ホイッスル ~君と過ごした日々~

走る君の姿は まぶしくて 切なくて 本当に好きだった
いま見てる景色が 遠くなっても
君と過ごした日々を 忘れない


乾いた土の匂いが記憶を呼び起こさせる。

「最後のホイッスル」が響き渡った瞬間は今でも鮮明に脳裏に焼きついている。
その先の世界を見たくて、すべてを捧げてそれを見守った。
努力だけではたどり着けない世界がそこにはあった。
それでも、夢を追いかけてきたみんなと見たかった景色。


決まらなかった最後のシュート。


グランドに立ち尽くす姿や、泣き崩れた姿を私はグラウンドの外で見守った。
私にできたことはただそれだけだった。


試合の後、もう、その必要もないのに黙々と走るキミの姿を見て泣いた。
負けた試合の後、いつも、こうして走ってるキミがいた。
私はその風景を見るのが好きだった。
前を向いて走り続けるその姿が好きだった。
悔しい思いも、苦しい思いも走り続けて越えていけるキミが好きだった。


私ができたことはただ見守ることだった。
キミの努力や、キミの思いはすべて心の中にある。
キミと過ごした日々は今も忘れない。


日々のいろんなことにさらわれそうになった時、あの景色を思い出す。


もう遠い遠い昔の思い。
その思いが私を今も支えている。

「沙織、何してる?」

との声に私の意識は今に舞い戻る。
そう、あの日々を経て、今、私はここにいる。


「達也」
「何を見てた?」
「ここで走っていたあなたの姿」
「懐かしいな、もう、10年か」
「ね、いろんなことがここにあったね」
「そだな」


私と達也は今は同じ道を、同じ方向を向いて歩いている。
あの終わりのホイッスルは新しい物語の始まりだったね。


この物語に終わりはないと信じている。

「ホイッスル ~君と過ごした日々~」− miwa

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