長い話

泣きたいなぁ

泣きたいよ

あたしはなんでこんなところに立っていて

こんなに長い間

君の話を聞かされているんだろう

君の睫毛がバサバサ音を立てて風をおこすたびに

地下鉄が無遠慮な音を立てて滑り込んでくる

スタンドはフルーツ100%の匂いで

ぐるぐるぐるぐるミキサーぐるぐる

泣きたいなぁ

泣きたいよ

うん

君の言う通りなんだ

全部あたしが悪いんだ

あたしが弱いから

あたしという人間が弱いから

全部あたしが悪いんだ

あたしがひとの心を解らないから

全部あたしのせいなんだ

ほんと

君の言う通りなんだ

ごめんね

ごめんね

ほんとうにごめんなさい

あぁどうしたらいいの

認めれば認めるほど

君はあたしを責めるんだ

否定したら否定したで

目を輝かせてまた責める

あぁどうしたらいいの

泣きたいよ

泣きたいんだよ

あたしをひとりにしてください

ひとり静かに泣かせてください

あぁほら駅員が巡回してる

最終電車に間に合いたい人々が

がちゃがちゃ言いながら飛んでいく

泣きたいなぁ

泣きたいよ

ねぇ今ネズミが線路を横切ったの、見た?

駅は24時間あいているわけじゃないんだね

制服の中身は生身って、知ってた?

泣きたいなぁ

泣きたいよ

君はまた睫毛をバサバサいわせて

東京じゅうの地下鉄のシャッターを閉める

その中に残りたいな

たったひとりで残りたいな

そしたらあたしは

誰にも邪魔されないで大声で泣ける

もんどりうってぐちゃぐちゃに泣ける

君の話はまだ続く

あぁ君は言いたいことだけ言って気が済んだら

ポケットに隠していたタクシーを取り出して

するっと消えてくんだろう

あたしを残して消えるんだろう

早くそうなればいい

そしたらあたしは

コンビニの明かりが届かない場所を探して

夜中の街を彷徨うことができる

泣きたいなぁ

泣きたいよ

君の話はまだ続く

#詩

#現代詩

#短編詩

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