子ども食堂だいちのめぐみ　#5

第五話：豚汁とおにぎりに込めた想い

第一部

「だいちのめぐみ」が高田本町商店街で賑わいを見せる理由の一つに、看板メニューであるおにぎりと豚汁がある。上越産のコシヒカリを使用し、毎朝精米された米はふっくらと炊き上がり、食べた瞬間に広がる旨みが特徴的だ。ガス釜で直火炊きをすることで、コシヒカリの甘みと風味が最大限に引き出されている。その上、同じ商店街にある「小坂井園」の香り高い有明産の海苔を使うことで、おにぎりの美味しさがさらに際立っている。

豚汁もまた、地元の食材をふんだんに使った特別な一品だ。味噌は、めぐみが半年かけて調合したもので、杉田味噌醸造場と町田醤油味噌醸造場の特産味噌を独自にブレンドしている。こうして作られた豚汁は、寒い冬の日に体を芯から温めてくれる逸品として、多くの人に愛されていた。

ある日、そんな豚汁を目当てに、年配の女性が店を訪れた。彼女の名は山田サトミ。商店街近くの古いアパートに住んでおり、最近一人暮らしを始めたばかりだった。寂しそうな表情をしている彼女に、めぐみはすぐに気づき、声をかけた。

「いらっしゃいませ。おにぎりと豚汁のセットにされますか？」とめぐみが優しく尋ねると、サトミは静かに頷いた。

「ええ…とてもいい香りがするわね。この豚汁、ずっと気になってたの。」

めぐみは嬉しそうに微笑みながら、出来立ての豚汁をサトミの前に置いた。「この豚汁には、地元のお味噌をブレンドしているんですよ。どうぞ、ゆっくり召し上がってください。」

第二部

サトミは、湯気が立ちのぼる豚汁を一口すすると、その優しい味わいに思わず目を細めた。「本当に美味しいわ…。なんだか昔、家族で食べた豚汁を思い出すような味ね。」

めぐみはその言葉に微笑みながら、「そうおっしゃっていただけると嬉しいです。地元の味噌を使っているから、どこか懐かしい感じがするのかもしれませんね。」と答えた。

サトミはその後、めぐみに話しかけた。「実は、最近ひとり暮らしになってね。家族が離れて暮らすようになってから、こうやって誰かと一緒に食べることが少なくなっていたのよ。」

めぐみは彼女の寂しさを感じ取り、優しく寄り添うように言った。「だいちのめぐみは、皆さんが集まって食事を楽しむ場所でもあるんですよ。いつでも気軽にいらしてくださいね。」

サトミは感謝の気持ちを込めて頷いた。「ありがとう。ここに来ると、なんだか心が温かくなるわ。」

第三部

サトミが常連になってから数日後、めぐみは彼女の話を聞くうちに、少しずつ彼女の生活について知るようになった。サトミには、遠くに住む娘と孫がいるが、なかなか会う機会がないため、日々の生活が少し孤独に感じているという。特に冬になると雪が積もり、家から出るのも一苦労だった。

「でも、あなたのお店のおにぎりと豚汁を食べると、なんだか元気が出るのよ。」サトミは笑顔でそう言いながら、豚汁の湯気に顔を近づけた。

めぐみはサトミに言った。「それなら、もっと頻繁に来てくださいね。お一人様でも、私たちはここでお待ちしていますから。」

晃四郎も近づいてきて、「サトミさん、また来てくれると僕も嬉しいです！」と元気に言った。彼の明るい声に、サトミは笑顔で応えた。

「ありがとう、晃四郎君。あなたの笑顔を見ていると、私もなんだか元気が出るわね。」

第四部

数週間が経ち、サトミは「だいちのめぐみ」に来る度に、少しずつ町の人たちとも顔なじみになっていった。商店街の店主たちや、他の常連客たちが彼女に声をかけ、自然と話が弾むようになった。

ある日、サトミが豚汁を楽しんでいると、佐藤が隣に座り、「おや、サトミさん。今日も美味しそうに食べているね。」と声をかけた。

サトミは嬉しそうに返事をした。「ええ、毎日ここに来るのが楽しみなの。特にこの豚汁が私のお気に入りなの。」

佐藤も豚汁をすすりながら、「私もこの豚汁が好きで、ここに通っているんだよ。めぐみさんのおにぎりと豚汁は、町の誇りだね。」と語った。

サトミはその言葉に同意し、改めて「だいちのめぐみ」が自分にとってどれだけ大切な場所かを感じた。彼女にとって、ここはただの食事処ではなく、心の拠り所であり、町の人々と繋がる場でもあったのだ。

第五部

サトミの生活に「だいちのめぐみ」が大きな支えとなる中、彼女はある決意を胸に秘めていた。久しぶりに遠くに住む娘と孫に会いに行こうというのだ。寂しさから一歩踏み出し、家族との再会を目指す決意を固めたのだ。

出発前日、サトミは「だいちのめぐみ」に立ち寄り、めぐみと晃四郎に別れの挨拶をした。「しばらく会えなくなるけれど、また戻ってきた時はよろしくお願いしますね。」

めぐみは心からの笑顔で、「もちろんです。サトミさんが戻ってくるのを、いつでもお待ちしていますよ。」と応えた。晃四郎も元気に、「また元気な姿で戻ってきてね！」と声をかけた。

サトミは二人にお礼を伝えながら、「ここで過ごした時間が私の力になりました。本当にありがとう。」と感謝の言葉を口にした。

第六部

サトミが去った後、「だいちのめぐみ」にはまた新たな客が訪れる日々が続いていた。めぐみと晃四郎は、それぞれの来客に心を込めておにぎりと豚汁を提供し続け、町の人々との絆を深めていった。

彼らにとって「だいちのめぐみ」は、単なる飲食店ではなく、人々が集まり、助け合い、支え合う場として機能し続けている。今日もまた、商店街の雁木を通り、「だいちのめぐみ」に訪れる人々の笑顔が絶えない。

そして、いつかまたサトミが戻ってきた時、「だいちのめぐみ」は変わらぬ温かさで彼女を迎えることだろう。この店がある限り、町の人々が支え合う温かい心は、決して途切れることがない。