見出し画像

鑑識の職人達

現在の組織体制とは異なるかと思いますが本部鑑識課に勤務した話。

中規模程度の警察署鑑識係員として勤務時に巡査部長試験に合格、次の定期異動で同程度の警察署の地域警察勤務。

そこで昇任して本部鑑識課指紋係に異動。

街頭活動ばかりの者がいきなりデスクワーク、それも緻密な指紋係。

予想だにしなかった異動に内心は動顛。

しかし、職務命令、唯々諾々と従うのみ。

鑑識の主要な部門、指紋と言われ、何を思い浮かべるかと言えば現場に残された重要な資料。

犯罪小説や刑事ドラマとかでもよく出て来るもの。

ご存じと思いますが指紋には二大特性「万人不同」「終生不変」があります。

一人ひとりがすべて違うという「万人不同」、確率計算上人類全て相違していると習いました。

生まれてから死ぬまで大きさは変わるが紋様は変わらないという「終生不変」。

犯罪捜査には欠くべからざる個人の特定、個人を識別するのに非常に役立つもの。

鑑識課の職場では警察職員の方々が拡大鏡を見ながら現場採取のゼラチン紙と被疑者指紋や協力者指紋(事件関係者から採取した指紋)を照合しております。

指紋係の重鎮の補佐は戦後の国家地方警察、自治体警察時代から警察署での鑑識全般の業務に従事し、県警察に統合後はずっと指紋一筋、今でいう生きるレジェンド。

数々の難事件の解決に指紋照合で貢献、手柄話は数多あり。

一緒に勤務した数年間でも遺留指紋からの被疑者割出を幾度となく、この人の頭の中には被疑者の指紋がインプットされているのか、手口と指紋の特徴から「こりゃ、〇〇じゃ」などと被疑者の名前が浮かんで照合すればまさにその者ずばりでした。

これぞプロフェッショナル、職人。

この方以下の中堅若手も皆々指紋鑑定の職人さん。

指紋資料もテレビドラマのような鮮明な指紋はまずありません。
素人目にはこれが指紋か?と言うような資料ばかり。
しかし、中堅若手の職員も無言で資料に向き合い、集中して鑑定。指紋と言うより汗腺の点々だけのような代物でも綿密徹底して照合、暫くすると合致したと一言。

補佐に再確認してもらう。
補佐も「よく見たな」と職員の鑑定技術の高さを褒める。

ただし、補佐がこれは無理と言うこともある。
また、補佐も判断に迷う時は全員で鑑定、こういう時は大体一致鑑定に至らずとなりました。

事件が裁判となり、被告人側が一致した指紋資料にいちゃもんをつけると、鑑定官の職員が証人出廷と言うことになります。

そこまでなることを想定して照合業務に従事している訳です。

スポットライトの当たることはあまりありませんが地道に技術レベルの向上に勤め、被疑者割り出しに勤めている職人達がいるという話です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?