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序「物語るものの物語」

いつから旅を始めたのか
覚えていない

気がつくと私はたったひとり
小さな荷物ひとつをたずさえ
歩き続けていた
 
町から村へ また村から町へ
いくつかの国境をまたぎ
ひととき休んではまた歩き出す

これは旅の途上でたどり着いた
ある村の長老から聞いた
物語のいくつかだ
 
長老の名はオーサ
ローブをまとった
白い長い髪の年老いた男である
 
旅人よ
これからおまえに伝えるのは
この世のことわり
その物語である

そして同時に
わたしの話すことは
たった一つの真実ではない
けれどこれらを真実として生きてみること
それをおまえは選ぶことができる
 
物語はおまえにとって
興味の尽きないことごとのはずだ
 
じきにおまえは思い出す
おまえが何を求めて旅に出たのかを
おまえが本当に欲しいものを
 
わたしの物語を味わい尽くすがいい
自分のこととして生きるがいい
それがおまえがこの地球に肉の身体をたずさえて
生まれてきたことの意味だ
 
わたしの物語をおまえは忘れることができないだろう
そして誰かに伝えるだろう
かつてわたしがそうしたように
いまそうしているように
 
オーサの声は低いがよく響く
私はひとつの言葉も漏らさないように 
耳をすませた

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