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『近畿地方のある場所について』の話 4

私が『近畿地方のある場所について』を書くに至った裏話的なものです。
本編を知らなくてもお読みいただけます。
※Xより転載


 寺の僧侶をしている父は幼い私に「こっくりさんだけはするな」とよく言っていました。 最初にそう言われたとき、興味津々で訳を聞きました。やっぱりおばけの祟りや呪いがあるのかと。 父は少し考えた後言いました。
「それは正直わからないけれど、腰と喉を痛めるから」
 その答えに意表を突かれたのを憶えています。 一般的に、お祓いと言えば神社をイメージされる方が多いかと思いますが、少ないながらもお寺にもそういった相談は来るのだそうです。 父も何度か「応援」としてそういった現場に居合わせたそうです。
 なぜ、「応援」が必要かというと、こっくりさんに憑かれた状態、いわゆる狐憑きの状態の方はとにかく動きまわるのだそうです。さながら動物のように。 それを物理的に抑える人が必要なため、お祓いには二人以上で臨むことが多いそうです。
 あるときは、狐憑きの女性が四つん這いのまま父の腰より高い位置に飛び上がったのを見たそうです。 狐憑きとは言いますが、狐が憑依しているのかどうかは定かではなく、狂暴な犬のようにも、狐のようにも、猫のようにも見える動きをするそうです。 ときには噛みつかれることもあるといいます。
また、四足歩行と同じくらい多い例が「蛇」だと言います。 寝そべった状態で手足を使わずにすごい速さで床を這いまわるのだそうです。
「蛇のときは目が冷たいから本当に怖い」
 そう父は話していました。
 狐憑きの状態の方は皆、大声で鳴くのだと言います。 それは人語ではなく、動物の鳴き声のような声や、「シャー」というような威嚇音だといいます。 私はてっきり狐の妖怪が人間に向けて呪いの言葉を吐いたりするのだと思っていましたが、違うようです。ただただ、動物のように鳴き続けるのだそうです。

 ここまで話して、父は言いました。
「そんな動きと鳴き声を何時間も続けているから、正気にかえった後、絶対に腰と喉を痛める。腰は特に一旦痛めるとあとあとまで響くから気をつけろ」
 妙に現実的なアドバイスに私は少々がっかりしました。
 こっくりさんで実際に霊にとり憑かれるのかは定かではありません。 単にヒステリー状態になった結果なのかもしれません。 ただ、霊の存在の有無はどうあれ、腰と喉を痛めたくはないので私はこっくりさんはしないようにしています。


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