見出し画像

上司の一言が教えてくれた、長く愛されるパン作りの秘訣

若い頃、飲み会で「いつかお店をやりたい」とぼんやり呟いたことがあります。すると、上司に「お前は飽きっぽいから独立には向いてない」と言われました。あれから20年以上が経ち、今振り返ると、上司の言葉は正しかったのかもしれません。

最初に働いていたチェーン店では、一度商品を出したら、たとえ一人でもその商品を求めるお客様がいれば作り続ける、というルールがありました。その中で、1日に1〜2個しか売れないパンがありました。それが「よもぎあんぱん」です。店長になったある時、発注をうっかり忘れてしまい、「たまにはいいか」と1週間ほど販売を中止しました。すると毎日のように「よもぎあんぱんはないの?」とお客様から聞かれるようになり、実はそのパンを目当てに来店していたお客様が少なからずいたことに気付かされました。声に出さなくても、その存在がどれほど大切だったのかを思い知った瞬間です。

それ以来、メニューを見直し、「よもぎあんぱん」を目立つ場所に移動し、あんぱんをメインメニューとして売り出すことにしました。チェーン店では、メーカーの商品を取り入れればパンの種類を増やすことができます。つぶあん、こしあん、ずんだ、さつまいも、紫芋、コーヒーあんなど、さまざまなあんぱんを揃え、一大フェアとして売り出しました。その結果、客層が高めのお店でも大成功を収め、売上もかなり伸びました。

しかし、フェアが終わり、あんぱんをいつもの定位置に戻すと、毎日のように「あのあんぱんはもうないの?」と聞かれるようになったのです。

「一度商品を出したら、たとえ一人でもその商品を求めるお客様がいれば作り続ける」というルールが、今度は重くのしかかってきました。

上司の「飽きっぽい」という指摘は、毎月新しいフェアを打ち出すのには向いていても、ロングセラーを育てるには向いていないと、自分に気づかせてくれました。

それ以来、自身の方針を転換し、一つ一つの新商品をしっかり売り出すことに重点を置き、ロングセラーをどう育てていくかを考えるようになりました。

人は誰かに言われて初めて気づくことがあります。今の私のスタイルがあるのも、この時の経験があったからこそです。

今のメニューは、半分以上が5〜6年続いているものです。さらに、3〜4種類は10年前のオープン当初から変わらず提供しているメニューです。少しずつ変化はしていますが、時代に合わせながらも、大きな変更はありません。変わっていくのも良し、変わらないのもまた良し、という考えで続けています。

上司の一言に感謝。

そんなお話です。




よろしければサポートお願いいたします!いただいたサポートは新しいパンの試作食材の仕入れなどに使わせていただきます!