ホモデウス下巻要約(第二部つづき)

“下巻”

第二部テクノロジーとサピエンスの未来

第6章 現代の契約

人間はみな取り決めを結ぶ
契約:人間は力と引き換えに意味を放棄することに同意する

近代に入るまでは人間は何らかの宇宙の構想の中で役割を担っていると信じられていた
近代以前の人間は力を放棄するのと引き換えに自分の人生が意味を獲得できると信じていた
E.g.戦争などに見舞われても、神か自然の摂理の手になる壮大なドラマの中で役を演じている
と考えることで真理的に守られた

現代世界の人は、どんな力も自分を救ったり、苦しみに意味を与えてくれたりはしない
良い結末も悪い結末、そもそも結末などない。物事が後から後から怒るだけ
目的があるとは考えず、原因があるだけであると信じている
自分を束縛するものは無知以外何一つない
現代の生活は、実際的なレベルでは意味を持たない世界の中での追求から成る
現代文化は史上で一番隆盛している一方、今までにない実存的不安に苛まれている

現代における力の追求は、科学の進歩と経済の成長の間の提携を原動力としている

近代以前は成長に対する信頼がなく、経済も停滞していた
近代に入り、人々が次第に将来を信頼するようになってから経済が発展した

なぜ近代以前は信頼が生まれなかったのか?
⇨成長は私たちの直感や人間が進化の過程で受け継いできたものがこの世界の仕組みに
反しているから
⇨ほとんどの生存競争はゼロサムゲームであり、他人を犠牲にしなければ繁栄しない

近代以前はこの世界を普遍のパイとみて、今よりも多くのものを生産するとはなかった

それにたいして現代は経済成長は可能であるばかりか、絶対不可欠であるという固い信念に
基づいている
⇨「もし何か問題が起こったら、おそらくより多くのものが必要なのだ。より多くのものを
手にするためにはより多く生産しなくてはならない」

現代の政治家と経済学者が考える成長が不可欠である3つの理由
1 成長すれば生産が増え、消費が増え、いまより高い生活水準で生活することができるから
2 人口が増えている限りその消費に耐えうるだけの生産をしなくてはならないから
3 豊かな国から貧しい国にたいして分け与える必要がなくなることで争いをさけられるから

経済成長の信奉が宗教化してきている
⇨「より多くのもの」という信条は社会の平等を維持したり、生態の調和を守ったり、
親を尊敬したりといった経済成長を妨げかねないことはすべて無視するように個人や
企業に強いる
⇨強欲な実業界の大物や金持ちの農場経営者や表現の自由は保護されるが、

自由至上資本主義の邪魔になる生態系の中の生息環境、社会構造、伝統的な価値観は排除されたり
破壊されたりする

資本主義は成長を熱烈に信奉し人々が経済をゼロサムゲームとみなすのをやめて、
あなたの得は私の得であるという誰もが満足する状況とみなすのをやめて、
全世界の平和に重要な貢献をしたことに疑問の余地はない

資本主義の戒律: 汝の利益は成長を増大させるために投資せよ

なぜ成長は止まることを知らないのか?
⇨生産資源を見つけていくから
原材料とエネルギーと知識

科学の進歩のレースと地球温暖化などの環境の悪化のレースが行われている
あまりの多くの政治家が科学の進歩を信じすぎている
⇨ハイテクの方舟で助かると信じている人々にグローバルな生態環境を任せるべきでない
(死んだ後に天国に行けると信じている人々に核兵器を与えるべきでないのと同じ理屈)

近代以前の世界では人々は社会主義の官僚制における下級官吏のようなもので、タイムカードを
押し、あとは誰か他のひとが何かしてくれるのを待つだけだった
⇨現代の世界では私たち人間が事業を運営しており、昼も夜もプレッシャーにさらされている

集団レベルでは、社会制度や政治制度は以前なら何世紀も持ちこたえていたが、
今日ではどの世代も古い世界を破壊し、それに変わる新しい世界を建設する
現代世界では不確実性と動乱をぜがぜひでも必要とする
⇨現代の世界は成長を志向の価値として掲げ、成長のためにはあらゆる犠牲を払い、あらゆる
危険を犯すべきであると説く

個人に欲を抱かせるのは簡単であったが、国家や集団的組織を説得して同調させるのはむずかしかった
社会のパイが決まっていたころは自制を拠り所としていたがそうではなくなることで、
貪欲は成長を促す善なる力であると近代以降は確信された

現代の取り決めは、力と引き換えに意味を捨てることを私たちに求めたがる
⇨このようななかで資本主義だけで平和な世の中をなぜ実現できたのか?
⇨人間至上主義のおかげ

第7章 人間至上主義革命

現代の取り決めは私たちに力を提供してくれるが、それには私たち
が人生に意味お与えてくれる宇宙の構想の存在を信じるのをやめることが
条件になる

しかし
免責事項:人間が何らかの宇宙の構想を基盤とせずにどうにか意味を見つけて
のけられれば、それは契約違反だとはみなされない
⇨これが救済手段となってきた
⇦意味がなければ秩序は維持できないから

人間至上主義という宗教は、人間性を崇拝し、キリスト教とイスラム教で
神が、仏教と道教で自然の摂理がそれぞれ演じた役割を人間性が果たすものと
考えられる

人間至上主義によれば、人間は内なる経験から、自分の人生の意味だけではなく
森羅万象の意味を引き出さなくてはならない
最も重要な戒律:意味のない世界のために意味を生み出すこと

中世のヨーロッパ:人間に善悪は判断できず、神にのみ全や正義や
美を想像し、定義することができると考えていた。
人間は死を免れず、人間の考えや感情は風のように変わりやする
⇨人間の考えを拠り所とする意味はみな必然的に脆く儚い
⇨絶対的な真理と人生と森羅万象の意味は、超人間的な源から生じる
永遠の法に基づいていなくてはならないと考えていた
⇨神は意味だけではなく権威の至高の源にもなった
⇦善悪などを人間にたいして命じる権威を神が獲得するのも当然

現代:人間が意味の源泉である、人間の自由意志こそが最高の権威である
と人間至上主義に納得させられてきた
⇨何がどうだと教えてくれるのを待つ代わりに、自分自信の欲求や感情
に頼ることができる

人間至上主義の倫理における最も興味深い論議は、浮気のように、
人間の感情どうしが衝突する状況にかかわるもの
⇨浮気について現代人の意見は様々だが、どんな立場を取ろうと、
聖典や神の戒律ではなく人間の感情の名においてその立場を正当化する
傾向にある

人間至上主義のモットー:もしそれで気持ちが良いのならそうすればいい

人間至上主義に基づく消費経済
⇨うれていれば正しいことをしているといえる。動物を苦しめることになったとしても

現代では仮に自分が神の存在を信じているとしたらそれは選択の結果でしかない
⇨神の存在を自分の内なる感情が感じるからで、もし感じなくなれば神を信じるのをやめる

とはいえ感情だけというのも、自分の内なる声がきれいにいつも帰ってくるわけではない
⇨中世のヨーロッパ:知識=聖書×論理
⇨科学革命:知識=観察に基づくデータ×数学
倫理的な判断が要求される際には上記2種類の公式が併用された

⇨人間至上主義:知識=経験×感性
<=>知識=(感覚+情動+思考)×感性
経験は上の足し算

感性とは?
1 自分の感覚と情動と思考に注意を払うこと
2 自分の感覚と情動と思考が自分に影響を与えるのを許すこと

経験と感性は互いに不可欠でサイクルをたどりながら高め合う
感性はインプットするだけで向上するものではなく、実際に応用することでのみ
発達する

人間至上主義の人生における最高の目的は、多種多様な知的経験や情動的経験
や身体的経験を通じて知識をめいいっぱい深めること

科学(陽)と人間至上主義(陰)の関係性
陽:力を与えてくれる
陰:倫理的判断を与えてくれる
現代の陽:理性、研究所、生産ライン
現代の陰:情動、美術館、スーパーマーケット

人生は経験の連続であるという人間至上主義の味方
⇨観光から芸術まで多くの産業の基盤になった
⇨旅行業者やレストランのシェフは航空券やホテルや合成なディナーを
売っているのではなく、斬新な経験を売っている

映画は武勇伝モノから一市民の情動を描く物語に移っていき、
戦争については将軍の話よりも一兵士の感情に着目するようになった
⇨一兵士の感情が戦争に関する究極の権威となり、だれもがそれに敬意を
払うことを覚えた

人間至上主義の3つの宗派

1 自由主義的な人間至上主義
どの人間も独自の内なる声と二度と繰り返されることのない一連の経験を持つ
唯一無二の個人である。これらの個人に出来る限り多くの自由を与え、世界を経験
したり、自分の内なる声に従ったり自分の内なる真実を表現したりすべきと考える

特徴
・自国内でのアイデンティティの定義をめぐって根本的な対立がうまれると収集がつかない
・自国独自の価値を持ち続けているとそれが他国より優れていると思い込む
・政治では有権者がいちばん良く知っており、経済では顧客がつねに正しい

人が民主的な選挙の結果を受け入れる義務があると感じるのは、他のほとんどの
投票者と基本的な絆(共通の宗教的信念や国家の神話)がある場合に限られる
⇨自由主義は多くの場合昔ながらの集団的アイデンティティや部族感情と融合して
近代以降の国家主義を形づくってきた:対外的にも(他国を傷つけないで)対内的にも自由主義を尊重しつつ、
個々の国の国民が独自に文化等を発達させるべきだという主張

2 社会主義的な人間至上主義
超自然的な力を信じない
人間の経験を自由主義の立場から解釈するのは間違っていると指摘
⇦あらゆる権威と意味が個人の経験から流れ出てくるのならその異なる経験同士のむじゅん
をどう解決すればよいかわからないではないか

特徴
・自分と自分の感情にばかり夢中になるのをやめ、他者がどう感じているかや自分の行動が
他者の経験にどう影響するかに注意を向けることを要求する
・政治では党がいちばん良く知っており、経済では職種別組合がつねに正しい
・権威と意味は依然として人間の経験に由来するが、個人は自分の個人的な感情よりも
党と職種別組合が言うことに耳を傾けなくてはならない

3 進化論的な人間至上主義
超自然的な力を信じない
人間の経験を自由主義の立場から解釈するのは間違っていると指摘
⇦あらゆる権威と意味が個人の経験から流れ出てくるのならその異なる経験同士のむじゅん
をどう解決すればよいかわからないではないか

特徴
・ダーウィンの進化論を基盤としている
・争いは嘆くべきでなく、賞賛すべきものであり、人間に優劣がある場合には人間の経験の
優劣の対立となり、自然選択によって生き残る者が決まる
・私の命を奪わないものは私をより強くする
・戦争に反対する自由主義の芸術家たちと同様ヒトラーも一兵士たちの
経験を神聖視した。
・ナチズムとは異なる
⇦ナチズムは進化論的な人間至上主義と特定の人種理論や超国家主義的感情
が組み合わさってできた(進化論的人間至上主義がすべて人種差別をするわけではない)

2016年の時点で、個人主義と人権と民主主義と自由市場という自由主義のぱケージにかわるものはない
⇨中国がこれに取って代わる可能性を感じさせるが、中国自身何を信じているのか知らない

テクノロジーは宗教に頼っている
⇦宗教的な指針がなければどちらに進めばよいかわからないから

テクノロジーが宗教的ビジョンの限界を定めることもある
⇦テクノロジーの発展によりその時代それぞれで信じる神が変わってきた

その時代のテクノロジーと乖離する宗教は投げかけられる疑問を理解する能力さえ失う

マルクスたちは新しいテクノロジーの実情と新しい人間の経験を理解していた
⇨工業社会の新しい問題に対する妥当な答えも前例のない機会にどうあずかるかについての独創的な
考えも持っていた
⇨史上初のテクノ宗教を確立
⇨イデオロギー上の論議の土台を変えた:以前は生産方法についてではなく神に
ついての見方に即して自らを定義し、区別していた
⇨19世紀なかばにはほとんどの社会は何が起こっているのかを理解しそこね、進歩の列車にのりおくれた

21世紀の列車はホモ・サピエンスという駅を離れる最後の列車になる
⇨21世紀のテクノロジー:バイオテクノロジーとコンピュータアルゴリズム
⇨体と脳の設計の仕方を知っている人とそうでないひとの格差は大幅に広がる

人間至上主義にしたがい、感情を信頼したおかげでわたしたちは代償を支払うことなく
現代の果実の恩恵にあずかることはできた
⇨人間のちからを制限したり意味を与えてくれたるする神を必要としない
⇦消費者と有権者の自由な選択が必要とされる意味をすべて提供してくれるから
⇨それならば消費者と有権者が断じて自由な選択をしてないことに我々がきづいたらどうなるか?
⇨かれらの気持ちを計算したりデザインしたりその裏をかいたりするテクノロジーを手にしたらどうなるのか?
⇨全宇宙が人間の経験次第だとすれば人間の経験もまたデザイン可能な製品となってスーパーマーケットに
ならぶどんな品物とも本質的に違わなくなったときに何が起こるのか?

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