

暑いしイライラするし、頭の中では会社での嫌な出来事がちらつく。

勢いよく銭湯に乗り込んだ。
サンダルを突っ込み、小銭を支払い、
半券をおばあちゃんに手渡す。

「ありがとね〜」

ぼやけた声。
ただよう銭湯特有の匂い。
ひんやりとした床に、誰もいない更衣室。

すぐに全裸になり、ドアを開けた。

「貸切やんけ!」

嬉しさに思わず呟く。

「貸切ちゃうで〜」

ついたての向こうのシャワーから顔を覗かせてオバちゃんが言った。
貸切じゃなかった。
恥ずかしくて全裸で会釈。

かけ湯をして、そろりと足から湯に浸かる。



溶けた。



風呂に入った瞬間、自分のイライラや不満が、
全部溶けていった。


お風呂は偉大だ。
無防備に体を緩ませ、暑い湯に浸かることがこんなにも気持ちいいとは。
すごく原始的な喜びを感じる。
声にならない声をあげて、縁に頭を預ける。


「気持ちええな〜」

先ほどのオバちゃんが風呂場を出て行きながら声をかけてくれた。

壁の向こうの、おっさんの汚い声。
浴室に響き渡るテレビ。
大阪の銭湯。


めちゃくちゃ気分が良くなって、帰りは行きの倍の時間をかけて帰った。

コンビニで買ったスイカバーを食べる。
夜の空気の匂いがして、幸せを感じた。

「めっちゃ良い日やー」

帰ってすぐ寝た。


ネガティブの蛇口が小さいのだろう。
この話をしたら、友人にそう言われた。

少しづつ溜まって、イライラはするけれど、
ポジティブの蛇口がデカすぎて、それをかき消してしまうのだ。
心の浴槽と、感情の蛇口。

(なんなら、その浴槽もすごく浅んだと思う。)
(すぐに満杯になる。)
(寝湯ぐらいしか無い。)



次に引っ越す時は、お風呂の広い家にする。


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