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中絶について

アメリカのテキサス州で妊娠6週目以降の中絶を禁じる実質上の中絶禁止法が成立したらしい。現代でもそんな大事なことに関する法律が変わりうることに驚いた。
しかもアメリカでは毎年中絶反対集会が開かれているらしく、今年で44回目だそうだ。中絶に反対するのはキリスト教保守派が多く、彼らは「生命の権利」を訴える。対してフェミニスト等の活動家は「(女性の)選択の権利」を訴えているようだ。
私はもちろん、妊娠について生物学的に負担が掛かるのは女性のみである以上(本質的な不平等があるから)、決定権は女性にあると思う。から、ある程度の中絶の権利は前提として保障されるべきだと思う。ただ、生命倫理という視点も軽視されるべきではないと思っている。

よって、①中絶はどの程度まで許可されるべきか、②その決定というのは本当に女性が決めていると言えるのか、③中絶以外の優秀な避妊法も普及させるべき、の3つの論点が考えられる。

①について
冒頭に挙げたテキサス州の中絶禁止法でも、全く100%禁止してる訳ではない。とはいえ6週間では生理がちょっと遅れてるなぁ、くらいで気付かない可能性の方が高い。
セックスの後、男だけはなんの心配もなく日々を送れるのに、女だけが不安な思いでカレンダーを注意深く監視していなければいけないのは不公平だ。しかし、キリスト教保守派も胎児の人権を考えているからこそここまで厳しくしていると考えることも出来る。保守派も完全禁止ではないようだから、程度が厳しいだけかもしれない。
だから保守派とも対話をして、何週目から、どういう条件なら堕胎が認められるべきか、建設的な議論をしていくことが大事と思う。

②について
これは優生保護法や出生前診断、男児優遇の文化など、生命倫理に関する論点である。
フェミLINEで江戸時代の間引きの話をしたことがあった。悪い予感はしてたけど、日本人は近代以前から自由に子殺しが認められていた、ということで欧米左翼が「なんてフェミ的なんだ!」と称賛する向きが実際にあるようなのだ。もう絶句した、バカじゃないの?
アメリカのアカデミアでは「合理的な人口調整の方法だ」と肯定的に捉えられている、「助産師が子を取り上げて、「この子要りますか、要らないですか?」と聞いて、女性が「要らない」と言ったら処分してくれるのよ!」とそのアメリカ人の女の子は言った。
他国の悲しい歴史を自分達の信仰で強引に塗り替えてしまう暴力性に吐き気がした。これも一種の歴史修正主義ではないだろうか。
私は「その頃の女性に決定権などほぼ無かった。女性は家の存続のために産まされる道具だったから、姑が嫁に命令して殺させたという話を聞いたことがある。それに貧しくて育てられない中で、間引かれる可能性が高いのは女児や障害児だったでしょう。女性の権利などという良いものであったはずがないです。」と私は反論した。その子はただ沈黙した。
話を戻すと、江戸時代の場合は100%というか産まれてからの堕胎(子殺し)でさえ認められていた世界だった。幕府が禁止令を出したことはあったものの、ほとんど守られてなかったようだ。だけどこれって本当に進んでいると言えるのか?
ヨーロッパだって中世までは子殺しは明文化されることはないが確実に存在していて、生活が厳しい中、間引かれることが多いのはやはり女児の方だったようだ。宗教が嬰児殺しを禁止し始めてから、やっと罪悪感というものが生まれるようになった。日本でも明治政府が公式に禁止する前は当然のことと思われていたから、罪悪感は薄かったようだ。子供の人権意識が無かったからこそとも言える。
倫理観というのは元から備わっているものではなく、社会によって創られるものだというのがよく分かる。現在でも欧州南東部や中国、東南アジアなどで男性数過剰の問題が起きていて、明らかに女児の産児制限をしていると見られている。
フェミは「女性の選択権」を基に主張する訳だが、「産むか産まないか」は「産みやすい社会かどうか」にも掛かっているから、女性だけが決めているとは限らない。女性の選択権を唱えた結果、女性が減ったなんて、皮肉過ぎる。実際、現代の日本でも障害者が暮らしやすいとは言えない社会で出生前診断の是非が問われている。
出生前診断が悪という訳ではなく、障害者や女性が生きやすい社会を創っていく必要があるのだ。

③そもそも昔はともかく、現代の避妊法として中絶は優秀とは言えない。その後の望まぬ子育ての負担を回避出来るとはいえ、中絶自体が女性の心身に負担が掛かることには変わりはない。
私はフェミLINEの子たちに中絶反対派と見られたかもしれないが、むしろ私はある程度の中絶容認は前提だと思っている。日本の場合、間引きの歴史や優生保護法の観点から先進国の中でもいち早く中絶認可が降りたが、逆に女性がアクセス出来る避妊法が非常に限られており、ほとんど男性主体のコンドームのみになっている。
逆に欧米は薬局で手軽にピルが手に入るなど、避妊法は充実していて、中絶には厳しいようだ。避妊法が充実してるなら、子供を堕胎することには最低限責任感が求められるのは大人としては当然、とも思うけどな…。
②で詳述したように、子供をバンバン堕胎出来る国はむしろ発展途上国の方が多いし、中絶にこだわり過ぎるのは本末転倒ではないだろうか。日本側の課題は、女性がアクセスしやすい安価で安全な避妊法の普及だと私は思っている。

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