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黒猫ハルカ

いつもと同じくらいの時間。
残業した帰り道にスーパーに寄る。

すっかり淋しくなった棚から適当に食材を取ってかごに入れる。

30歳も間近に迫った独身彼女なし独り暮らし。
せめてもと思い、自炊だけは欠かさないようにしていた。


健康のため
節約のため
あとは少しでもモテるため


会社や友人たちには適当にそんな理由をつけて自炊をしている理由を返していた。

しかし、本当は別の理由があった。



アパートに帰り明かりをつけると同時に黒い塊が勢いよく飛びかかってきた。

黒猫「ニャーオ!」


〇〇は飛び込んできたきれいな毛並みの黒猫を抱きかかえ、いつものように言葉をかける。


〇〇「ただいま、ハルカ」


ハルカ「ニャ~」


嬉しそうに返事をするかのように鳴き声を鳴らすと、スリスリとすり寄る。


彼女の名前はハルカ。
〇〇が飼っている黒猫である。
小さい頃に野良で弱っていたところを〇〇が助けて、それ以来一緒にいる。
〇〇にとって大切な家族だ。


〇〇「お腹すいただろ。今御飯作るからな」

ハルカ「うにゃ~ん」


〇〇はすぐに着替えを済ませて手を洗うとキッチンに立った。

するとハルカが器用に〇〇の肩に飛び乗り、そのまま〇〇が料理している姿を見ている。

小さい頃からのクセなのか、ずっと離れないでいたせいか、ハルカは料理をするときも楽しそうに〇〇のそばにいる。

これが〇〇が料理をする一番の理由だった。


ハルカの分も手料理で仕立て上げて、自分の分も出来上がったので、仲良く並んで食べる。


〇〇「美味しいか?」

ハルカ「ニャーン!」


ペロリとたいらげた一人と一匹は早々にベッドへと向かう。


ベッドに入るとハルカも当然のようにやってきて〇〇の身体に抱きつくようにピタッとひっついて眠りにつく。


そんな幸せな光景を目にしながら、〇〇は眠りにつくのだった。






翌日

なんとなく目が覚めた〇〇。
目覚ましが鳴る前に起きてしまったのがなんだか悔しくて二度寝に突入しようと身体をクネらせようとすると、なんだか変な感覚。

〇〇「…ん?」


いつものように、腕と身体の間に挟まるようにして寝ているハルカを潰さないようにしようとするといつもと感触が違う。


なんか感触が違う。猫というより…そう、人間のような肌触り。
ていうか、そもそも大きい。


不思議に思い〇〇が布団をめくると、そこには〇〇に抱きつくようにして眠る黒髪の美少女の姿が飛び込んできた。


〇〇「んなっ!?」


思わず身体を仰け反らせると、眠っていたその美少女は目を覚まして目をこすりながら〇〇を見つめた。


美少女「おはよう〜〇〇」


〇〇「き、キミは誰!?」


美少女「もぅ、ハルカだよ! 〇〇〜」


そういいながらハルカと名乗る美少女は、一度離れたかと思うと助走をつけるかのようにしながらふたたび抱きついて頬を〇〇の胸に擦り寄せた。

〇〇「…あ」


それは毎朝ハルカがする仕草。

それだけじゃない。姿形は違っても、ハルカの雰囲気というか仕草みたいなのとかが、目の前にいる美少女がハルカだと思うには十分すぎた。


〇〇「本当にハルカ…?」

ハルカ「もぅ、だからそうだって言ってるでしょ〜」


〇〇「な、なんで人間に?」


ハルカ「ん〜、よくわからない。でも、ずっと人間になって〇〇と一緒にいたいと思ってたからすっごく嬉しい!」

満面の笑みでそんなことをいうハルカは、そこいらにいるどんなにアイドルや女優なんかよりも可愛かった。


〇〇「と、とりあえず朝ごはんにしよう。考えるのはそれからだ!」


とはいえ、あまりに突拍子もない展開に頭がついていかない〇〇だったが、とりあえず思考を落ち着かせるために朝ごはんを作り始めることにした。

ルーティンをすれば無心になれる。

そう思っていつものようにキッチンに立つ。


そのとき、背後から〇〇の身体に腕がまわったと思ったらギュッと抱きしめられる感覚に襲われた。

〇〇「ハ、ハルカ!?」


そこにはハルカが背後から〇〇を抱きしめながら、背中から顔を覗かせるようにして料理をするのを観ていた。


〇〇「あ、危ないから」


ハルカ「イヤ。いつもみたいに〇〇が料理するとこ観てる。肩には乗れないからこうしてる」


ぎゅうっと抱きしめられると人間姿のハルカの柔らかさというか、身体の感触が直に伝わってきて、変な感情になりそうになるのを必死に我慢して〇〇はなんとか料理を作り終えた。


人間の姿なので、テーブルに2人分の食器やグラスを用意した。


ハルカ「えへへ~」

〇〇「どうしたの?」


ハルカ「〇〇と一緒に御飯食べれる〜」

〇〇「いつも一緒に食べてたじゃんw」


ハルカ「こうやって並んで食べたかったの!」


〇〇「ああ、なるほどね。俺もハルカとこうして一緒に食べれて嬉しいよ」


ハルカ「本当!? ほんとにほんとに!?」


〇〇「うん、もちろん」


ハルカ「えへへ~、嬉しいなんて〜」

ニヤニヤが止まらないハルカは、慣れないフォークを必死に使ってご飯を食べ終えた。




結局その日、〇〇は会社を休むことにした。
ハルカを一人で放って置くことは出来ないし、それ以上に一緒にいたいハルカが駄々をこねて聞かなかったからだ。

ハルカ「やだー! 寂しいよ〜、行っちゃイヤ〜! 〇〇〜」


玄関で抱きつきながらただをこねるハルカ。
そういえば猫の姿のときも、会社に行くとき毎朝鳴きつかれてたな。
こんな感じのこと言ってたのか。


ハルカには申し訳ないが少し微笑ましかった。


その後は家でゴロゴロしたり、ハルカとゲームしたり、絵を描いたり、人間の姿でしかできないことをして過ごした。

ハルカが楽しめたのは何よりだった。



時間はあっという間に過ぎて夜になる。

朝起きたときみたいにベッドに横になった〇〇に抱きつくようにしてハルカもベッドに入ってくる。


〇〇「ねぇ、ハルカはいつまで人間の姿でいられるの…?」


聞いていいのか分からなかったが、聞かずにはいられなかった。


ハルカ「…わからないけど、ずっとは無理だと思う。やっぱり私は人間にはなれないから」


そう無理やり微笑みながら言うハルカ。
彼女の想いが痛いほどわかって、〇〇のほうが悲しくなる。


〇〇「ハルカ、俺は猫の姿のハルカも、人間の姿のハルカも、どんな姿でも大好きだよ。その気持ちは変わらないから」


ハルカ「ぐすっ、〇〇…ありがとう。私も〇〇のこと大好きだよ」


そういいながらハルカはいつまでも〇〇の胸の中で泣き続けるのだった。






翌日
目が覚めると、いつもの感覚。
小さく毛並みの良い感覚が伝わってきた。

ゆっくりとベッドをめくるとそこには見慣れた黒猫姿のハルカが寝息をたてていた。


猫の姿を見て安心した気持ちと、さみしい気持ちが同時に押し寄せる。


〇〇は優しくハルカを撫でる。


すると、ハルカゆっくりと目を覚まして〇〇の手に甘えるようにすり寄った。


〇〇「おはようハルカ……また、ハルカにおはようって言ってほしいな…」


もう叶うはずのない願い。


ハルカを撫でながらそう呟くと、不意にハルカの身体が光ったと思ったら次の瞬間、人間の姿のハルカが目の前に現れた。

ハルカ「〇〇! おはよう!」

満面の笑みで〇〇の願いを叶えるハルカ。


〇〇「ええっ!? ハ、ハルカ!? どうしてまた人間の姿に!?」


あまりの驚きを隠せない〇〇。
しかし、ハルカの次の言葉に〇〇はさらに驚かされる。


ハルカ「えへへ、なんか人間の姿に自由になれるようになったみたい!」


〇〇「ええええッ!?!?」


朝の心地よい木漏れ日の中で、〇〇の驚きの声が響き渡るのだった。







終わり?

この物語はフィクションです。
実在する人物などとは一切関係ございません。

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