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子育て千本ノック



ここに、あるとてもスポーティーなママさんがいる。
絶賛子育て中。
実際に何かのスポーツをやってるとか、そういう話ではない。


彼女の子育ては、まるで千本ノックなのだ。
バドミントン、テニス、バレー、バスケ...
何だっていいけれど、
「とにかく今日も千本やるよ!」
そんな号令から始まり、バシバシと前から
あんなボール、こんなボールが飛んでくる。

彼女のお陰で、強豪校と名を馳せることになる
一家の子供たち。

やはり、強豪校は基礎体力が違う。
「長期戦になるのだから、基礎体力がないと!」
そう考えているのだ。

そして戦略も大事。頭脳戦に持ち込む。
こっちへ打ったかと思えば、次はあちらに投げ、
最後はスマッシュと見せかけて、手前にドロップ。
「えぇぇそんな嘘な」
相手にそう泡を吹かせるくらい
翻弄できる頭脳と体力がいると。


「まるでアタックNo.1かよ」
誰かが言った。

いやいや。
有名なあのセリフ
「涙がでちゃう。だって女の子だもん..」
そんなことでも言ってごらんなさいよ。
「女の子だもん」と言い切らない内に、
とてつもない豪速球が飛んでくる。

「涙?じゃぁその涙の理由を説明しやがれ」
そうのたまって投げてくるんだから。

ママさんは決して許さないのだ。
いづれその子自身を蝕むことになる涙を
ただ流し続けることなんか。
しかし、その子自身に何かを訴える涙については
見過ごすことも許さない。
それが聞きたくての "説明しやがれ" なのだから。
それは、決してママさんが聞きたいんじゃない。
その子自身が聞くべきものだと分かっている。



こうして、強豪校の選手となっていく子どもたち。
その対戦相手となる誰かは、どう対峙するだろう。
その強さを前に敗れた彼らは、何と言うだろう。


「次は負けない、どうしたら勝てるだろう」
そう言って、彼らのことを調べ始めた選手がいた。
「なるほど、こういうふうに考えてのこのボール捌きだったのか。ここでこう動いたのは、この策があってのことか..!!」
「そうすると、次にこっちがこう動くとどうなるんだろう?試してみる価値はある...!!」

この選手はもう、面白みにはまってしまっている。
戦いを一緒に作っていくその面白みの虜になってしまったのだ。この選手は、彼らの良きライバルだ。



一方、こういう選手もいた。
「もういいや」と試合を放棄したり、
あっちはずるいだの何だの妬み嫉みを口にする。
そんな妬ましい敵が不調になったと知れば笑い、
それも心配を装って実は腹の底で笑ってんだから、
趣味が悪い。
遠くから見て、戦法だけ盗んでいくってこともやるだろう。もしかしたら、もっと悪いことをしてるかもしれない。永遠にスポーツマンシップが持てないのだ。



ママさんは、そういう輩がいることも知っている。
だからこその千本ノック。

こっちはどうだ!あっちに投げるよ!さぁ行くよ!
打ち返せなかったら、
「何でそれが打てなかったの!」と怒る。
しかしこの怒りほど、子供たちにとって
自然の恵みに匹敵するものはない。


子どもたちは子どもたちで、
ママさんの投げるボールを調べ尽くしている。
だから、同じように彼らのボールを
調べ尽くそうとするライバル達と、
何だかんだ息が合うのだ。
そんな彼らの試合には、ドラマが生まれる。


そんなドラマの舞台袖で、
今日もママさんは竹刀片手に仁王立ちをしている。

正直ちょっとおっかない。
けれど、だからこそ、心置きなくドラマが展開していく。途絶えることなく、ドラマが続いていく。





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