スーパースターになったら

スーパースターになったら 迎えに行くよ きっと
僕を待ってなんていなくたって 迷惑だと言われても
スーパースターになって 男らしくなった新しい僕で迎えに行くから

迷ったけれど、ここにやってきた。
華やかな場所で、有名になった秀くんに何を言ったらいいか分からなかったから。
私が一番、落ち着ける場所で静かにその時間を過ごそうと思っていた。
ドアを開けようとすると、チームメートの真奈がちょうど、出てこようとしているところだった。

「美雪、何やってんの?今から練習?祝賀会、行かないの?」
「うん、なんか、落ち着かなくて」
「せっかく秀さん、戻ってきてるのに」

と促す真奈の目を見ずにその脇をすり抜けた。
軽くストレッチをしながら、秀くんのことをぼんやり考えていた。

私がカーリングを始めたきっかけが秀くんだった。

幼馴染みのお兄ちゃんのやることを何でも真似してたあの頃。
秀くんが足繁く通う場所が、どんなところか知りたくて、ついてきたカーリング場。

自分にとってもすぐに大好きな場所になった。

どんどん上手くなる秀くんに負けたくなくって、通いつめた。

いつの間にか、大人にすら負けなくなってきた。
それでも、私が追いつくスピードより早く、秀くんは上手くなっていた。

強くなって、世界を目指すようになると、この町で、
それを目指すことが難しいことをこぼすようになっていた。
勝つために彼は町を出る選択をした。
勝つために作られたチームに入り、とうとう彼は世界と戦う場所にたどりついた。

何もかもが眩しかった。

テレビを通じて見る秀くんは自分が追いかけてたお兄ちゃんには見えなかった。
その活躍が眩しくて、遠くなったその姿に涙が止まらなかった。

いつか、追いついて、一緒にその場所に立つ、と心に誓うことくらいしかできることはなかった。
メダルを持って故郷に帰ってきた秀くんの祝賀会には行く気にはなれなかった。

どんな顔をして会ったらいいのか、分からなかったから。

そんなことを考えながら、黙々と石を投げる練習をしていた。
ただ時間が過ぎてくれることだけを考えながら。

「美雪!」

どのくらい時間が経ったか自分でもわからなかったけれど、その声に振り返るとそこに秀くんが立っていた。

「秀くん、どうして?」

「どうして?ってさ、なんで来ないんだよ、美雪は」
「だって・・・」

と言い出したものの、心の中にある本当の気持ちを伝えることはできなかった。
なんとか、言葉を絞り出したのはありきたりな言葉だった。

「おめでとう、本当に、すごいことになっちゃったね」
「そだな、自分でもびっくりだ」
「いつも、言ってたもんね、いつか、必ずオリンピックでメダルをって。ほんとにすごいね」

言葉にするともっともっと秀くんが遠くに行くような気がした。

「みんながいたからだよ。美雪が送ってくれたお守り、持って行ったんだ、ありがとな」
「秀くん・・・」

目の前にいるずっと追いかけてきた人の意外な言葉に、気づくと目頭が熱くなっていた。
ずるいよ、こんなの。
もう、遠くて、手の届かない人だと、割り切ったのに。
もう、私の幼馴染じゃないって、思おうとしたのに。

「美雪、俺さ、帰ってくることにしたんだ、いろいろ落ち着いたら」
「え?」
「俺は、俺のやりたいことやりきったからさ」

そんな言葉を聞きながら、真っ直ぐに秀くんを見ているつもりで、何も見えていなかった。

溢れる涙でいっぱいで、どう答えていいかさっぱりわからなかった。

「だから、もう、泣くなよ、美雪、な。」

と言って私の頬に触れた秀くんの手は温かかった。

「今度は、私の番だからね。いつか、絶対、秀くんみたいになるからね!」

というと、秀くんが、伸ばした手で私を引き寄せて、まるで子供をあやすように抱きしめるから、涙は枯れるどころか溢れるばかりだった。

そう、今度は私の番だからね。
私が主人公になる番だからね。

でも、おかえり、秀くん。

ずっと、大好きだった。
ずっと、待ってたよ。

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