Lonely Butterfy

愛がすべてを変えてくれたら 迷わずにいれたのに


結局、一睡も出来ないまま朝を迎えた。
カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しくて目を閉じた。


洋之を起こさないように、静かにベットから起き上がる。
穏やかな寝顔に決心が揺らぎそうになる。
ちょっとくせ毛のさらさらな髪に手を伸ばす。


「ごめんね、ありがとう」とそれしか言葉は出てこなかった。


旅立つことを伝えた日のことを思い出す。


「京子、いま、なんて言った」
「だから、香港にいくの」
「なんで、香港なんだよ」


いつも穏やかな洋之の声は憤りを含んでいた。


「だから、新しい店舗ができるの。立ち上げのメンバーにって」
「それは聞いたよ、京子はそれでいいのか、って聞いてるんだよ」
「洋之・・・」


洋之はテーブルのワイングラスを手元に引き寄せ、一気に中身を飲み干すと、
ふーっと息を吐いた。


「京子はいつもそうだ。どうして相談してくれなかった」
「だって、それは」


夢がかなう。
自分のお店を持たせてもらえる。
洋之を愛していることとそれは別の話。

「俺はいつも一生懸命な京子を応援したいと思ってきたよ。今だって、そう思いたいけど」
「行きたいの、夢が叶うの」
「分かってるよ、京子がそういうヤツだって。でも、俺、待てないよ」

分かってた。
きっとこうなること。
最近の洋之が結婚をしたがっていたことも。
今、側を離れるという選択はそう言うことだということも。
だけど、それが私の選択。

最後に洋之の部屋に自分のものを取りに来た。
たくさんのものがあったけれど、持っていくものはほとんどなかった。
どれも思い出がありすぎて、持ち出すことができなかった。


愛した記憶を身体に刻みたくて、洋之の手を取った。
愛おしく馴染んだすべてを確かめたかった。


そして、私は旅立とうとしている。
洋之と、そして、この部屋から。


「京子、頑張れ、負けるな」
背中にかけられる声を聞きながら、振り返らずに、部屋の扉を開けた。


迷わずに一緒に行ける女でなくて、ごめんね。
でも、誰よりも愛してたよ、洋之。
さようなら、洋之。


「Loney Butterfly」- レベッカ

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