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『尾道滞在記①』

京都から尾道は新幹線と在来線で二時間くらいの距離だ。数年ぶりに訪れた尾道は懐かしさはもとより、それに輪をかけて変わってしまったことのほうが目についた。新築された駅舎は元より、尾道城と千光寺公園の展望台の消失はこたえた。木曜日休みのお店が多いうえに、広島県に発令されたまん防のため、商店街のほとんどの店のシャッターが閉まっている。人もまばらだ。
今日から一週間、ライターズインレジデンスという企画で千光寺公園近く傾斜の上に建つ「みはらし亭」の八畳間に滞在し、文章や歌をものしたり、ごにょごにょする予定になっている。文章の仕事を色々いただくようになってから、何回か自主カンヅメと称して、家の近くのホテルや旅館に滞在し、文章を書くということをしていた。己を半強制的に書く環境に放り投げることは、注意散漫、すぐに気持ちが浮つく自分を集中させるのに効果てきめんだったし、何より「まんが道」の漫画家たちのような旅館カンヅメにうすぼんやりと憧れていた気持ちも満足させた。そういう意味でも今回の企画はばっちりである。

部屋に到着して荷物を置くと早速、古本屋・弐拾dBの藤井君に尾道に着いた旨をメールした。たまたま店が休みだった藤井君とすぐに合流し、チェーン店と純喫茶半分半分というか、ほとんどチェーン店みたいな喫茶店に行ってお茶をした。一時間ちょいくらいだったろうか。身のない話というか、至極どうでもいいような話ばかりして楽しかった。

藤井君と別れ、千光寺の石段を登る。少しだけ雪が降っていた。到着した時は荷物がそれなりにあるために息切れしたのだとばかり思っていた石段が、軽装の自分にも襲いかかる。これを一週間登ったり降りたりするのかと思うと、気が遠くなる。ひーひー言いながら部屋に帰り、ポプラで購ったお菓子やおにぎりをほけーと食している間にあっという間に夜になった。

八畳間にはこたつがひとつ。窓からは尾道の街を一望できる。これで何も書けなかったら相当だと思うけれど、仮に何も書けなかったとしても、石段を降りる途中で猫が「にゃーにゃあ」いって寄って来てくれたから、もうそれだけで来た意味はあったようにも思える。

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