見出し画像

ブックオフ追想


 ブックオフと聞くと、どうしても心はバンドをやっていた2008年前後に飛んでいく。
 
 バンドを始めてすぐの頃、スタジオの後に高円寺の安居酒屋でよく飲んだ。そんなときよく僕らが話すのは本のことだった。ベースのSは小説が好きで、その頃はドストエフスキーを読んでいた。ドラムはまだ専門学校生だったから、僕たちよりももっとお金がなかった。彼は「105円コーナー以外はブックオフじゃねえっすよ。」とよく言っていた。
 ライブの行き帰りや、待ち合わせまでの少しの時間にも僕らは、ブックオフにふらっと立ち寄った。お互いお勧めの本を教えあい、そして、それらは大抵105円で買えるのだった。

 好きなミュージシャンやアイドルが1ページでも載っていれば買っていた音楽雑誌やテレビ雑誌。発売日に新刊で買って、高円寺の居酒屋でメンバーに見せびらかした蒼井優の「今日、このごろ」。筒井康隆の「旅のラゴス」、「七瀬ふたたび」。ドストエフスキーの「死の家の記録」、「地下室の手記」。これらは全部、いまもブックオフで110円で見つけることが出来る。これらの本を見かけるたび、あの頃の彼らの顔が浮かんでくる。ブックオフは、さながら僕の記憶の書庫のようだ。5円高くなったその値段だけが妙に時間の流れを感じさせる。みんな元気でやっているだろうか。
 たった110円で思い出すことが出来る思い出。その安さと気楽さが、今の僕にはなんだか愛おしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?