マガジンのカバー画像

文化観光高付加価値化リサーチ 第三章 地域文化の固有性

10
日本の地域それぞれに地域ならではの固有な文化が存在する。地域固有の文化は長い歴史を持つ文化財から、今を生きる人々の日常の生活文化まで幅広くさまざまだ。それらを市場価値…
運営しているクリエイター

#工芸

小林泰三(石見神楽面職人) - 神楽の本質を伝え、文化を継承していく

「祈り」「感謝」「感動」「創造」 石見神楽のお面の制作や修理、復元をしながら、今までになかったお面の創作、お面の材料である和紙を使った球体作品の制作、インバウンド観光客向けの絵付け体験など新しい試みに私は取り組んできました。面を作る職人にとどまらず、職人としての可能性を広げていきたいと思っています。ただ、神楽に関わる職人としての本質を外さないために、「祈り」「感謝」「感動」「創造」を心の軸とし、仕事に取り組んでいます。これは陶芸家の河井寛次郎さんを特集する番組で聞いた言葉で

山内ゆう(紙布織家) - 近代化の過程で失われた文化と地域のアイデンティティ

島根県石見地方の特産品である石州和紙を使った紙布という布は、かつてはこの地域の人々にとって当たり前にあるものでした。しかし、その生産は100年前に途絶えました。理由は廃藩置県、産業革命、都市集中型生活など、一言で言えば「近代化」にあります。そういった流れのなか、時間をかけて一枚の布を作る行為が時代遅れとして葬り去られたのは当然だといえるでしょう。人は近代化によって、時間や季節に左右されずに欲しいものを欲しいときに手に入れられるようになりました。今の私が山奥でも便利に暮らしてい

谷口弦(名尾手すき和紙 / KMNR™主宰) - 300年の歴史ある地域文化に、自身が取り組む意味とは

先人たちがいること 社会人になって1年半は大阪と福岡で働き、名尾和紙(※1)に帰ってきたのは23歳のときです。最初は毎日、紙を漉いて作業を覚える修業に取り組んでいました。そんな日々のなかで、他の和紙の産地や伝統工芸は今どういう状況にあるんだろうと周りを見ていろいろ調べていたら、自分が思っていた以上によくない状況にあることがわかりました。果たしてこのままやっていていいのだろうか?と思い始めたんです。「このままでは駄目だ、何かしなくては」と思っていたころ、ブランディングというア

文化庁 文化観光高付加価値化リサーチ 第三章 地域文化の固有性 - 考察

0.地域文化の固有性とは? 日本の地域それぞれに地域ならではの固有な文化が存在する。地域固有の文化は長い歴史を持つ文化財から、今を生きる人々の日常の生活文化まで幅広くさまざまだ。それらを市場価値に合わせて変えたり付け加えたりするのではなく、そのままで光っている地域に固有な文化の本質を正しく捉え、新し い価値へと転換する多様な “まなざし” が重要だ。 1.地域文化の固有性を考える上での問題意識 文化観光を通じて地域を訪れる者に豊かな体験をもたらすのは、著名な観光名所や名