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ヌニェスの明暗をわけるアーノルドの偽SBシステム 【リバプール解説】


プレミアリーグ第33節。
ウェストハムとのアウェー戦に対し、リバプールは前節に続いてアーノルドの偽SBシステムを採用した。

当システムでは、ボール保持の局面でSBのアーノルドがボランチの位置に入り3-2-2-3を形成する。
試合では、アーノルドのパスからガクポのシュートによって得点が生まれた。また、ビルドアップの安定化によって敵陣で押し込む展開が続き、セットプレーからマティプが決勝点を奪った。新しいシステムに移行したものの、2得点のどちらも両SBのアシストから生まれており、攻撃におけるアーノルドとロバートソンの重要性は変わっていないことが窺える。


CL優勝やPL優勝を達成した従来の4-3-3では、両SBがサイドの高い位置から積極的に攻撃参加することが多く、サイドからのクロスにFWが合わせる形が中心だった。
しかし、現在のシステムでは、SBはCBやボランチとしてプレーしており、プレーエリアが明確に異なる。
その結果、FWに求められる役割が大きく変化しており、その影響をヌニェスが最も受けているように思う。
今回は新システムがヌニェスに与える影響について考察してみる。



①サイド攻撃の放棄によるWGの役割の変化

これまでの4-3-3はSBとWGの個の力を活かすことで攻撃を加速させていた。そのため、サイドが攻撃の起点となることが多く、WGはサイドライン上にポジションをとることが基本であった。

しかし、新システムの3-2-2-3では明確に幅を取る選手(WB)が存在しない。仮にWGが幅をとったとしても、サイドで数的有利な状況を作れないので、効果的に機能しない場面が生まれやすい。また、先発で起用されているカーティスとヘンダーソンはサイドでプレーすることを好むため、余計にWGは内側にポジションをとることが多くなる。

その結果、WGはサイドでの大胆な突破よりも、内側の狭いエリアでの繊細なプレーが求められるようになった。その役割を十分にこなしているのがジョタである。味方との関わり合いに長けており、フィニッシュの選択肢も豊富である。

簡単に言えば選手としての汎用性が重視されるようになった。それなりにパスが上手くて、ドリブルもできて、ライン間でボールを持てて、どこからでも点の取れるWGが構造的に必要になってしまった。

期待のダルウィン・ヌニェスはいわば荒削りのストライカーである。強さを活かしたフィニッシュに関してはリバプール随一だが、逆にそれ以外の部分では他のFWと比較にすらならない。トラップ、パス、ドリブル、判断力、プレスとあらゆる点に改善が必要である。

ヌニェスは突破に優れているわけでもないので、3-2-2-3でわざわざサイドにアイソレートして配置するメリットもない。結果として、ヌニェスをWGで起用することが困難になってしまった。

②CFの偽9番路線継続

従来の4-3-3の時でも、CFには典型的なストライカーが配置されることはほとんどなかった。フィルミーノ、マネ、ジョタ、ガクポと誰を見ても、得点だけでなく、それ以外の部分での貢献も求められていた。だからこそ、4-3-3のCFでヌニェスが起用された時はあまり機能することがなかった。なぜなら、ヌニェスはストライカーであり、ポストプレーなどの展開の補助に長けているわけではないからである。次第にヌニェスは4-3-3の左WGとして起用されるようになっていった。

しかし、上述したように、新システムでヌニェスを左WGで起用することは極めて困難である。そうなるとCFとしての活路を見出すしかないわけである。

ところが、新システムの3-2-2-3こそ、偽9番としての役割が一層重要になってしまった。WBがいないために、外ではなく中で展開をする必要があり、CFは頻繁にそのサポートをしなければならない。その点においてガクポは期待以上の貢献をしている。何度もポジションを動かして味方のパスコースを作り、ライン間でパスを受けてドリブルで攻撃のリズムを生み出す。

つまり、新システムのCFは①自陣ではビルドアップの安定に貢献し、②敵陣では狭いエリアで違いを生み出す必要がある。しかし、残念なことにヌニェスはどちらも得意としていない。仕上げのフィニッシュには長けているが、CFにはそこに至るための道筋を作ることが求められている。ヌニェスの能力云々ではなく、新システムの構造的にヌニェスの必要性がないのである。

③ヌニェスを活かす方法

3-2-2-3の新システムでヌニェスを活躍させるこがかなり難しいことは否定できない。しかし、可能性が0というわけではない。状況を変えるために必要なのは創造性のあるIHの補強である。

今のリバプールのIHは正直なところ物足りない部分が多い。そもそも数が足りていないという話ではあるが、ライン間などの狭いエリアで創造性を発揮できるタイプがほとんどいない。ヌニェスは恐らくチームでお膳立てすれば、それなりに得点を量産できる選手である。3-2-2-3によって、中に多くの枚数を割けるようになったことはそれなりにメリットがある。加えて、ボランチの位置にアーノルドがいることで、固定砲台としてあらゆる位置に瞬間的にボールを届けることができる。だからこそ、IHにはパスとドリブルで違いを出せる選手がいてほしい。

なんならカルバーリョでも十分な可能性はあるが、冷遇されているのでそれを確かめることはできない。来季に向けて少しずつ新システムの練度が上がってきているので、補強によって優秀なIHを獲得できれば、ヌニェスのストライカーとしての能力を活かすことができるかもしれない。

逆に人でしか問題を解決することができない状況なので、焦ってヌニェスを使うよりは、今季はガクポを軸として固定する方が良いと思う。

良くも悪くも尖った性能を持つヌニェスが、今後リバプールにとって重要な存在となってくれることを期待している。

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