構成のやり方
はじめに
構成に取り組むようになったのはいつからだろう。
アマチュアというか同人誌に載せるための作業は2012年から、少しお金をもらうセミプロでの仕事は2014年から、年間で安定して案件をこなすようになったのは2018年からになる。継続してお願いしてくれている人がいるので、一応問題ないクオリティでつくれているのではないかと思う。
ただし、いわゆる専業ライターみたいなキャリアはない。要するに、必要に応じてやる感じで、毎日やっているわけではない。イメージとしては、本業がありながら熱心に同人活動をやってる人と同じくらいの頻度ではないかと思う──実際、そういう感覚の延長で仕事をしている。
そういうわけで、この文書のターゲットは、歴戦の専業ライターではない。もちろん、そういう人が読んでためになるならそれはそれでよいけれども。メインターゲットは、これまで構成の仕事をやったことがない人、駆け出しのライター、業務や趣味のなかで成り行きで構成をすることになり不安を抱えながらやっている人、同人誌をつくってみたい人……などなどである。
なお、本文書は、もともと人に教える際に使っていたテキストで、単独で成り立つものではない。これから読む人は、ウェブ上に転がっている構成についてのノウハウ記事をいくつかチェックし、なんとなく雰囲気がわかったあとに読むことを強く推奨する。既存の記事によく書いてある部分は薄めに、逆にあまり書かれていない部分は濃いめに記しているからだ。とりわけ、作業中の不安にフォーカスしている点には、独自性があると思う。
1.取りかかる前に──ゴールの確認、サンプル記事の用意
まず、そもそも構成とはなんだろうか。
一言で言えば、講演やインタビュー、対談、座談会といったかたちで誰かがなにかを喋った音源があり、それを文字起こししたテキストの素材があったうえで、それらの素材を人が読める原稿へと変えていく作業のことだ。
構成に取り掛かるうえで最初にやるべき作業は、いきなり文字起こしを読み始めることではない。1. 文字起こし全体が何文字か、それを何文字の原稿にしなければならないかを確認すること、2. 最終的にどのような原稿をつくりたいのか思い出せるサンプル記事を用意することだ。
まず、文字数について。ここでは、20000字の文字起こしが手元にあって、これを4000字にしなければならない場合で考えてみよう。20000字を4000字にする場合、1/5にしないといけないわけだから、初めてやる人はかなり戸惑うはずだ。「そんなに削れないよ!」って。そういう場合、まずは最終的な原稿の2倍くらいの分量を意識してみよう──ここでは20000字から8000字くらいまで刈り込むイメージをもつことになる。
ちなみに、同人誌やウェブに載せる原稿の場合、「何文字になろうが、何ページになろうが、なんでもOK」という場合もあるだろう。しかし、文字数指定がない場合も、最初に仮説として文字数の目標を立てておくほうが絶対にいい。作業が圧倒的にスムーズで、挫折しづらいものになる。
次に、サンプル記事について。これから作成する原稿に近いイメージの内容・形式をもった記事や、掲載される媒体に過去掲載された参考記事をいくつか用意する。そして、それらの参考記事が何文字くらいの分量かを調べる。字数が大幅に違うものは、いったん除外してしまってよい。作業中に迷ったとき、サンプルに立ち返ると解決することは非常に多い。面倒臭がらずに準備しよう。
2.読みながら大雑把に構成する──仮見出し、取捨選択、ストーリーラインのイメージ
作業目標が決まったら、いよいよ文字起こしを読んでいく。とはいっても、どのように読めばいいかわからないだろう。次の3つの作業をやりながら読んでほしい。
第一に、1500-2000字程度の間隔で仮見出しをふりながら読むこと。見出しってなんだろうと思う人もいるかもしれない。そういう人は、自分が好きな記事につけられている見出しをチェックしてみよう。話題の転換点や印象的なエピソードの前に、それを端的に表現した見出しがつけられているはずだ。あれのもとになる仮の見出しを付与するのである。細かくどこに仮見出しをつけるべきか迷ったら、サンプル記事を参考にしつつ、最終的には感覚で決めてしまっていい。正解はないといえばないので、これだ!と思ったところが正解だということにしよう。
そのためにも、作業を始めるとき、必ずまとまった時間を確保してほしい。一度の作業で上から下まで読み、直感的に見出しをつけきりたいからだ。途中でやめると、いろいろ忘れてしまって非常に効率が悪い。反対に、一気にやりきれば、自分なりに「ここが区切りだ」と思えるポイントが必ずみえる。信じて頑張って。
第二に、(めちゃくちゃ)おもしろい部分があったら、その箇所を含む仮見出しに太字や下線など目印をつけ、逆に、ここはつまらないなあ、いらないかもなあと思う部分については、思い切って消すこと。目標としては、20000字の文字起こしを読み終わったあと8000字になるように削る。
コツとしては、「おもしろい」はかなり厳しく、「つまらない」は超気軽につける。なにせ20000字を8000字にしなければいけないのだから、少しも容赦はできない。記事を「フーン」と思って眺める読者の気持ちを思い出そう。よっぽど強い言葉以外、読者はどんどん読み飛ばしていく。そういう残酷な読者を内面化して、バッサバッサと切っていけば、半分にするくらい簡単だ。
ここまで読んで作業を始めると、「でも、全部が面白いって感じるから、なるべく内容を残しつつ、なんとなく全体として少しずつ分量を減らしていきたい……」みたいなことを考え始める人がいると思う。それは基本的に筋がよくない発想なので諦めよう。少しずつ減らそうとすると、メリハリがなくなって原稿全体がつまらなくなってしまうし、作業時間もかなり長くなるからだ。
どうしてもたくさん残したいときは、構成の最初のプロセスに戻って、最終的な文字数をもっと多くできるように調整するべきだ。重要な議論がたくさんされていたり、脱線や雑談的な内容も含めて雰囲気を大事にしたいと感じたりした場合に、そうして当初の目標を修正することが筆者にもよくある。目標を変更しないまま、惰性でおもしろい / つまらないを判断することだけは避けたほうがいい。
第三に、なんとなくのストーリーラインを考えておくこと。具体的には、付与した仮見出しだけを箇条書きで並べて、仮見出しをどの順番で並べたら、記事が適切に始まって終わるかを考えながら読む。記事の「流れ」なるものがよくわからない人も多いと思う。そのときは、ここでも自分が好きな記事を参照するのがいい。好きな記事を見出しだけ並べてみると、話の流れがどうなっているか理解できるだろう。頭の片隅にストーリーラインをイメージしておくと、あとの作業がかなり楽になる。
3.原稿らしさを演出する──仮見出し同士の結合、整文、ストーリーラインの完成
ここまで無事に終えて、8000字まで削ることができた。しかし、4000字まではさらに半分にしなければならない。そのためには、次の3つの作業が必要である。
第一に、仮見出し同士を結合すること。人は同じことを何度も反復して喋る。文字に比べて、喋りは冗長だ。そこで、似た内容だと思う仮見出し同士を結合していく。前節でやったように、重複する表現やより強い表現だけを残し、他方は削っていけばいい。これでかなり字数が減る。
第二に、整文すること。最終的な原稿に残したい部分を、原稿らしい文章に直していく作業だ。ものによるけれども、多くの文字起こし原稿は「あ、それはそうかも、◯◯はいいと思うよ。だって、△△じゃん」といった書かれ方をしている。これではほとんどの場合、原稿にならない。たとえば、「それはそうかもしれません。たしかに、私も◯◯に賛成です。なにせ、△△ですからね」といった表現に直す。整文によって字数はだいぶ削られる。
第三に、ストーリーラインを確定すること。改めて仮見出しを箇条書きにして、全体をながめ、どの順番で並べるか決めていく。順番はだいたい話した通りで問題がないこともあれば、大幅に前後を入れ替える必要があることもある。ストーリーラインが決まると、重要なところと重要でないところの見え方も変わってくるはずだ。こういう話なのであれば、この部分はもう少し短くていいかもしれない、というような判断もできる。
この3つの作業を終えた段階で、8000字から始めた場合、最低でも5000字くらいまで減らしておきたい。構成作業のなかで、ここが一番難しいと思う。仮見出しの結合や整文はともかく、ストーリーラインは悩むだろう。しかし、この点についてはあまり深く考えなくていい。初心者の場合、文字数さえ狙ったものになっていれば大丈夫。見出しさえあれば、話がかなり飛んでいても、意外と人間は読めるものだ。
4.細部を整え完成させる──仮見出しのフィックス、再度の整文と推敲
ここまでくれば、だいたい作業は完了している。あとは1. 仮見出しを最終的な見出しに直し、2. 本文を再度整文し推敲するだけだ。
見出しは、テキスト全体の雰囲気を大きく左右する。正直、経験やセンスのウェイトが大きいと思うので──コピーの教科書とか読むといいのかもしれないが、悩んでしまった場合は、改めて自分がどのような原稿をつくりたいか、サンプル原稿を見直しながら検討しよう。サンプルの雰囲気を再現できているか確認することが、もっとも安定してクオリティを高める方法だと思う。
最後の整文と推敲は、いわゆる誤字脱字のチェックだけではなく、見出しの雰囲気に合わせて、文章を削りながら整えていくイメージ。たとえば、ラフな見出しをつけたら、本文での話者の発言も文末処理や構文においてラフさがあったほうが自然だろう。この段階で5000字程度の分量がある場合、前節の作業も繰り返しつつ、ゴールの字数に着地させていく。
文字数が落ち着いたら、最後にもう一度だけ上から下に原稿を読み、問題なければ完成だ。おめでとう!
おわりに
──以上で構成のやり方はおしまい。この文書全体で伝えたいメッセージは、全工程において「つまらないところは削る」という意識で勇気をもって構成することだ。たいてい文字起こしは長く、最終的な原稿は短い。それはそもそも人間の喋りに情報量が少なく、反対に文章は情報量が多いからだ。この圧縮力の高いメディアをいかして、文字起こしに含まれた「おもしろい」部分をなるべくたくさん原稿に反映させる。そんな構成ができるようになりたいものだ。自戒を込めて……。
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