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河川堤防の設計と軟弱地盤

河川堤防の設計と軟弱地盤の説明を行います。河川堤防の設計においては、従来の方式に新しい知見を加味した方法が用いられるようになりました。工法の選択では歴史や保全の容易さなどの諸条件を考慮します。軟弱地盤における堤防は、特別丁寧に配慮します。

河川堤防 攪拌状況

堤防の設計

河川堤防は土提が多く見られます。材料を手に入れやすいこと・工事費用が他の堤防と比べて安いこと・劣化しにくいことや、機能や設計の優秀さなどがその背景にあります。

河川管理施設等構造令(昭和五十一年政令第百九十九号)では、土提の断面形状(高さ・天端の幅・のり勾配など)は河川の流量などに応じて最低基準を決定する方式を原則としています。これは、過去の災害をもとに断面形状を定めることが理にかなっていると認められてきたためです。また、土提が場所によって断面を異にすると住民の不安につながることも理由としてあげられます。

一方で、この方式は時代が下るにつれ、不完全な面もあると認識されるようになってきました。事実、計画高水位と同程度またはそれを下回る流水でも、のりすべりなどの現象が頻繁に生じるなど、堤防の安全性が疑問視されています。従来の方式で設計されてきた土提について、どのように強化していくかが改めて問われています。強化の必要性および優先度の検討、そして工法の選択のために、外力と耐力の比較をベースに設計する「安全性照査法」を導入することが求められるようになりました。「安全性照査法」は、一般の構造物の設計法で用いられており、それを堤防の設計においても用いようというわけです。

現在、従来の断面形状の考え方をそのまま受け継ぎ活かしつつも、堤防の耐浸食性能と耐浸透性能などについて個別に「安全性照査法」を活用した設計法が導入されています。

土提を強化するために

安全性能を照査した結果、所要の安全性が確保されていない区間は堤防強化区間となります。まずは、過去の被災履歴や被災状況を鑑みて強化するための工法を取捨選択していきます。次に、不同沈下に対する修復のしやすさ・損傷した際の復旧しやすさなどの条件を満たした工法に絞っていきます。最後に、樋門などの設置状況や全体の構造の連続性など、総合的に検討して工法を決定します。

土提は長い年月、地域を危険から守ってきた、社会上たいへん大切な施設です。したがって、工法の検討では、現状の堤防の安全性を下げることだけは避けます。浸食・浸透や常時のすべり破壊、波浪、地震など、堤防を襲う可能性のあるあらゆる事態に対して、被害を抑える効果の認められる機能を有していなければなりません。

特殊な地盤における配慮・泥炭性の地盤を例に

河川堤防の維持管理において、とりわけ丁寧な配慮が欠かせないのが、特殊な地盤における堤防です。地盤が極めて軟弱な場合、一般的な地盤とは比べてもより綿密な設計を行います。

極めて軟弱な地盤の例として、泥炭性の地盤があげられます。泥炭性の地盤では、堤防盛土で深刻な沈下やすべり破壊が生じる傾向が、一般的な地盤と比較して強いといえます。新設や改修に特別な配慮が必要なのはいうまでもありませんが、新設・改修工事が完了して使用を開始した後も、泥炭層の残留沈下による堤防変状が起こる可能性があります。変状を解析して、長期の沈下予測を行うなど、さまざまな対応を行うことが避けられません。

泥炭性地盤の堤防には、堤防の沈下および変状が長期間、絶え間なく続いてきた歴史があるものが目立ちます。沈下や変状を起こす主な原因は地盤において圧密沈下が起こっていることなどと推定されています。堤防の機能を損なうことなく維持し続けること、効率良く精度が高い補修を行うことが大切です。入念な現地調査を行うだけでなく、築堤の記録の精査を行い、解析によってこれから起こるであろう変状について予測し、将来まで見据えて堤防の機能を評価していく作業を行います。

扱いの難しい地盤においては、いっそうの努力で安全・安定を保っていくべきだといえるでしょう。

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