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【第三話】ユキ

健作はさがしい賢い若ぇこ若者でな、村の本こだなんだは読んでしまっだのや。

だばならば隣の村さ借りさ行ぐべってなっで、村の村長と一緒に行っだんだぁ。
村長がよ、あの岬さ差し掛がっだどぎに、小便さ行きでって言って、林の中さ入って行ったど。

残っだ健作はぁ、岬から海を見でらっだのよ。

死んだ父ちゃ母ちゃは海さいるんだべが。
それども雲の上さいるんだべが。

そっだらごどを考えでらっだんだぁ。

ふと後ろに、肌っこが白くて髪の長い女がいるごどに気づいだんだ。
村にはいねよんたいないような、美しい女だっだのよ。

「おらさ何が用が?」

健作が話しかげっど、

「この岬さ何しさ来た?」

と女が言っだがら、

用はね用はない。隣村さ行ぐのだがら、寄っただげだ」

と、健作は答えだんだ。

「今日は峠さ行ぐな行くな

なしてだどうしてだ。峠はぁ越えねば越えないと隣村さは行がれね行かないと。まだ明れし明るいし、天気もいい。なしてなんで峠さ行がれねのす行けないのか

「峠さは行ぐな」

女がそれしか言わねがら、健作が困ってらば、村長ば来た。
村長を見だらば、そのうぢに女は消えでらっだど。

「今、女がいで、峠さは行ぐなって言っでらけど、なじょすどうしよう

と、健作が言ったらば、

なしてよなんでだ。まだこんなに明るかべ。すぐ用は済むがら、行くべ」

と、村長は歩き出したんだど。

♦︎♦︎♦︎

健作は本を借りで、村長は用を足したんだけんども、思ってだより遅くなっだのよ。
急に雲が出でな、木々の陰もあっで、峠はあっどいう間に暗ぐなっだのさぁ。
二人は恐々歩いてらったっけ、そこに山賊が出だのさぁ。

あぁ、しくじっだじゃまずいことになったと思ったけんどもあとの祭りでよぉ、村長は切られで、健作は必死に逃げだけども、足を滑らせで川のほさ方に落ぢでったのさぁ。

健作が気づくと、薄暗い小屋さいだっだのさぁ。
岬で会った女がそばさいで、手当をして寝がせでくれでだのす。

おめさお前さんが、手当ばしてくれたのす? ありがで。おらは健作だ。おめさ、名め名前は?」

「名めば覚えでね覚えていない。ずっど昔ばあった気さするべども気がするけど今はね今はない

んだがそうなのか名めねぇんだば名前がないならば、都合悪ぃべ。なじょなんて呼んだらえがべがいいだろうか

んだばなら、ここは雪目と呼ばれでらがら、ユキと呼んでけれ」

健作ば足の怪我が治るまで小屋さいで、村さ帰ることにしたど。

「ユキ、おらの村さ来ねが。女一人で心細がべ。村で暮らすべ」

「健作ばついて行きてがべども行きたいけど、おらさは夫がいるじゃ、行がれね行けない

「夫がいるのが。いづ帰ぇって来るのじゃ」

わがらねわからない。いづ帰ぇって来るのがも、どごさどこにいるのかもわがらね」

おがしねおかしな夫だじゃ。おらど村さ行ぐべ。ユキば見栄えっこいいべ、村のみんなもたまげるじゃ。行ぐべ」

健作はユキを説得しでな、村さ連れでったのよ。
村人はさぁ、ユキの見目の良ささ驚いで、健作が嫁っこ連れで来だって思っだのさぁ。

ユキは働ぎ者でさぁ、朝は早ぐ起ぎで、夜は遅ぐまで針仕事しで。
健作はユキの寝顔ば見だこどねがっだなかったのよ。

「ユキ、たまにはよぉ、早ぐ寝ねば体おがしねぐなるおかしくなるべじゃ」

「いいのす。眠ぐなっだら寝ら。健作ば気にすな」

いづもそんなごど言っでらのじゃ。

したっけば、ある日の夜、ふと健作が目ぇ覚ますと、ユキが家を出るどごだったじゃ。
健作が追っかげで外さ出るど、そごに大男がいだのじゃ。

目はギョロっとして鼻は大きぐ、髪はぼさぼさで、背丈は家の天井さ届きそんたそうなくらいだったのよ。
蓑を着で、雪の中を歩ぐとぎの雪沓みてのみたいのはいでらっだど。

その大男の前にユキが立ってでよ、

「健作、おら帰らねばね」

と言っだのす。
健作は怖ぐで声が出ねがっだのす。

「今年は雪がわんさか降るがらよ、気ぃつけでや」

ユキはそう言っで、大男と消えで言ったのさぁ。

その年の冬、はぁ雪がすげくてすごくて、みんな食い物やら火やらさ困ったんだけんども、健作は前もって余すほど用意しでらがら、村の人さ分けでけでらのさぁ。

春になっで、健作はたびたび岬さ行ったけども、ついにユキとは会えながっだんだど。

村の外さ行っで会っだ女さば気をつけるんだぁ。
女らは山男の妻なのす。
村の女が時々消えるのは、山男が連れ去っだのだがらよ。

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