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父の仕事

 僕の父は介護の仕事をしている。会社名は「夢たび」。名前どおり、普通の介護の仕事とはちがう。始まりは父がおばあさんと何気ない話をしていたときであった。そのおばあさんが

「最後でいいから旅をしたい。だけど家族などには迷惑をかけたくない。」
 
 そのとき、父はヘルパーさんが介護しながら旅をするのはどうかと考えた。今まで、僕の中では高齢者は家や老人ホームにずっといるイメージであったが、その考えが変わった。そしておじいちゃん、おばあちゃんはどんなに年をとっても夢というものをもつことができるのではないかと思った。日本は今、高齢化社会になっている中、少しでも多くの人に夢をあたえ、満足してもらうために努力をしている姿はとてもかっこよい。
 
 あるとき、父が僕に

「お父さんがやっている仕事は一人では成り立たない。高齢者を支えるための道具、ヘルパーさんや医者など、さまざまな人や物が関わってくる。しかし、おじいちゃん、おばあちゃんが笑顔で『ありがとうございました』と言ってくれると、とてもうれしい。」

と教えてくれた。僕は父が高齢者の夢をかなえてあげようと必死で仕事に取り組んでいる姿や気持ちにとても心が温かくなった。
 
父はぼくの祖父を僕が生まれる前に失っている。原因は肺ガンであり、父は

「タバコを止めさせたらよかった。健康診断を定期的に通わせればよかった。食事を考えればよかった。頼れる父がもういなくて悲しい。運動をいっしょにすればよかった。こんなことがもう起きないでほしい。」

と後悔や悲しみを僕におしえてくれ、僕はやはりああすればよかったという気持ちが強かったから考えられたアイデアだったのかもしれない。
 
 国土交通省が国内宿泊旅行拡大のため出した資料がある。旅行回数を年齢別にみると60代の一人当たりの平均旅行回数は一・四一に対し70歳以上になると一・〇〇に急激にへる。つまりどういうことかというと、仮に70歳以上の高齢者が60代と同じ回数を旅行すると約五千二百億円の拡大効果がある。ではなぜ回数が少ないかというと、歩行に不安がある人が約六〇%いるからだ。旅というのは本人の健康増進効果やリフレッシュ、国内宿泊旅行市場の拡大や観光関連産業の雇用の増加などさまざまな利点がある。父は国にも貢献しているのだと思い、さらに心が温かくなった。
 
 そして、いまも父は、全国を巡り不自由な方や高齢者の夢を、広げていくのであった。

秋吉雄斗 鹿児島県 ラ・サール中学校 1年(令和元年度当時)

本稿は第19回作文コンクール「心あたたまる話」の受賞作文です。原文のまま掲載しています。(主催・一般社団法人人間性復活運動本部)

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