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品品喫茶譚 第40回『福井 恐竜と蕎麦と寿司と』

夏に発売された「サイコロきっぷ」をその使用期限ギリギリの十月末に使って、福井に行ってきた。そもサイコロきっぷとは何ぞ、という話なのだが、これはJR西日本が発売したもので、一回五千円でサイコロを回し、当たった目の街に行けるという代物である。行先としては、芦原温泉(福井で途中下車可)、倉敷(岡山で途中下車可)、尾道、白浜、東舞鶴(西舞鶴で途中下車可)、餘部(城崎温泉で途中下車可)、割引率からいっての大当たりが博多といった感じで多岐にわたっていて、どの街に当たったとて、往復五千円(大阪発着)で行けるのはむっちゃお得だという、そんな大判振る舞いの切符なのであった。
で、引き当てたのが芦原温泉だったのだが、私はいままで行ったことのなかった福井で喫茶店巡りがしてみたくなり、途中下車ということになったのである。
調べてみると、福井は恐竜が盛んだということが分かり、一泊二日の旅程のうち、一日目は恐竜博物館というところに行くことになった。
えちぜん鉄道というローカル線に一時間ほど揺られ、勝山という小さな駅からバスに乗り換える。平日ではあったが、家族連れ、カップル、ソロのおっさんと、車内はそれなりに混んでいた。
バスは勝山の町のローカルなバス停を何個か通過し、やがて小高い丘を登り始めた。丘の途中には公園のようなひらけた場所や化石発掘体験ができるスペースなどがあり、近くの幼稚園の園児たちが芝生にシートを敷いて、弁当を食べていた。恐竜博物館は来年、建て増しというか、リニューアルが決まっており、まさに新しい建物をズコバコ建造中で、なんというかこの施設の人気と勢いを感じた。駐車場も満杯になっていた。
博物館内は結構な人出があり、レストランでまず昼食を、と思ったものの結構待ち時間が発生していた。館内を出てしばし、敷地内にあるお土産屋とイートインスペースの入った建物、夢の国でいうところのイクスピアリみたいな場所でお茶をしながら順番を待った。
あっという間に時間となり、レストランで化石を模したハンバーガーのセットを食べ、いよいよ館内を散策する。
エントランスから地下へと続く長いエスカレーターを降りると、広大な展示スペースが広がっていて、特に恐竜の骨格が所狭しと並べられたフロアは圧巻だった。骨格には本物もあれば、レプリカもあり、さらに恐竜のロボットに3D映像と、盛り沢山である。真剣に見ていけば一日仕事になるだろう。
後ろからこんな声が聞こえてきた。
「これさっき俺が馬面じゃね?って言ってたやつと同じじゃね?」
フロア内にはカップル連れが多い。そしておしなべて男の方がこんな感じで馬鹿っぽく、女の子の方は話を合わせる、みたいなことが多かった。
こういうとき阿呆ぽくなってしまうのは宿命なのだろうか。
ミュージアムショップではこんな声も聞いた。
「恐竜はもういいよ!」
家族連れの父親の発言であった。
気持ちはわからなくはないが、恐竜博物館でそれを言ったらおしまいじゃね?
 
勝山から再び鉄道に乗って、福井市内に戻るころにはすっかり夜の帳が降りていた。
勝山駅では観光客しか乗っていなかったのが、市内に近づくにつれて、仕事人や学生などの姿が増えてくる。私は観光地に実家があるので、なんというかこういう電車をその街に暮らす人が使っているのを見ると、嬉しくなるのである。また、彼らからしたら、観光客をちょっと疎ましく思ったりもしているのかもなあ、などと邪推してみたりもする。
一日目の夜はホテル近くの繁華街を歩き回ることにした。
フロントでチェックインをすますと、ホテルにはなんと宿泊者限定のラウンジがついているという。聞けばそこにはウエルカムドリンクが用意されており、なんならワインや日本酒の一杯も無料で飲めるらしい。
街に出る前にここで一発、ジュースを決めていこうと思った。
ラウンジの入口は防犯のために電子ロックが施されているけども、番号はフロントで教えてくれるので心配はナッシングということだ。
部屋に荷物を置き、軽装になる。首尾よくフロントで番号を聞き、電子ロックを押す。しかし一向に解錠されない、どころか、うんともすんともいわない。焦っている姿を見かねた近くのスタッフの方が来てくれたところ、私はずっと電子ロックのパネルではなく、その上に張られていたパネルの操作方法のラミネート紙の方のボタンを必死こいて押していた。
私はたまにこういう天然をしでかすことがある。恥ずかしさをごまかすようにへらへら笑って、ラウンジにてジュースを決めた。
 
繁華街を結構な時間ふらふらし、ようやく一軒の蕎麦屋を見つけて入った。越前そばというやつである。注文すると、おばさんが
「大盛りそば、いっちょねー」
と、一丁を「ちょっちゅねー」の言い方で言った。
そばは美味しかった。珍しくビールの中ビンも注文した。
店を出ても、まだなんとなく腹がくちた気がしない。
再び結構な時間をかけて街を歩き、いい感じの寿司屋を見つけて、思わず入った。
回らないやつである。
入ったはいいが、どうしていいかわからない。
見かねた大将が
「つまみますか? 握りますか?」
と言った。
かっこよかった。
握ります、と答え、握りの盛り合わせと地酒が来たところで、かにみそを注文し、じゃあつまむんじゃねえか、みたいな感じになったのだが、大将は何も言わなかった。ただただ美味かった。日本酒一杯ですっかり酔った。
まだ喫茶店が出てこない。こんなことが最近多い。でも大丈夫。明日は朝からレンタサイクルを使って福井の喫茶店をめぐるつもりである。
馬鹿の一つ覚えのようにラウンジにまた行って、寿司屋で飲んだものとは違う種類の日本酒を一杯決めて、就寝した。

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