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LIV対NFOの感想〜アーノルドの偽SBシステムについて〜
セットプレーから3得点し、セットプレーから2失点したという不思議な試合。
前節のリーズ戦と同じ先発で、ボール保持時の並びは写真の通り。
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従来の4-3-3と決定的に違うのはアーノルドのポジション。明確に内側に入り、ファビーニョと2ボランチを形成した。そして、ロバートソンが最終ラインに入り、3CBとなる形を採用した。
その配置の意図は主に2つある。1つはアーノルドの守備力の低さから生じる失点のリスクを軽減することで、もう1つはビルドアップ時の安定感を強化することである。
ノッティンガムフォレスト戦では恐らくその目的を果たすことができた。失点はセットプレー(ロングスロー)から生まれたものであって、アーノルドの守備力が原因となることはなかった。また、相手がプレスを選択しなかったことで、リバプールは安定したビルドアップを行うことができた。
それでは、アーノルドの偽SB化による3CB+2ボランチの配置は成功だったと言えるのか。
結論から言えば、失敗だったと思う。
私がそう考える理由について書いていく。
①ビルドアップ安定化の落とし穴
理想を言えば、ビルドアップが安定するに越したことはない。なぜなら、絶対にボールを失わなければ失点することはないからである。
しかし、失点しないことと同様に、得点することも重要であることは言うまでもない。
そのため、失点のリスクと得点というリターンのバランスを考えて選手を配置することが必要になる。だからこそ、多くのチームは様々なフォーメーションとビルドアップの形を採用するのである。
さて、リバプールはどうだったのか。
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上の写真のように、ビルドアップ時には3CB+2ボランチの形を採用した。一方で相手は3-4-2-1で前線の3枚が緩やかに制限をかけた。つまり、5人vs3人で圧倒的に有利な状況でビルドアップをすることができたのである。単純に2人多いので、ボールロストのリスクを回避するという目的を達成することができた。
しかし、当たり前だが後ろに5人を割けば、前線には5人しか存在しないことになる。
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3人のFWと2人のIHに対して、相手は前線の3枚を除いた守備ブロック。前線では5人対7人で単純に2人の数的不利が生じている。
つまり、構造として圧倒的に失点のリスクは低いが、得点の可能性も低い配置になっていたということである。(自陣5vs3、敵陣5vs7)
この配置に関してもう1つ考慮すべきは対戦相手の守備意識である。リバプールのビルドアップに対して、ハイラインでのプレスを行うことを選択せず、あくまでもリトリートによる守備を選択した。そのため、ボールロストのリスクはそもそも低く、5人vs3人という構造を作る必要はなかったと言える。
それでも、試合を通して、アーノルドが偽SBとしてのプレーを継続したのは、ビルドアップの安定が目的化していたからである。しかし、ビルドアップが安定しても、失点しないというわけではない。事実セットプレーから2失点している。そのため、ビルドアップの安定化よりも、得点の期待値を高めるための配置に重きを置く必要があるのではないだろうか。
②誰がWBをするのか問題
現代フットボールにおいて、3CBというシステムには両サイドにWBを置くものである。
ライン際で幅を取り、上下動によってチームを活性化させることがWBの基本的な役割である。そのため、WBとしてプレーする選手にはクロスの精度と縦の推進力が求められることが多い。
それでは、ノッティンガムフォレスト戦では誰がWBとしてプレーしたのか。
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選手の並びだけを見ると、左WBはジョタ、右WBはサラーということになる。幅を取るということは、ゴールから遠ざかるということである。4-3-3時にはWGで得点源として期待できるジョタとサラーをゴールから遠ざけるのは合理的な選択と言えるのか。
しかし、当試合においてジョタとサラーがWBだったかと言われると難しいところである。IHのカーティスとヘンダーソンがサイドに流れることが少なくなく、大外でボールを持つ場面が度々見られた。WBを置くフォーメーションでは、基本的にサイドのレーンにポジションを取るのはWBである。しかし、リバプールは流動的にポジションを動かしており、悪く言えば曖昧な状態だった。
選手の立ち位置で考えればジョタとサラーがWBをする方が無駄が少ないが、選手の能力を考えれば彼らにWBをさせるべきではない。では、カーティスとヘンダーソンがWBをするべきなのか。ジョタとサラーをゴールの近くでプレーさせるためにはそうする方が良いかもしれないが、IHの位置からWBの位置に動くのは非常に無駄が多く、トランジションでのリスクが高まってしまう。
つまり、当試合ではWBを担う適材が存在しなかった。それもあってか、サイドを突破する場面はほとんど見られなかった。WBの適材がいない状況で、スムーズに5レーンを使える3バック(5バック)のシステムを採用する必要性はあるのか。流れの中で得点が生まれなかったのは機能不全を意味しているのではないか。そもそも、アーノルドとロバートソンをWBにおけば上記の問題は解決できるように思える。縦の推進力とクロス精度を持ち合わせた攻撃的な2人は適材ではないのか。アーノルドの偽SB化によってWBが必要になったが、その適材がアーノルドかもしれないというのは皮肉なものである。
③ロバートソンのCB化の是非
アーノルドの偽SB化によって、最終ラインは3CBを形成するようになった。既存の2CBに加えて、左SBのロバートソンがボール保持の局面ではCBとしてポジションをとる。
ロバートソンはプレミアリーグのみならず世界基準でもトップクラスの左SBである。圧倒的な運動量、強度、クロス精度、縦への推進力。あらゆる局面で違いの出せる稀有な存在であることに疑いの余地はない。
そんな彼をCBとしてプレーさせることに大きな価値を見出すことは難しい。ロバートソンの攻撃性能を犠牲にする以上に得られるリターンが大きくないと、このシステムを採用する意味はない。そう考えた時に、アーノルドの偽SB化は圧倒的な違いを生み出しているとは思えない。事実、攻撃は停滞し続け、サイドを突破する場面はほとんどなかった。ロバートソンを大外に配置する方が総合的にはメリットが大きいだろう。
④IHの能力不足
上述した通り、アーノルドの偽SB化によるシステムは選手の長所を少なからず制限している。SBとしてはトップレベルのロバートソンをCBとしてプレーさせ、得点能力に優れたジョタとサラーをゴールから遠ざけてしまった。
それでも、ビルドアップを安定させることで、IHのタスクを減らすことに成功した。展開の役割から解放されたIHは攻撃に集中することが可能となり、その結果相応の貢献が求められるようになった。
さて、先発で出場したカーティスとヘンダーソンは、多くの犠牲の上に成り立っているシステムでその価値を証明することができたのか。
評価をする上で争点となるのは、攻撃面で創造性を発揮できたかどうかである。ジョタとサラーがサイドに流れてしまう分、孤立しやすいFWのガクポとのシナジーが必要となる。しかし、カーティスもヘンダーソンもライン間での狭いスペースでのプレーを得意としているわけではない。
カーティスは前向くためにファビーニョの横のスペースや左サイドに降りてプレーをすることが多かった。そして、ヘンダーソンは中から外へ流れてサラーを追い越すような動きを見せた。そのようなプレー自体に問題があるとは思わないが、今回のシステムを採用した上でするべきプレーではないことは確かである。
しかし、カーティスやヘンダーソンを責めるべきかというと難しいところである。なぜなら、彼らはIHとして十分な能力を身につけているとは言えないからである。それにも拘らず、システムにおいて重要な役割を担うべきIHのポジションで彼らを起用したことに問題がある。冷遇されているカルバーリョの方が適任だったのではないか。IHにガクポを置いて、ヌニェスをCFで起用した方が良かったのではないか。カーティスに関してはプレスが得意なわけでもなく、起用法については疑問が残る。
IHの能力不足については、アーノルドの偽SB化によるシステム以外にも、既存の4-3-3にも悪影響を与えている。カルバーリョのように既存戦力を冷遇するのであれば、補強によって状況を改善させるしかない。そうなると、IHを補強できるまではIHの貢献が重要となる今回のシステムを評価することは難しいだろう。
おわりに
様々な観点からアーノルドの偽SB化の問題点について考察したが、私は完全否定したいわけではない。4-3-3一辺倒だったクロップリバプールにおいて、選択肢が増えたことは喜ばしいことである。だからこそ、チームが勝利できるように新たなシステムを試行錯誤した上で改善していくべきである。
今季のCL権確保は限りなく厳しいが、来季を考えれば、今から少しずつ歩みを進めていくしかない。幸運なことに、リバプールには素晴らしい選手が揃っている。選手の特徴を最大限活かせるようなシステムを見つけることができれば、きっと復調できるだろう。
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