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◇特集【ロボットの表情】

「表情は生物特有のものであり、人間は特に表情が豊かである。」
これは果たして真実なのだろうか? そう疑問を持った筆者が、表情を
人工的に再現しようと試みている研究を調査したので、本誌で紹介します。

人の表情をまねるアンドロイド

 人間の見た目を模したロボットをアンドロイドといいます。小説、アニメ、映画等のSF作品に登場し、人間には不可能な計算や力仕事を行ないます。計算や力仕事だけなら、箱型や車型など適した姿がありますが、アンドロイドが人型であることの最大の長所は、人間の代わりとなれることです。

人間と同じ見た目なため、人間社会に溶け込みやすく、人とコミュニケーションをとりながら、作業補助をしたり、情報収集および提供することができます。また、時には本当の家族のような役割を担うこともあります。

 そこまで高性能なアンドロイドは未だ開発されていませんが、世界初の人型二足歩行ロボットである「A S I M O 」を始めとして、現在は多種多様なアンドロイドが生まれています。写真で見ると、人間と見間違えそうな精巧な作りのアンドロイドも存在し、SF映画の世界は間近に迫っているのではないかと感じます。ところが、動画や生で動いているところを見ると、明らかに人間ではないということが誰でも分かります。

 この原因の一つは表情にあります。人間の顔には40個以上の表情筋と、それを覆う柔軟性に富んだ皮膚があり、それらが相互に作用することで、人間の複雑な表情が生まれています。この表情筋と皮膚の働きを人工的に再現するのが大きな課題です。

 ニューヨーク・コロンビア大学の研究者らが開発したロボットは、頭部しかなく、顔も真っ青で、とても人間とは思えません。ところが、その表情には人間らしいところが垣間見えます。ロボットの頭に配置された複数のモーターが、顔の特定の位置を引っ張り上げることで表情筋の役割を果たし、喜怒哀楽に加えて、驚きや恐怖を表現できます。

 また、このロボットの優れたところは、近くにいる人の表情を真似できるところです。各モーターの動きの組み合わせが、どの表情に該当するかを人工知能に学習させることで、対話相手の表情を再現することを可能にしました。

robotfaces のコピー

顔に配置された複数のモーターが、顔の特定部位を引っ張り上げることで表情筋の役割を果たし、さまざまな表情を表現できる。
(ニューヨーク・コロンビア大学のHPより引用)
https://www.engineering.columbia.edu/press-release/the-robot-smiled-back

視線を合わせるアンドロイド

 アンドロイドの姿や仕草を人間に似せていくと、ある程度までは親近感が増しますが、人間にかなり近づいたところで、急に不気味さや違和感が勝るようになります。この現象は「不気味の谷」といわれます。この谷を越えて、見分けがつかないほど人間に似せていくと、逆に急に親近感が増すという仮説を、東工大名誉教授の森政弘氏らが立てました。

 この谷を越える方法として、視線が重要な要素だといわれています。人間は声を掛けられたり、不審な音を聞くと、声の方向に視線を向けます。画像処理技術が進む以前のアンドロイドは、視線を合わすことが難しかったのですが、現在では会話中の人間と視線を合わせる技術はすでに実現しています。カメラでとらえた人間の目線の方向を計算し、ロボットの目線をその方向に向かせているのです。

 ただし、人間同士の会話では、ずっと目線を合わせているということはまずありません。思い出したり考えたりするときは上を向いたり、後ろめたいことがあれば下を向いたりなど、視線をそのときの感情や思考に合わせて自然と変えています。他にも、瞬きをしたり、呼吸を整えるなど生理的な仕草もします。人間にとっては理由のある行動でも、ロボットにとっては、ほとんど不必要な行為なため、不自然さをなくすのが難しいです。

 ディズニーリサーチとカリフォルニア工科大学が共同開発した
「eye gaze」は、こういった人間の自然な視線移動をよく再現できています。ロボットの近くに人が来ると、視線を合わせ、人の動きに合わせて首を左右に動かします。視線も合わせたり、宙を見たり、まばたきをしたり、と自然な人間の動きを模倣できています。また、複数の人がいればそれぞれに視線を送ることもできます。

 アンドロイドの表情を作る別の方法もあります。それは画面上に顔を表示させる方法です。実はこちらの手法の方が普及しています。表情を二次元に表現するのは、古の時代から肖像画として発達しているからです。予め用意しておいた画像を、その場の状況に応じて画面上に映し出すことで、多くの表情を作り出せます。また、近年は3次元に見えるようにする技術が進んでおり、映画やゲームの世界では実写と見間違うほどです。

 実際に商用段階に至っているアンドロイドもあります。フランスのブルーフロッグロボティクスが手掛ける「Buddy」です。8インチのタッチディスプレイに漫画のような顔を表示して、表情を表現します。また、ディスプレイの表示とともに、頭の回転、首と体の移動を組み合わせることで、より多彩な感情を表します。家庭向けの販売を目指しており、子供用の勉強アプリやダンスが用意されているほか、家を留守にする間は電気、水道、ガスの確認、異常があった場合の通知など家の見守りも行なってくれるのです。

 これらの研究や人工知能の研究が進むと、SFの世界に出て来るような人間そっくりのアンドロイドが生まれるでしょう。そのときに、「人間とは何か」ということを考える必要がある時代が来るかもしれません。

*フランスのブルーフロッグロボティクスが開発する「Buddy」。
ディスプレイに多彩な表情を表現できる。

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