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至って若気
私が中学生の頃、進学塾に通っていた時のお話。
当時私は、授業が難しいからとか、宿題が間に合わないわけでもなく、自分が一番賢いと思っていたのに入塾テストの結果が振るわなかったことからその塾で下から2番目に頭の悪いクラスに割り当てられたことが恥ずかしくて仕方がなく、入塾してわずか1ヶ月目にして私は親にこの塾からの脱退の希望の旨を伝えた。
最初、親は反対していたが、なんとか誤魔化しながら説得を続け、私は親から別の塾に行くのなら良いと言う執行猶予を獲得することができたので、私は心置きなくこのクソみたいな塾を辞められると思った。
However, そんな思いとは裏腹に、私は親から衝撃の事実を告げられた。
なんと、既に次の月の月謝を支払い終えていたのである。
私が親にそれを伝えたのはちょうど月末あたりだったので、普段真面目な私がまさか塾を辞めたいなんていうことを想像せずに振り込んでしまったことはしごくまともなことであり、それを責める気はない。
しかし、私は1ヶ月通って合わないと判断したのに、それをもう一度繰り返すなどと言うことは拷問以外の何者でもない。
とはいえここで支払いを取り消すと面倒なことになることぐらいはわかったので、私は甘んじてその事実を受け入れることにした。
私は両親との話し合いの場を、憤る気持ちをブチ殺しながら「あと1ヶ月だけ頑張るね」などと苦しい言い訳をし、自室へと戻った。
もちろん1ヶ月も頑張るつもりなどあるはずも無く、私は世界の始まりみたいな暗闇の毛布の中でサボタージュの方法を血眼で考えた末、きっと日も明けた頃に私は完璧な方法を思いついた。
それはマンキツ通いである
と言うのも、我が家はテレビを見ながら食事をするのだが、先程の食卓でのテレビでマンキツの特集(詳細は思い出せない)をしていたので、そこからヒントを得た完全なる思いつきである。
幸い、塾と親につけるいくつかの言い訳とそれなりのお年玉は合わせていたので、あながち無謀出なかったの策ではなかった事は着実にその思いつきに現実性をもたらした。
さて、思い立ったが吉日。私は買い与えてもらったMacBookAirを開いて近くのマンキツを調べたところ、塾の1駅隣に某激安ネカフェを見つけ、この1ヶ月分の言い訳と資金を貯金箱から引き出した。
塾は週3だったので、お年玉の5分の1は持ってかれる計算になってしまったが、背に腹は変えられなかったが、その時、ここまでの計画を画策できるなんて自分は本当に天才だと確信した。
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やってきてしまったサボタージュ月間最初の日
私は塾のカバンに、パソコンと勉強道具を入れ、いつも通り「行ってきます」と言い残し、塾の一駅隣のマンキツと着発した。
そんなに遠くもなかったので、わずかに15分ほどでたどり着くと、看板を元にクソほど狭隘なエレベーターを上ってそのビルの4階にたどり着いた。
エレベーターの扉が開くと、すぐに店舗があるタイプで、受付のカウンターが目の前の見えた。店内にはエジプトっぽい楽器が使われているであろうメロディックマイナーのBGMが流れていて、落ち着いた雰囲気といったところであろうか。
ほんの少しだけ緊張を孕んだ足取りでカウンターまでの数歩を進めたあと、コミュ障の私は数秒の沈黙を生み出してしまったが、優しい面持ちの男性の店員があちらから話しかけてくれた。
「ご利用ですか?」
「あ、はい」
「会員証をお見せください」
どうやら会員証が必要らしい。
「も、持ってません」
「では、会員証をお作りになりますか?」
もちろん断る道理などなく、私は堂々とそれを承諾した。
「は、はははは、はい!」
書類に必要事項を書き込んでそれを提出すると、店員は注意事項について話し始めた。
「一つ注意事項なのですが、16歳未満の方は19時以降にご利用いただけません。それでは身分証をご提示ください。」
おい
そんな話の順序があるか?普通16歳かどうかを確認してからそれを話すべきなんじゃ無いのか?ロシアンルーレットで「次は銃弾が入っています。さぁリボルバーを回してください」なんていうか?
そして私がこんなにも焦っているのは塾をサボらないといけない時間が15時でも12時でもなくちょうど19時から3時間だからである。
「ど、どうぞ」
そんなことを考えながら、私はなすすべもなく、定期入れにいつも一緒に入れていた中学校の身分証明書を彼にさし出した。
あぁ、私は天才ではなかったのだと負けを確信しかけたその時、奇跡は起こった。
店員は、学生証を確認し、なぜかなんのなんの疑いを抱く様子もなく私にそれを返した後で、「何分ご利用になられますか?」と聞いてきたのだ。
まさかの顔パスである。
私はいつからそんな年老いたのだろうかと思いながら、せっかく掴みかけているチャンスを逃さないよう、すぐさまこう答えた。
「さ、ささささ、3時間です!!」
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店内は全て個室になっていて、違いの様子は全くわからないようになっている。新車みたいな空調な匂いと、微かなイカくささがその空間を支配していた。
個室は1.5畳ほどしかなく、足をのばせば前の仕切りにつま先が当たってしまう。どうやらそれぞれにWindowsのデスクトップが設置されているらしく、Mac信者の私には都合が悪かったが、どうせゲームしかしないのでよしとすることにした。
もちろん、漫画やソフトドリンクも飲み放題で読み放題だから、1ヶ月の間で飽きることはなさそうだ。
中でも私が感銘を受けたのは、炒飯だ。
ここの炒飯は、まず見た目がひどい。便器みたいな平べったい形の皿の中央に、なぜか表面がパリパリのそれがいるのだが、これがあまりにも食欲をそそらないのでほとんど食べる気がしない。しかも、皿が以上に浅く、スプーンの頭が半分も入らずに底につく。味はというと、表面の様子からもわかる通り、かなり脂が多く、米はベチャベチャしていて食べられたものじゃない。
しかし、この味に私は背徳感と引きこもり感を感じており、なぜか不思議と来るたびに食べてしまう一皿なのだ。私はこの炒飯を、敬愛を込めて、「インキャチャーハン」と呼ぶことにした。
そんなインキャチャーハンをつまみながら、常設のWindows10でインタ0ネットサーフィンを他の死んでいると、私は突然とんでもない虚無感に襲われた。
俺はあの塾が嫌でここに勉強をしにきたのではなかったのか。これじゃまるでただインキャチャーハンを食べにきた陰キャじゃないか!
すると、私のニキビ面をヒント粒の涙が伝った。そしてその涙はインキャチャーハンに垂れ落ち、ただでさえ塩辛いこいつをさらに悪化させた。
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その後1ヶ月間、事は銀河のような普遍性を持ってただ悪戯にすぎていき、当然その間にも週3回、きっちりマンキツには通い詰めており、言い訳のボロが出ることもなく、店にバレるでもなく、なぜか世界は私に味方をしてくれていた。
やはり、今から親に言って退塾を取り消してもらったほうがいいのだろうか。この決断はアホのする事だったのか?私みたいなものは受験などするに値しないのだろうか?
そんな中、私はやはり未だに虚無感の渦から抜け出す事はできず、巨大な盲状態の概念の中にいた。
毎日がとても憂鬱だし、こんな決断をしたせいで自分が良くない人生のルートにシフトしてしまったのではないのかとも思った。
しかし、悪戯に流れることで多くの反感を買ってきた時は、私にはありがたく、そんな憂鬱な日々を刻一刻と終わりに向かわせてくれた。
いつの間にか、今日は月末の金曜日。今日を終えることができれば、また0からスタートしよう。そう決めて、私は変わらず狭隘なエレベーターの4階に止まるはずのボタンを押した。
それにしても、このエレベーターのかべはここまで嫌味のないケミカル臭を出せるのか。この五感に訴えてくる匂いはもうこれ以降嗅げないのだろうか。そう考えると少し物寂しい気はする。時々この匂いだけ嗅ぎにこようかな。
こんなことを考えているうちに、エレベーターはさっさとドアを開き、私はまたあのハーモニックマイナーを聞くことができる。
いつも通り右に曲がってカウンターに向かい、「さ、ささささ、3時間で」と、人類史上一番噛みながら注文をすると、もちろん会員証の提示を要求されるので、なれた手つきで財布から会員証を取り出す。
そして、店員が身分確認証の提示もこちらに要求した時、事件は起こった。
その店員は、私の学生証を見るなり、今まで、アホな店員たちには見られなかった真実を追い求める怪訝そうな顔をしたのである。
私は一瞬なぜあの店員がそんな表情をしたのか全くわからなかった。人はいつもと違うことを如才なく突きつけられた時狼狽するようにできているからである。
もちろん私は焦りに焦った。よくよく考えればそうだ。学生証には中学生と書いているのに、19時以降は16歳以上しか使用できないこの店を支えていたことがおかしかったのだ。今までの店員が全員気狂いだっただけで、こいつがまともなんだ。
冷房の風は、私に空を飛べと言わんばかりに打ち付けているのに、額には汗のロッククライミング、てにはさながら箕面の滝のような大量の汗が噴き出した。では脇は日本海なのか。
我々をつんざくような彼女のせいで起きたこの沈黙は、もはや永遠であり、もしかすると、この店員のせいで今までの私の悪行は全ての私の関係者たちにバレ、やはり私の決断は間違っていた、というよりは私にそれらを実行する実力がなかったことの証明になってしまう事はもはや説明の余地がない。
ようやく彼女は意見がまとまったのであろう。会員証を私に戻し、徐にインカムのスイッチを押し、彼女の口調から察するに、バイトリーダーか何かと連絡を取り合っていた。
あぁ。私はやっぱりアホだ。こんなことはアホのする現実逃避だ。もうどうすることもできない。
しかし、私は彼女のインカムでの会話に驚愕した。
なんと彼女は
「中学生なんですけど、16歳なんで大丈夫ですか?」
と言ったのである。
このセリフを聞いた時、私は安堵した。何故なら、自分よりもアホがいることが証明されたからである。
そして同時に、私の今までの行いは全て過去のものになり、こうして記事に書くことのできる立派エピソードトークに昇華できた。
何よりアホだと思ったのは、これでバイトリーダーの承諾が降りたことである。
みんなアホで良かった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
その後、インキャチャーハンを平げて店をでた私は、何事もなく塾をやめることができ、そこから別の塾に通ってその地域でもかなり上位の学校に合格でき、そして...
まぁそれはご存知であろう。
自信とは、実力や数字を持って示すことも大切だが、たまにはこうして自分なんかより下がいるということを以てでしか表せない時がある。こういうのは若いうちに行ったておいたほうがいいと私は思う。
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