原稿の構成のやり方──編集をめぐる雑感

編集をめぐる雑感シリーズを書いていきたいと思っている。編集について言語化する機会が今年から来年にかけて増えそうだからだ。レトリカも出すしね……この書き出しで始まり、なにも書けないまま一ヶ月ほど時間が経った。これではまずい。というわけで、さっき人に話す過程で、掲題の内容について少し書くことができたので、それを放流することで"やった感"を出していきたいと思う。

というわけで、いわゆる構成について書く。構成に取り組むようになったのはいつからだろうか。ぼくはアマチュアというか同人誌に載せるための構成作業は2012年から、インターンとして半分プロのような感じでは2014年から、はっきりお金をもらうようになってからは2018年から、この仕事をやっている。継続してお願いしてくれている人もいるので、一応問題ないクオリティでつくれているのではないかと思う。

ただ、いわゆる専業ライターみたいなキャリアではない。ときどきお願いされたらやるという感じだ。要するに、毎日やってますみたいな感じでは全然ない。感覚的には、熱心に同人活動をやってる人と同じくらいの感じではないかと思う──実際、そういう感覚の延長で仕事をしている。この記事も、専業ライターの人が読んでためになるならそれはそれでよいけれど、まだこういうことやったことないがやってみたい、同人誌つくりたいみたいな人に読まれることを想定して書いている。

構成とはなにか

そもそも構成とはなんだろうか。要するに、前提として講演やインタビュー、対談、座談会といったかたちで誰かがなにかを喋った音源があり、さらにこれを文字起こししたテキストの素材があり、そのうえで、素材を人が読める原稿へと変えていく作業のことだ。実際の仕事としては、音源だけが渡されて、文字起こしからやることもよくあるし、文字起こしと構成は一体となっている面も多いけれども、どちらもそれなりに大変な作業なので、工程として切り離して考えるほうがいい。

ちなみに、最近では自動文字起こしの技術が進んだため、自動で文字起こしされたものが送られてくるケースもある。自動文字起こしは音源の状態次第でクオリティがまちまちで、しかも、この事実を編集者が知らないケースもある。テキトーに自動文字起こしにデータを食わせて、その結果をよく見ずにこちらに送ってきていることがよくある。そのため、自動文字起こしが送られてきた場合、次のことを確認する必要がある。

1. この文字起こし素材はまともかどうか自分で確認
2. まともでない場合は依頼者にこの素材をベースに進めてよいか相手に確認
3. ダメなら文字起こしやり直し分の報酬は出るか相手に確認

構成の手順①:文字起こし素材の確認と最初の目標設定

……どうでもいい業界事情?みたいなことを書いてしまった気がする。ここから、具体的に構成作業の手順について書いていきたい。

構成に取り掛かるうえで最初にやるべきことは、いきなり読み始めず、文字起こし素材が何文字で、それを最終的に何文字にしなければならないか確認することだ。ここでは、20000字の文字起こしが送られてきて、これを4000字にしなければならない場合で考える。

ちなみに、同人誌や自分のウェブに載せる原稿の場合、「採算度外視だし何文字になろうが何ページになろうがどうでもいいんだよな」という場合もあるだろう。そういうときであっても、最初に目標を立てたほうが作業は絶対にスムーズになる(スムーズにしないほうがいいこともあるだろうが、キリがないのでここでは考慮しない)。こういう場合、自分が好きな雑誌やウェブで似た形式の原稿を持ってきて、1. その原稿が何文字か、2. もともとは何時間くらい話されたものか(そして何時間話したら何文字になるか)などを調べてみるとよい。そうすれば、自分の媒体であってもゴールが描ける。

20000字を4000字にする場合、1/5にしないといけないわけだから、初めてやる人はかなり戸惑うだろう。こういう場合、まず最終的な原稿の2倍(すなわち、ここでは8000字)を上限に刈り込むという最初の作業目標を機械的に決めるといい。すると、もとの原稿を半分以下にすればよいということになる。これならなんとかなるかもしれないと感じる人が多いのではないか。

構成の手順②:仮見出し、おもしろい部分 / つまらない部分、ストーリーライン

作業目標が決まったら、いよいよ文字起こしを本格的に読んでいく。この段階では、1500-2000字程度の間隔で仮見出しをふる。見出しという概念がわからない人がいるかもしれないが、そういう人はさっき用意した自分が好きな記事につけられている見出しを見てみよう。話題の転換点や印象的なエピソードの前に、それを端的に表した見出しがつけられているはずだ。あれのもとになるようなものを付与していくわけだ。コツとしては、疲れてないときに作業をはじめ、一気に上から下まで読み、直感で全部に見出しをつけきること。途中でやめるとわけわかんなくなってくる。正解はない、というか、自分にできる正解を自分でそのとき理解することは難しいので、最初にこれだ!と思ったことが正解だと考えたい。そのためには、一気にやりきる必要がある。

同時に、(めちゃくちゃ)おもしろい部分があったら、その箇所を含む仮見出しに星印をつけておく。逆に、ここいらないかもなあと思う部分や、絶対にいらないと思う部分については、取り消し線をつける。ここで重要なことは、おもしろいという判断は超厳しく、つまらないという判断は超ゆるくつけることだ。つまんない認定は即座に実行しよう。なにせ20000字を8000字にしなければいけないのだから、少しも容赦はできない(逆にいうと、容赦しなければ半分以下くらいにはなるはずなので、がんばろう)。

ちなみに、ここまでの内容に納得できず、「でも全部が面白いって感じるから、なるべく内容を残しつつなんとなく全体を減らしていきたいのだけど……」みたいなことを考える人もいるかもしれない。それは諦めなければならない。もしそうした場合、全部がつまらなくなる。どうしてもたくさん残したいなら、構成の手順①に戻って最終的な文字数をもっと多くできるように調整しよう。原則的には、決めたことのなかで全力を出すか、決めたこと自体を取り消すか、どちらかしかない。気の持ちようとして大事なポイントとしては、あんまり思い入れを入れ過ぎないことだ。削るときは、その記事を「フーン」と思って眺める読者の気持ちになろう。よっぽど強い言葉以外、読者はどんどん読み飛ばす。そういう残酷な読者を内面化した上で、バッサバッサと切っていけば、半分にするくらいにはできる。

最後に、このふたつの作業をしながら、同時にやっておくべきことがある。それはなんとなくのストーリーラインを考えておくことだ。付与した仮見出しだけを並べた箇条書きを、文字起こしテキストの隣に必ず置いておき、仮見出しをどの順番で並べたらちゃんと綺麗に始まって終わるお話にできるか考える。どんなお話のパターンがあるかわからない、イメージがわかないときは、ここでも自分が好きな記事を参照してみる。その記事の見出しだけを並べてみると、話の流れがどうなっているか理解できる。それを参考にストーリーラインを考える。これを意識しておくと、あとの作業が楽になる。

構成の手順③:仮見出し同士の結合、ストーリーラインの確定

手順②を完遂し、8000字まで削ることができた。ここからあと半分にしていかなければならない。既に自分の目を一度は通ったテキストしか残されていないから、この先を削るのは難しい。

そこでまずやるべきは、仮見出し同士を結合することである。人は同じことを何度も反復して喋るものだ。文字に比べて、喋りは冗長である。そこで、似た内容だと思う仮見出し同士を結合していって、重複する表現やより強い表現だけを残し、他方を削る。この作業でどこまで削れるかはかなり場合によるが、経験的に言って、もとの文字数の2-3割くらいは減らせると思う。8000字の場合、6000字くらいを目安にしたい(次の段階で削るのがかなり大変なので、もっと削れるなら削りきりたい)

次に、ストーリーラインを確定する。改めて仮見出しを箇条書きにしていき、どの順番にするか考え、実際にエディタ上でその順番に並び替えてみる。ストーリーラインを確定させると、重要なところと重要でないところの見え方も変わってくるはずだ。こういう話なのであれば、この部分はもう少し短くていいかもしれない、というような判断ができる。前の手順でやった「おもしろい部分 / つまらない部分」をもう一度実行するイメージ。この作業で4500字程度まで持っていきたい(見出しがひとつ分まるまる消えるくらいの分量を削る、ここかなり大変なので、前の段階でもっと削れるなら削りたいが、結局この最終段階に負荷が集中することが多い、工夫したい)

どうしても難しければ、仮見出しの結合をもう一度検討することになる。まあ、こことここをつなげることも不可能ではないかも……と思ったら無理矢理つなげてしまって、実際につながるようにテキストを刈り込む。削りながらつなげると、思いのほか字数が削れるはず。最初の結合で削りきれば、この手間もないのに……。

構成の手順④:見出しの確定とテキストの調整

ここまでで、ほぼ作業は完了。最後に仮見出しを吟味する。見出しはテキスト全体の雰囲気に大きく関わるので、改めてどんな原稿をつくりたかったか思い出して、そのイメージにあったトーン&マナーを意識しつつ、見出しを修正する。

見出しが最終形に近いものになったら、その雰囲気に合わせて本文を改めて整える。先ほどの例だと、4500字から4000字に削るわけなので、この段階においても削りながらやっていくイメージ。構成は、基本的に削る意識で全部の工程をこなすべきだ。既に述べたように、喋りはとにかくダラダラ長い。文章という圧縮力の高いメディアに変換する場合、大幅にサイズが小さくなるというイメージを持つことが大切。

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