雪虫

 目の前でドアが閉まっちゃった いつもそう乗りたくもないの電車になんか 車掌さんは気持ちをくんで ちゃんとあたしを乗せないでいてくれるから あたしは黄色い線の内側に 逆戻り 逆戻り

 雪虫だ

 風に舞うマフラー グロスがついて 舌に毛がついて コートの背中に犬の毛がついてて とってもとってもきりがない

 雪虫だ

 手がかじかむ ブーツのつま先が汚れてる バッグの角が欠けてる 眉毛はいつ整えたっけ ネイルサロンはひどい臭い

 雪虫だ

 言い訳を使い果たして 布団の中にいればよかった 白旗なら腕がもげるくらい振れる どんなに遠くても見えるくらい振れる 初めて会った時から完敗してた 最初から手の中にいた

 雪虫だ

 2本目を逃した またドアが閉まっちゃった 黄色い線に乗ってもいない あたしはなんかのレールに乗り損ねてこんなところにいるんだろうか それとも正しい道がこうなのか わからないということをわかりたい わかっていること 最初から手の中にいた

 雪虫だ

 震える膝がかさついて鱗になって剥げていく ぶつかり合う歯が教えてくれる これは武者震いってやつ 凍えた鼻がもげそう あたしはあたしのパーツをひとつずつ失って だんだん丸くなるんだろう 手の中で転がって だんだん丸くなるんだろう

 雪虫だ

 目をあげるよ あの人を見てきて 指をあげるよ あの人を撫でて 足をあげるよ あの人が迷わないよう

 雪虫だ

 甘えたり頼ったり寄りかかることが苦手なあたしを

 雪虫だ

 まぶしすぎる光に負けてしまいそうなあたしを

 雪虫だ

 笑って

 “ひとりよりも自分でいられる、ふたりのほうが”

 そう言ったあの人に唇を重ねて

 “おかえりなさい” あの人を癒して

 3本目のドアが開く

 雪虫だ

 はじめての冬だよ

 

 

 

#詩

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