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文化観光高付加価値化リサーチ 第四章 ランドスケープ・空間

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「ランドスケープ・空間」は、自然の営み、人々の暮らしや価値観の集積である。そこでしか体験できない地域ならではの自然や街並み、建物・空間があるからこそ、人々はその地域… もっと読む
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文化庁 文化観光高付加価値化リサーチ 第三章〜第六章 全考察・インタビュー目次

第三章 地域文化の固有性第四章 ランドスケープ・空間 - 考察第五章 地域の活動熱量・関わり人口第六章 経済循環

松場忠(石見銀山生活観光研究所代表取締役社長) - “ここにしかない”暮らしを体感する「生活観光」というあり方

「暮らし」は世界に誇れる遺産 「石見銀山生活観光研究所(※1)」という観光の会社を2年前に立ち上げて、コンセプトとして「生活観光」を掲げました。観光という言葉は手あかがついてしまっていて、当時は「なんで観光なの?」と散々言われました。でも語源を考えると、観光の意義はみなさんのイメージとは異なる部分にあると思いました。私たちはこの町での暮らしや生き方、ライフスタイルこそ「光っているものとして見てもらう」ために、あえて観光という言葉を使いたいと思っています。 関東圏内でも自然

松場登美(群言堂 / 暮らす宿 他郷阿部家) - 家を舞台にした自分たちの物語、宿泊者と一緒にその物語を楽しんでいく

私は「きれい」と「うつくしい」は異なる意味を持つと思っています。一概には言えないけれど、「きれい」というのは表面的なことで、「うつくしい」は内面的なことや、精神性も含めて「うつくしい」と言うと思うんです。 昔の日本の暮らしは廃材すらも捨てず、再利用していたでしょう。それはとても「うつくしい」ことだと思うんです。そういうことの価値や知恵をね、ただ重い説教のように若い人に押しつけてもだめだと思っています。若い人が興味を持ってくれるような楽しさや「うつくしさ」を、私は大事にしたい

平下茂親(SUKIMONO代表取締役社長) - 楽しい「暮らし」の提案が新しい観光を生み出す

そこにあるものをそのまま使う 古民家を改装したHÏSOM(※1)も、窯跡を改装したSUKIMONO(※2)のオフィスも、そこにあるものをそのまま使っただけです。改装に使うのも、もともとそこにあった素材や、解体された家屋から回収してきた建具を使います。建築家としてのエゴはいらないと思っていますし、建築それ自体には興味がないんです。素材はもともと自然にあるものじゃないですか。製品加工されればされるほど、どんどん自然っぽくなくなります。行き過ぎると素材感もなくなってしまいます。た

勝俣美香(富士吉田市役所) - 富士吉田が培ってきた織物産業の魅力に光を


富士吉田は今、移住者や関係人口も含め、若い世代を中心に変わりつつあります。外から来ている人たちは、新しい感性をもって富士吉田の魅力を見つけてくれますし、地元だけでは気づけないまちづくりのアイデアも出してくれます。これからの地方行政にとって、若者たちの感性を生かした町づくりはすごく大切です。新しい意見を柔軟に受け入れ、本当に魅力だと思えることは取り入れていく。私たち行政はそのための環境を整えていく必要があると感じます。 私は地元の人間ですが、地元の人には当たり前の景色であるた

八木毅(SARUYA HOSTEL) - 景色とともにある文化。景観が地域にもたらすもの

“まだ知られていない” 西裏地区の可能性 8年ぐらい前、富士吉田市役所が地域活性を推し進めていく初期段階で、グラフィックデザイナーという立場で呼ばれて移住しました。富士吉田の中心市街地は、かつて繊維業とともに栄えた巨大な飲食店街に漂う古き良き独特の雰囲気と、その飲食店街の中心を通る道路から見渡せる富士山のランドスケープが特徴的です。ある種の廃墟感とともに雄大な表情を見せる富士山は日本でもここだけにしかないものです。 富士山には多くの観光客が足を運ぶけれど、すぐ近くの西裏地

藤田隆浩・平井佳亜樹(西芳寺) - 「自然」「空間」「仏法」が調和する美意識の発信・創造の場

西芳寺の核心は「自然」「空間」「仏法」の3つだと考えています。西芳寺は何万年、何億年単位で形成されてきた「自然」の営みのなかにあります。境内に群生している美しい苔たちは人には左右できない自然の偉大な力と恵みによってこの地にもたらされました。西芳寺の「空間」は、1300年の歴史が織り成す重層性を持っています。時代時代の最新の思想や技術と掛け合わせてそれがまた深まっていく。そして、西芳寺は、法相宗、浄土宗、臨済宗と宗派が変遷してきた歴史がありつつも、聖徳太子に始まり行基、法然、夢

齋藤精一(パノラマティクス主宰 / MIND TRAIL 奥大和 プロデューサー) - 地域をみるための “レンズとしての作品”

削ぎ落とすことで、地域の文化が浮き彫りになる 「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館(以下、MIND TRAIL)(※1)」はコロナ禍で打撃を受けた観光を復活させるという発想のもとで、奈良県の移住・交流促進室が取り組んでいます。作家が中心になるアートフェスティバルではなく、地域が中心になる形を目指しています。 立ち上げるにあたってアーティストのみなさんと話し合って、奈良の奥大和という地域の環境や歴史、文化、智恵を見るための “レンズとしての作品” を作ってほしい

文化庁 文化観光高付加価値化リサーチ 第四章 ランドスケープ・空間 - 考察

0.ランドスケープ・空間とは? 「ランドスケープ・空間」は、自然の営み、人々の暮らしや価値観の集積である。そこでしか体験できない地域ならではの自然や街並み、建物・空間があるからこそ、人々はその地域を訪れる。そして、長い年月をかけて積み重ねられてきた大切な風景は、現代を生きる人々が意志を持って守っていかなければ未来に継いでいくことはできない。街並みや建物をハードとして残すだけなく、活用を促進し文化や営みと共に更新しつづけることが重要だ。 1.ランドスケープ・空間を考える上で