《Hanami》

昨日、僕は公園にいた。
桜が満開でとてもきれいだった。
でも、同じ桜なのに
全く花をつけていない木があった。
たぶん、この木は
他の桜が散ってしまった頃に
一人花をつけるのかもしれない。
ちょっと季節外れで
誰も見てくれないかもしれないけど。
きっと他の桜よりも
ずっと目立つだろうね。
だって、ここは
彼のソロステージなんだから。
カッコ良く咲いてほしい、そう思った。

芝生の上に寝転んで、空を見てた。
雲が綿菓子みたいに浮かんでた。
手を伸ばせば、届きそうな気がした。
太陽の光が眩しかったから、目を閉じた。
グレーの中に赤い陽光の残像が見えた。
心地よい風が頬を優しくくすぐった。
しばらくして、目を開けると
それまでとは違って、
辺りは淡いブルーで覆われてた。

よく昔、学校のプールから上がった時も
世界がこんなふうに変わって見えた。
青みがかった
ちょっとせつなくて
ノスタルジックに見える。
こんな景色が僕はとても好きだ。
なんでこんなきれいに見えるんだろね。

でも、その青いフィルターを通して
まわりの幸せそうな風景を見ていると
テレビのブラウン管に映っているかのように
まるで別世界に見えた。
僕とみんなの間には
分厚いガラスがあるような
隔たりを感じた。
僕はガラスを割って、叫びたいけど
そうすると、みんなの幸せも
壊れてしまいそうな気がした。

僕は利己的すぎて、
他人となにかを共有するようなことが
どうしてもできなかった。
なにかにのめり込んでみたいと思うけど
いつも冷めた自分がみつめてた。
自分に自信が持てないから、
誰も信じられなくて。

このきれいな風景の中に、
太陽や空
そして、草木のように
自分自身も含まれたい、そう思った。
なにかと同化してしまいたい、
自分らしさの殻から抜け出したかった。
僕は空っぽなんだ。
一つ気づいたことがあるんだけど。
まわりのものが寂しく映るのは、
自分が寂しいからなんだ。

なにも考えずにいられたら、
どんなに楽だろうね。
あのね、僕は空虚な自分を抱えてるんだ。
だから、ナイフで刺されて
血がいっぱい出ても
がんになって
体内に管が通って薬漬けにされても
例え、核戦争が起こって
地球が滅亡したって
僕はまだ死ぬつもりはない。
このまま死ぬわけにはいかない。

もう決めたことなんだ、これは。
死ぬ前ぐらいは
おなかいっぱいになって死にたい。
食えるだけ美味いもん食って、
死ぬ前に栄養つけて
最後の最後まで人間らしく生きるんだ。
肉体は死んでも、
誰かの心の中で生きていたい。

だから、僕は誰かを愛そうと思います。
こんな僕が
あなたを好きになっちゃダメですか?
('98年4月1日)

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