もう一度書くための1日間

漫画に飽きて、久しぶりの1日休みなので12時間寝た。といっても前日の21時前からなので、起きても8:45ふんとかそのあたりだった。

書くのが怖いというか、読む書く、に関しては完全に鬱の中にいるようだ。適当に書いちゃえよーって1人の家の中で声に出して、その後5秒くらいは明るい気持ちになるのだが、まあ、言ってるだけだしな、言ってみている、言ってるフリをして、どう思うか観察しているだけだしな、とも思うので、すぐ書かなくてもよくなる。書くのが怖いなりに、刺激を得ようと山本浩貴さんの新たな距離を買おうと思ったのだが、あいにく近所で一番品揃えがいい丸善にはなく、長い読書、とか哲学史入門とかいい感じの本には出会えたのだが、5月の収支管理がうまくいかなかった印象をまだ引きずっているのかお金を使うのも怖く、1時間くらい悩んで、長い読書も哲学史入門Ⅰも棚に戻した。スタバにいってもう少し悩もうか悩んだが、とにかく仕切り直したい、一番仕切り直せる仕方でそれをすることにして、車に乗って家に帰ってきた。

母が朝飯用に買ってきたパンが多くて、たまごコロッケバーガーみたいなパンはなかでもボリューミーで、他のパンと立て続けに食べたら腹を壊すことが予想できたので、昼飯ように回すことにした。それをさっき食べた。1分くらいでレンジをセットして、ビニールのまま突っ込んだのもあってけっこう早めに、まあぬるめでも十分、もともとは朝、常温のまま食べるつもりだったのだし、とレンジから取り出すと、ギリギリ袋が破裂しないくらいのところで留まっていて、アツアツだった。アツアツのたまごコロッケバーガーを食べることができた。それを手に取る前に、いやそれをレンジにかけるより少し前に、ならば、千葉雅也さんの、この前の「哲学とは何かちょっと考えてみる」という記事を読んでみるのはどうか、と自分に提案してみた。たしかに。哲学史入門は、まあ間違いないタイプの本なんだろうし、千葉さんも激賞していたから惹かれるんだけど、なんか俺が真面目に読めるのはイントロダクションの千葉さんが書いたとこだけな気がして、買えていないのだが、これなら。200円だし。

引用ってことにするとめんどくさいので、失礼かもしれないけど、気になったところをまた覚え書きのように書いてみる。哲学書を読んでも、そこまで「超えてる」ことが書かれていると普通は読めない。「そこまでのことが書かれているんだと読めるんだ」と口伝で教えてくれる人のいる場で学ばない限り、哲学的に読んでいると真にはそれはいえないんだ、いえないというか、そうは残念ながら読めないんだ、と言っていたところが気になった。それを読んだ瞬間は、前置きとして千葉さんが「こういったら読書好きの人に怒られるかもしれないけど、」と言っていなかったらムッとしていただろうな、というくらい「痛い」指摘に思えて、その痛みにばかり目がいっていたけれど、そのあと流れに身を任せて、この前買った本に出会ってしまった、の島田潤一郎さん、かげはら史帆さん、前読んだけど鳥羽和久さんの書いた章を読んで、その指摘を俺のいいように捉えられるようになってきた。

書影をみた時点でよかったけど、書店で手に取ってもまたいいし、久しぶりにブックカバーを外したときもよかった。


島田潤一郎さんの(文面での)喋り方が僕は好きらしく、まあ文面で好きだったらだいたい声で聞いても好きなのだが、内容がどうというよりここまでスッと心に分け入ってくる喋り方は久しぶりで、長い読書の冒頭の2ページ、立ち読みした部分と、偶然すでにもっていたこの本の、彼が書いた章を帰ってきてから読んで、いったん満足した。長い読書をパラパラめくっているときに、島田さんは20代のころだったか、文体を味わうためだけに読書をしているというくらい文体の虜になっていた時期があった、みたいなことが書いてあるのをみたが、それがいま、彼の文体、変な言い方をすれば文体だけが、僕を魅了していることに関係しているのかもしれない。

かげはらさんのはタイトルが良かった。紹介した本のタイトルそのまんまなのだが、それだけでいいのだと思った。私の“昨日”の世界、というタイトル。事務、に引き続きこちらの言葉も僕のなかで意味が広がった。この言葉をぽんと紙か部屋かの空間に放ってみて、その反響を聞いた僕が瞬間的にみることのできる景色が増えた。こういうのが僕は好きだ。

タイトルでいったら鳥羽さんのも最高だ。鳥羽さん自身がTwitterでおすすめ(営業?)しているのをみて買ったから、それもあってか、ダントツで鳥羽さんのタイトルがイカして見えた。人生最大の読解力を使い切った。そこまでいうか。というのが好きだ。誰かの気分を害そうとして、とか、この作品を良いといっとけば俺は確定でイカしていることになるから安心して言葉を尽くすことに専念できる、みたいな状況では、簡単に「そこまで言う」ことができる。でもこの鳥羽さんは違う、この限度越えは、言ってしまえば漱石の虞美人草に向けたものではない。鳥羽青年の親友Kに全面的に向けられたものだ、ここでそこまで言えるから偉大なのだ。切実とか、そういう儚げな言葉を、遠慮してる感を出すために今ここで使いたくない。偉大なんだ、すごいんだ、あの日の鳥羽青年と、純度100%の言葉を原稿にぶつけた鳥羽さんはスーパーだ。

あとついでに、僕にとっては最も重要な偶然なのだがこれは、ちょうど「俺は大学生のころちゃらんぽらんだった(であろうとしていた)から、そこへのカウンターというか、揺り戻しとして、側からみたらなんでそんなに必死なの、という形相で真面目に生きているのかもしれないな」と考えていて、ならば大学生より手前、高校生の頃は?中学生の頃は、ちゃらんぽらんであろうとはしていなかったが、真面目だったとも思わない、でもこの理屈を成り立たせるためにはこう考えたほうが、みたいなことを考えながら、答えを求めるわけでもなく偶然たどり着いたこの本のこの章で、「真面目」という言葉をみた。しかも夏目漱石がド真面目な文脈の中で捻り出したその言葉を、鳥羽さんが人生最大限にド真面目な姿勢で拾い、書き残してくれたのを見つけた。すごく救われた感じがした。まだ書き始めるには至らなかったけど、今結局そのことについて頑張って書いて、2600字くらいまできた。今日のタイトルは「もう一度書き始めるための1日間」とかかな。もちろん坂口恭平さんの、「自己否定をやめるための100日間」をもじって。書くことは楽しいんだ。時間が勝手に過ぎてくれる感じがするとか、気が紛れるとか、そういう良さもあるけど、だって楽しいじゃん。なんて言いたいのか、いまここでなんとか書き表すために言葉を探すのって、ワクワクするじゃない。これを書いたのか…?俺が…、って絶対なれるんだよ。捻り出しさえすれば。


もう一度書き始めるためには、この、最後のひと押しが欠かせなかった。

ハヤシユウジさんは口調が明るくて好きだ。見ていて気持ちがいい、奈良の個展もいってみたいが今月は遠出にお金をかけたりせずに過ごそうともしていたから、もう少しここは置いとく。引用元の坂口さんのツイートに目を向けると、怒ってると思った?ってとこがチャーミングでいい。なんか、ここまでみると、え、じゃあやってみようかなって思っちゃう。なんかズルいんだけど。あとで優しくしてもらえるんだったらやっちゃおうかな、みたいな。

あとちょいあとちょい、このまま書き切ってもいいけど、休憩はさもう。甘いもの食べたいけどスナック菓子以外がいいです。外にはもう出なくてよし。


そういえば鳥羽さんはこの文章で、僕はこの日はこの本を読んではじめて「哲学」に触れたのだ、というようなことを書いていて、直前に千葉さんの哲学論を読んだ僕からみて、ふたつは矛盾しているようで、でも鳥羽さんのいう哲学もスッと入ってきたから、ただこの一連の経験は、哲学というものの両義性を僕に味わわせてくれたのだと捉えればいいのかもしれない。両義性というか、どこに位置しているか、というか。千葉さんの論考だけをみると、哲学界、生活界、みたいな、ものをいかほどに考えるか、によって住む方の決まる二つの世界があって、歴戦の猛者たちの弟子として日々心身を削ることを厭わないものたちのみが、哲学を語ることができるのだ、みたいな世界観を想像できないでもない。でも実際そうだから、千葉さんはあえてそう言って、俺はそのまんま受け取って、凹んだのだ。でも鳥羽さんのいったところの哲学は、「死」に似ている。忘れていたら時折思い出す、上にあるから、歴史に認められるから偉大なのではない、お前がそのたび、必然性に駆られて考えなくていいレベルまで考え抜くから、哲学なんて言葉を使わなくちゃ言い表せないほどに偉大なものなのだ。語り尽くせては全然いないのだと思うが、それより先にしっくりきてしまっている。体が軽くなったのだから、あんまり僕が書き続ける必要はないのだが、書けなくなる前の僕からみれば。でも今の僕は、書くのが好きなので、これもまあ、坂口さんが半年もの鬱明けを経て、ついに自分がパステル画を、絵を描くのが好きだと思い出した、という流れをみて、俺もそうなのかもしれない、坂口が以前はパステル描くのは別に好きじゃないけど、というスタンスをとっていてそれをイカしてると思ったから、俺もそうだったのかもしれない、とすればこの好きなことに気づいた、というのもポーズでしかないのかも、と心配する余地はみえつつも、大丈夫、ちゃんと楽しいから。時間とか空間とか関係なしに、なんつーか退屈しないから、そんなこと考えもしないで、目の前のことばかり考えることができるから、だから大丈夫なんだ、書くのが好きなのが、ではなく、書くのが好きだから、大丈夫なんだと今思っている。

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