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【舞台】SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~(2022年2月6日)

ブロードウェイに負けじとトーキー映画にチャレンジするハリウッドの様子、を描いた映画を、ブロードウェイが舞台化した、っていうのを渋谷でコロナ禍に観劇する、っていう喜び・・・。


アダム・クーパー、もう50歳なのか・・・。確かに往年のキレッキレと比べるとアレだけど、でも最後となる今回の公演で来日して、何とか幕があがってよかったよ・・・。講演開始時の1月はまるっと中止になってしまったようで、運よく2月公演チケットだったのでみることができた。

ミュージカルはあんまり馴染みがないけど、幕が開いた瞬間に、「あ~、ブロードウェイだ~~!」という思いだけで涙が出そうに・・・。いつになったら海外に行けるのかな・・・。

映画では、無声映画のスターたちに対して、ヒロイン・キャシーが「いまの映画俳優は歌もダンスもセリフもできてない。舞台俳優こそが俳優」のような持論をだしつつ、時代はトーキー映画隆盛に・・・。主人公ドンと盟友コズモのドサ回りや名曲「Make a laugh」「Good Morning」などとともに二人の恋も盛り上がり、ついに例の表題曲は中盤で出てきてテンポがいい一方、後半はトーキー映画のアイデアを劇中劇のように流していて尻すぼみ、っていう感じだった。私は特に「Make a laugh」が好きなので、あのスリリングな展開を舞台でどう表現するのかな、と思ったら、素晴らしいもののまあそりゃあの危険な動き全部をそのまま再現するのは無理だよね、という”及第点”という感じの印象だった。

一方、後半の劇中劇は、映画ではブロードウェイへのあこがれをそのまま何とか再現しようとしたけど・・・、という見ていて興ざめするようなかったるいパートなのだが、ミュージカルにおいては「映画で描かれていたブロードウェイへのあこがれを、本当にブロードウェイで再現しました~!」っていう圧倒的なクオリティで、まさに、映画/ミュージカル、というそれぞれのフォーマットを生かした演出。それぞれの良さを改めて実感したいいミュージカルだった。これぞミュージカル、っていうチラシの煽り文句はある意味その通りだなあ、と思いました。

日本の観劇マナーを海外と比較できないし、このご時世なのに喋り散らす観客も多々見受けられるものの、満席に近い状態で一体となってミュージカルを体験できるのは、本当に演者はもちろん、製作スタッフ、劇場スタッフすべての細かい積み重ねのおかげだなあ、と思う。トイレを誘導する、館内を清潔に保ちこまめに清掃する、グッズコーナーの運営、チラシの管理、などなど上げたらきりがないくらいたくさんの細かい仕事を徹底するためには、やはりコスト・期間の充足が必須だろう。

韓国エンタメの強さと日本を比較して「日本はお金がない」と言われるようになってきて久しいが、それはなにも「豪華なセット」「リッチな俳優」などを指すのではなく、しっかり準備できる期間(=関係者は有償で参加)や各分野の専門スタッフ(=しっかりした価格)を手配するための「お金」がない、という意味だろう。小道具の傘だってオリジナルでいくつも用意するためにお金がかかる。水が安全にかつ美しく演出に生きるようにするためには何度もリハーサルを繰り返す必要があり、そのたびに水のコストはもちろん、片付けるスタッフの確保、セットの予備などの手配も必要だ。そしてその間の劇場コストも。トイレの導線を確保し必要な位置に誘導スタッフを設けるだけで、清掃とは別に数人のスタッフ代が必要だ。そうした一つ一つの積み重ねで、私たちはエンタメを楽しむことができる。チケット代は決して安くないが、海外ミュージカルが日本でこんなに楽しめるならそれは見合っているように思う。

安い=企業努力、と慮って喜んできたけれど、企業努力の裏側に「誰かが泣いている」という構図があるのだとしたら、もう景気が悪くなって30年以上たつわけなので、そろそろちゃんと対価を支払うべきだと思う。当たり前のことだ。その当たり前のことをしないでは、何も始まらないのではないか。



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