《ミクロマン》

或る日、回れ右したら、
世界は真っ逆さまに崩れ落ちた。
と思ったら、
実際に落ちたのは世界じゃなくて
僕の方だった。

もう君に会えなくなる。
何も見えなくて、気が遠くなる。
僕、死ぬの?
そろそろだとは思ってた。迎えに来るの。
ホントはずっと待ってたんだ。

窓の外には子供の声。名前は知らない。
楽しそう、とても。
時計を探したけれど。何処にいったのかな?
何時なのかわからない。
あまり気にしないようにしよう。
もうすぐ終わる。すべては無に還る。

時がゆっくり逆転していく。
細い秒針と太い二本の針は左に回転する。
若返った子供の僕が鏡の中から覗いてる。
何も怖くはない。忘れていたこともなくなった。
記憶は美しく再現される 。

これがいわゆる走馬灯か。
まるでホログラムのようだ。
ゲントウキって知ってる?
付録がどうしても欲しくて、
昨夜、寝る前にパパに頼んだんだ。
懐中電灯で後ろから照らすと、
壁にドラえもんの姿が浮かび上がる。
アレに似てる。
思い出したら、泣き出してしまいそう。

子供の頃はウルトラマンになりたかった。
正義の味方。怪獣から地球の平和を守る。
僕の夢。
独りぼっちにはなりたくない。
いつもそう思ってた。

冷たい手。
指先をそっと舐めると、ほんのり生温かい。
まだ生きてる。
これまで何度も絶望したつもりだった。
けれど、これがホントの絶望だ。

ノイズが消えた。やっとゆっくり眠れる。
お別れだ。この真っ暗な闇とも。
僕のちっぽけな世界よ。さらば。

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