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文化観光高付加価値化リサーチ 第三章 地域文化の固有性

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日本の地域それぞれに地域ならではの固有な文化が存在する。地域固有の文化は長い歴史を持つ文化財から、今を生きる人々の日常の生活文化まで幅広くさまざまだ。それらを市場価値… もっと読む
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文化庁 文化観光高付加価値化リサーチ 第三章〜第六章 全考察・インタビュー目次

第三章 地域文化の固有性第四章 ランドスケープ・空間 - 考察第五章 地域の活動熱量・関わり人口第六章 経済循環

森山未來(ダンサー / 俳優) - 地域を知るなかで立ち上がってくる身体、言葉をパフォーマンスに凝縮させる

2021年3月、京都の清水寺で『Re:Incarnation(※1)』という作品を制作しました。京都にいる人たち──「人間全体が」と言ってもいいのですけれども、その場所とどのように対峙して生きてきたのかを見つめるプロセスから生まれたものです。京都には京都五山があり、三川があり、かつては大きなたまりとして巨椋池が南にありました。そういう川や山の恩恵を畏怖の念とともに享受して生きては死んでいった人たちがいたということが、最終的にパフォーマンスのコンセプトになりました。僕はそれを体

河瀨直美(映画作家 / なら国際映画祭エグゼクティブプロデューサー) - 観光の真ん中で「文化の祭典」を構築する

観光の真ん中で文化の祭典を 私は奈良で生まれ育ち、世界遺産である東大寺や興福寺が小さい頃からの遊び場でした。神さまのお庭ともいえるひらかれた境内に鹿が暮らし、そことの垣根なく人も暮らしている。領域が曖昧であるのがとても魅力的です。でも、たとえば春日大社のお祭りは880年以上続く行事であり、一般の人はなかなか関わることができません。装束を着けて馬に乗るような人はごく少数で限られています。そこで、町で暮らしている人が関われる参加型のお祭りができないかと考えました。私が映画創りを

向井山朋子(ピアニスト / アーティスト / ディレクター) - 回っていく、つながっていく、引き継がれていく人、場所、アーティストの信頼関係

関係性のなかで生まれる「信頼関係」が、文化の醍醐味 青森県八戸市にある八戸市美術館が新しく生まれ変わり、昨年11月に開館記念として、八戸に滞在しながら地域住民の方々と共につくった音楽パフォーマンス作品「gift」を上演しました。「おもい つつむ わたす うけとる つながり」をテーマに創作したこの作品は、「ギフト」というコンセプトを探求したものです。人のふるまいに帯びる礼節や歴史、想い、信頼を再考し、理解するためのワークショップを行ってみたかったのです。一般から募集した年齢も

吉川由美(文化事業ディレクター) - 地域の人々が生活から醸し出す不可視な文化、そこに触れる場所としての「美術館」

美術館を通して「地域の営み」を知る まちは何でできているかといったら、人でしかありません。その人々がつくる文化や風景が固有の魅力を生み出します。震災の津波でほとんどの家や建物、それに伴う風習などが失われた地域がありますが、それでも、人さえいればまちは続きます。人々の営みこそが地域の資産で、それをまとめたら百科事典クラスの分厚い本ができるし、世界の人がそれを見たら、暮らしの中に豊かな文化が共存していることにびっくりすると思います。 ですから美術館は、訪れる人にとって、地域の

杉本康雄(青森県立美術館長 / アートミュージアム5館連携協議会) - 地域の魅力を発見していく起点としての「美術館」

アートツアーのあり方が大きく変化していると感じます。デジタル化が急速に進み、データによる分析力、論理力を中心とする左脳中心の世界が強まっているイメージがあるかもしれません。それと同時に感性や創造性を中心とする右脳の世界やアートへの注目が強まっており、この傾向は新型コロナウィルスの登場によってさらに顕著になりました。これまで当然のものとされていた価値観が崩れ、自分がどう考えるのか、自分なりの答えをどう作っていけるのか感性や発想力が問われる時代に入っていると感じています。 しか

小林泰三(石見神楽面職人) - 神楽の本質を伝え、文化を継承していく

「祈り」「感謝」「感動」「創造」 石見神楽のお面の制作や修理、復元をしながら、今までになかったお面の創作、お面の材料である和紙を使った球体作品の制作、インバウンド観光客向けの絵付け体験など新しい試みに私は取り組んできました。面を作る職人にとどまらず、職人としての可能性を広げていきたいと思っています。ただ、神楽に関わる職人としての本質を外さないために、「祈り」「感謝」「感動」「創造」を心の軸とし、仕事に取り組んでいます。これは陶芸家の河井寛次郎さんを特集する番組で聞いた言葉で

山内ゆう(紙布織家) - 近代化の過程で失われた文化と地域のアイデンティティ

島根県石見地方の特産品である石州和紙を使った紙布という布は、かつてはこの地域の人々にとって当たり前にあるものでした。しかし、その生産は100年前に途絶えました。理由は廃藩置県、産業革命、都市集中型生活など、一言で言えば「近代化」にあります。そういった流れのなか、時間をかけて一枚の布を作る行為が時代遅れとして葬り去られたのは当然だといえるでしょう。人は近代化によって、時間や季節に左右されずに欲しいものを欲しいときに手に入れられるようになりました。今の私が山奥でも便利に暮らしてい

谷口弦(名尾手すき和紙 / KMNR™主宰) - 300年の歴史ある地域文化に、自身が取り組む意味とは

先人たちがいること 社会人になって1年半は大阪と福岡で働き、名尾和紙(※1)に帰ってきたのは23歳のときです。最初は毎日、紙を漉いて作業を覚える修業に取り組んでいました。そんな日々のなかで、他の和紙の産地や伝統工芸は今どういう状況にあるんだろうと周りを見ていろいろ調べていたら、自分が思っていた以上によくない状況にあることがわかりました。果たしてこのままやっていていいのだろうか?と思い始めたんです。「このままでは駄目だ、何かしなくては」と思っていたころ、ブランディングというア

文化庁 文化観光高付加価値化リサーチ 第三章 地域文化の固有性 - 考察

0.地域文化の固有性とは? 日本の地域それぞれに地域ならではの固有な文化が存在する。地域固有の文化は長い歴史を持つ文化財から、今を生きる人々の日常の生活文化まで幅広くさまざまだ。それらを市場価値に合わせて変えたり付け加えたりするのではなく、そのままで光っている地域に固有な文化の本質を正しく捉え、新し い価値へと転換する多様な “まなざし” が重要だ。 1.地域文化の固有性を考える上での問題意識 文化観光を通じて地域を訪れる者に豊かな体験をもたらすのは、著名な観光名所や名