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M&Aを活用した事業成長の可能性|事業再構築コース#4

こんにちは、「ネイバースクールSETAGAYA」の事業再構築コースを担当している高橋秀紀(通称:ヒデさん)です。8月から隔週で実施しているネイバースクールSETAGAYAの、第5回の様子をお伝えします。

これまでの開催の様子はこちら↓

志は、持つだけでなく広げていくためにある

事業再構築コース5回目のテーマは、「M&Aを活用した事業成長の可能性」。株式会社バトンズの鈴木安夫様(以下 鈴木さん)、宮原弘樹様(以下 宮原さん)を講師にお迎えして開催しました。

今回は事業再構築コースのちょうど折り返し地点。
これまでは、事業の目的に焦点をあて、参加者のみなさんの「もっとお客様の役に立ちたい、よりよい社会をつくっていきたい」という想い、つまり“志”をブラッシュアップしてきました。

ここからは、その素晴らしい志(目的)をどうやって事業化(=ビジネス化)していくのか? という方法に焦点をあて進めていきます。

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小規模事業者が事業プランを描くときに問うべき大事な問い、
「自分ができる範囲だけで描くのか?」
それとも
「自分ができる範囲を超えて描くのか?」

事業化の意義のひとつは、志を継続していくこと、もうひとつは志を広げていくことだと私は考えています。素晴らしい志は、持つことではなく、継続して広げていくためにあるのではないでしょうか。

その観点でいうと、目的の実現に不足する資源があれば調達し、さらには自分にはない資源を使ってさらに魅力ある事業をつくっていく。そんな事業再構築プランが考えられるでしょう。

このような資源調達の選択肢として効果的なもののひとつが、今回のテーマである「M&Aの活用」です。

いまM&Aは、事業の継続や発展を目的とした業務提携や資本提携のひとつの形態として、中小規模の事業者、さらには個人事業者でも活用している事例が増え、身近な経営の選択肢になりつつあります。事業再構築のプランニングにおける、思考の枠を広げてみてはいかがでしょうか。

今週のチャレンジピッチ

さて今回のピッチ、トップバッターは株式会社中村商会の中村さんです。
https://www.fortmarket.jp/

中村さんは、三軒茶屋と和泉多摩川(狛江市)でシェアキッチン「FORT MARKET」を運営し、今年12月には横浜市青葉区でも開業、同月に食のECビジネスがはじめられる場所も開設……と、順調にビジネスを展開しています。

「FORT MAKET」は、“私のビジネス”をはじめる場所という観点で、飲食業のインキュベーション施設でもあります。中村さんが解決したいことは、「三軒茶屋店から独立したあと、近隣で開業する飲食店」を増やすこと(4年間で三軒茶屋近隣に開業した店舗は1軒、1年半で和泉多摩川近隣に開業した店舗は8店)。

行政や区内の企業、そして金融機関などと提携して、「世田谷区内での飲食業開業の壁を乗り越えられる、新しいインキュベーションの仕組みづくり」を構想しています。

続いて、大黒屋の浅沼さん。
https://sancha-arare-daikokuya.com/

浅沼さんは、今回が2回目のチャレンジピッチ。これまで構想してきた新事業から一転して、既存事業(とくにEC事業)を強化し、既存事業の売上を2倍にする事業再構築プランを構想していくことになりました。

この方向転換のきっかけは、ブラッシュアップセッションで「これまでは、煎餅事業は頭打ちで伸びしろが少ないと判断して新しい事業を模索していたけれど、自分の頑張り次第で、まだ既存事業を伸ばすことができると思った」から、とのこと。

M&Aは、中小・個人事業者の新たな選択肢

チャレンジピッチのあとは、講師の鈴木さんの登場です。

中小規模の事業者、そして個人事業者によるM&Aが増えている背景など、「スモールM&Aの現状」をお話しいただきました。

背景の1つ目は、事業承継の有力な選択肢としてM&Aが普及したから

日本における「廃業・解散の件数」「経営者の平均年齢」は右肩上がりで、その背景にはいわゆる後継者不在の問題があります。また廃業・解散した事業者の中身は、なんと60%以上が黒字損益の企業ということでした。

黒字(=お客様や社会の役に立っている)の会社が、後継者不在を理由に廃業や解散に追い込まれていくのは、誰が見ても残念なことですよね。M&Aは、親族や社内だけではなく広く後継者を見つけられる手段となり、普及の要因につながったそうです。

2つ目は、国がM&Aの効用を認め、行政としてバックアップするようになったから

後継者不在の問題ばかりではなく、リスクを嫌う日本の国民性からか、開業率が他国と比べて低いという問題。また、人材の流動性の低さから経営資源が限られ、大胆な新規事業展開の遅れによる生産性低迷の問題。

こういった問題の解決にもM&Aは有効に機能するそう。さらには、「事業承継引継ぎ補助金」など、M&Aを慎重に進めれば進めるほど必要になる経費の支援も厚くなり、M&A活用が促進されているとのことでした。

3つ目は、今回の講師バトンズに代表されるように、マッチングサービスが充実したから

事業者の数の増加によって、自ずと市場も広がり、希望の相手を見つけられる可能性が高まってきたこと。そして、中小企業、個人事業者でも使いやすいサービスレベルになったことが大きいようです。

例えば、これまではM&A=「株式の譲渡」という形態がほとんどだったそうですが、今は「事業譲渡」という形態でもスムーズに進めることができるようになってきたようです。
(事業譲渡の意義は、株式会社という形態の“法人”だけではなく、“個人事業者”の事業も譲渡できること。飲食店を3店舗持つ法人が、1店舗だけ譲渡することも可能)

譲る側も引き受ける側も幸せになる、未来への道筋

お気付きの通り、「M&A=乗っ取りや買収(一方の思惑のみで成立させようとするもの)」という世界はどこにもありません。

世の中にネガティブな印象を与えているのは、一部の報道やドラマの影響かもしれません。そもそも大多数のM&Aは、双方の合意のもとで成立している健全な世界です。双方の合意が生まれる構造は、引き受けたい側よりも譲り渡したい側の数が圧倒的に少ないという売り手市場。そして、スモールM&Aは非公開株式または事業譲渡がほとんどなので、好まない相手に譲り渡す必要がないのです。

最後に、スモールM&Aの事例を紹介いただきました。印象的だったのは、広島尾道にある昭和5年創業の後藤鉱泉所(サイダーの製造販売)さん。

1本1本手作りしている主力商品の「マルゴサイダー」は、現地でしか味わうことができない幻の一品です。このサイダー屋さんを譲り受けることになったのは、なんと地元広島の自治体の公務員の方。公務員時代に、まちづくりや地域活性化に関わる仕事を務め、後継者不在で地域から宝物のような事業が消えていく光景を何度も目にしていたそうです。

前オーナーさんは齢80歳。事業譲渡が決まった後に撮影されたツーショットのあふれんばかりの笑顔には、人生をかけて継続してきた、想いがたくさん詰まった事業を信頼できる人に譲り渡すことができた幸福感があふれていました。

譲る側も引き受ける側も双方が幸せになれる、誰もが手をたたいて祝福したくなるような好事例。個人的に、この事例は、ネイバースクールで同時開催されているスタートアップコース参加者にも知ってほしい話でした。

スタートアップの一つは自分で考えた事業をゼロからはじめる0→1のパターン。もう一つは、既にある事業を引き継いでさらに発展させていく3→10のパターン。M&Aは、既にある事業者同士の掛け算だけではなく、スタートアップの新しい形態でもあるのではないでしょうか。


文=高橋秀紀(ネイバースクールSETAGAYA・事業再構築コース ディレクター)


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