【第三話】ユキ
健作はさがしい若ぇこでな、村の本こだなんだは読んでしまっだのや。
だば隣の村さ借りさ行ぐべってなっで、村の村長と一緒に行っだんだぁ。
村長がよ、あの岬さ差し掛がっだどぎに、小便さ行きでって言って、林の中さ入って行ったど。
残っだ健作はぁ、岬から海を見でらっだのよ。
死んだ父ちゃ母ちゃは海さいるんだべが。
それども雲の上さいるんだべが。
そっだらごどを考えでらっだんだぁ。
ふと後ろに、肌っこが白くて髪の長い女がいるごどに気づいだんだ。
村にはいねよんた、美しい女だっだのよ。
「おらさ何が用が?」
健作が話しかげっど、
「この岬さ何しさ来た?」
と女が言っだがら、
「用はね。隣村さ行ぐのだがら、寄っただげだ」
と、健作は答えだんだ。
「今日は峠さ行ぐな」
「なしてだ。峠はぁ越えねば隣村さは行がれね。まだ明れし、天気もいい。なして峠さ行がれねのす」
「峠さは行ぐな」
女がそれしか言わねがら、健作が困ってらば、村長ば来た。
村長を見だらば、そのうぢに女は消えでらっだど。
「今、女がいで、峠さは行ぐなって言っでらけど、なじょす」
と、健作が言ったらば、
「なしてよ。まだこんなに明るかべ。すぐ用は済むがら、行くべ」
と、村長は歩き出したんだど。
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健作は本を借りで、村長は用を足したんだけんども、思ってだより遅くなっだのよ。
急に雲が出でな、木々の陰もあっで、峠はあっどいう間に暗ぐなっだのさぁ。
二人は恐々歩いてらったっけ、そこに山賊が出だのさぁ。
あぁ、しくじっだじゃと思ったけんどもあとの祭りでよぉ、村長は切られで、健作は必死に逃げだけども、足を滑らせで川のほさ落ぢでったのさぁ。
健作が気づくと、薄暗い小屋さいだっだのさぁ。
岬で会った女がそばさいで、手当をして寝がせでくれでだのす。
「おめさ、手当ばしてくれたのす? ありがで。おらは健作だ。おめさ、名めは?」
「名めば覚えでね。ずっど昔ばあった気さするべども、今はね」
「んだが。名めねぇんだば、都合悪ぃべ。なじょ呼んだらえがべが」
「んだば、ここは雪目と呼ばれでらがら、ユキと呼んでけれ」
健作ば足の怪我が治るまで小屋さいで、村さ帰ることにしたど。
「ユキ、おらの村さ来ねが。女一人で心細がべ。村で暮らすべ」
「健作ばついて行きてがべども、おらさは夫がいるじゃ、行がれね」
「夫がいるのが。いづ帰ぇって来るのじゃ」
「わがらね。いづ帰ぇって来るのがも、どごさいるのかもわがらね」
「おがしね夫だじゃ。おらど村さ行ぐべ。ユキば見栄えっこいいべ、村のみんなもたまげるじゃ。行ぐべ」
健作はユキを説得しでな、村さ連れでったのよ。
村人はさぁ、ユキの見目の良ささ驚いで、健作が嫁っこ連れで来だって思っだのさぁ。
ユキは働ぎ者でさぁ、朝は早ぐ起ぎで、夜は遅ぐまで針仕事しで。
健作はユキの寝顔ば見だこどねがっだのよ。
「ユキ、たまにはよぉ、早ぐ寝ねば体おがしねぐなるべじゃ」
「いいのす。眠ぐなっだら寝ら。健作ば気にすな」
いづもそんなごど言っでらのじゃ。
したっけば、ある日の夜、ふと健作が目ぇ覚ますと、ユキが家を出るどごだったじゃ。
健作が追っかげで外さ出るど、そごに大男がいだのじゃ。
目はギョロっとして鼻は大きぐ、髪はぼさぼさで、背丈は家の天井さ届きそんたくらいだったのよ。
蓑を着で、雪の中を歩ぐとぎの雪沓みてのはいでらっだど。
その大男の前にユキが立ってでよ、
「健作、おら帰らねばね」
と言っだのす。
健作は怖ぐで声が出ねがっだのす。
「今年は雪がわんさか降るがらよ、気ぃつけでや」
ユキはそう言っで、大男と消えで言ったのさぁ。
その年の冬、はぁ雪がすげくて、みんな食い物やら火やらさ困ったんだけんども、健作は前もって余すほど用意しでらがら、村の人さ分けでけでらのさぁ。
春になっで、健作はたびたび岬さ行ったけども、ついにユキとは会えながっだんだど。
村の外さ行っで会っだ女さば気をつけるんだぁ。
女らは山男の妻なのす。
村の女が時々消えるのは、山男が連れ去っだのだがらよ。
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