夜に味わう
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もう10月も終わろうかと言うのに、真夏日だなんてどうかしてる。
すっかり暗くなった月夜を、ベッドに寝転がりながらパタパタと団扇で扇ぎながら眺める。
熱帯夜とまでは行かないけど、エアコンを付けないでいるとじんわりと汗ばむ。
エアコンがないわけではないが、暑さのピークを過ぎたなかで、できるだけ節約しようと窓を開けて風を通しているが、生暖かさを帯びた風は快適とは言い難かった。
それでも仕方がない。
一人暮らしがしたかったけど、金が無い貧乏学生には都内での一人暮らしは敷居が高く、なんとか見つけたシェアハウスで気ままな大学生活を送っていた。
〇〇「あー、ダメだ暑すぎる…」
団扇をベッドの端に投げ出して身を起こす。
時刻は午後11時をとっくにまわり、日をまたごうとしていた。
暑さのせいで寝付けなくなったのに加え、小腹がすいた身体をベッドから起き上がらせると、自分の部屋からゆっくりと出る。
共用部の廊下を通って階段を降り、キッチンへと向かう。
さすがに夜も遅いから誰もいない。
明かりもすべて消えている。
〇〇は明かりをつけることなく歩みを進めると冷蔵庫の前までたどり着くと、おもむろに扉を開けた。
すーっと冷気がこぼれてきてそれだけで心地よさを感じる。
〇〇「(たしか、アイスがあったはず…)」
まえに近くのスーパーで安売りしていた棒アイスを買っていたのを思い出して、中を物色する。
ちょうど目当てのアイスの箱を見つけた瞬間だった。
蓮加「な〜にやってんの?」
〇〇「うおっ!?」
蓮加「ちょ! 大声出さないでよ!」
不意に背後の、しかも至近距離で声をかけられて思わず心臓が飛び出そうなほど驚いた。
そこにはショートパンツにノースリーブのシャツを着た、シェアハウスの住人の岩本蓮加が立っていた。
〇〇「蓮加か、脅かすなよ」
蓮加「真っ暗な中で何かやってるからドロボーかと思ったら〇〇だったからさ。んで、なにやってんの?」
蓮加はそういうと冷蔵庫のなかを覗き込むようにしながら、自らの身体を〇〇にくっつけながら覗き込む。
お互い薄着同士
しかも、蓮加は露出部分が極端に多いから否応にも彼女の感触が伝わってくる。
〇〇「暑くてさ。アイス、食べようかなって」
そういいながら、〇〇は箱からアイスを一本取り出す。
蓮加「えー、いいなー、蓮加もアイス食べたいー」
〇〇「食べたきゃ買ってこいよ」
蓮加「乙女にこんな深夜に一人で買い物に行けと?」
〇〇「すぐそこにコンビニあるじゃん。斜向かいだぜ。やる気出せば五分で行って帰ってこれる」
蓮加「やる気出せないから無理。あー、アイス食べたいな〜」
そういいながら、蓮加は〇〇の背中に顎を乗せるようにしながら駄々をこね始める。
蓮加の声が背中に響いてこそばゆい。
そして、これは蓮加の面倒な時だ。
こうなったら〇〇が折れるまで絶対に妥協しないやつ。
しかたがない。
〇〇はわざとらしく大きめにため息をつきながら棒アイスの箱を手に蓮加に差し出した。
〇〇「今回だけだぞ」
蓮加「やった! さすが〇〇! 大好き!」
思わずドキッとした。
わかってるさ、大好き、の意味がそういう意味じゃないことくらい。
蓮加は〇〇から箱を受け取ると、どれにしようかな~、と言いながらアイスの味を選んでから自ら冷蔵庫にアイスの箱をしまおうと身を乗り出した。
冷蔵庫の明かりが彼女の身体を照らす。
先ほどまでは暗くて彼女の感触しかよく分からなかったが、灯りに照らされて彼女の身体というか、服から見える地肌の部分に無意識に目がいった。
華奢とは違うが、痩せている。
それでもしっかりと身体は女性で、思わずそういう目で見てしまう。
蓮加「決ーめた! 蓮加はグレープにするね」
屈託なく振り向きながら見せる笑顔に、思わず視線を背けてから再び彼女の方を向いて返事をする。
〇〇「美味しいよな、グレープ」
アイスの箱を冷蔵庫にしまうと、明かりがなくなり再び薄暗いキッチンへと戻る。
二人で他愛もない話をしながら部屋のある2階へと歩みを進める。
〇〇「んじゃ」
自分の部屋の前まで来た〇〇は蓮加に一言告げてから自分の部屋に入ろうとする。
しかし、〇〇が入るとさも当然かのように蓮加もついてきた。
〇〇「え? なに、なんで俺の部屋入ってきてんの?」
蓮加「せっかくだからさ、一緒に食べようよアイス」
〇〇「自分の部屋で食えばいいじゃん」
蓮加「私の部屋エアコンつけてたから涼しいんだよね。〇〇の部屋のほうが暑くてアイス食べるにはちょうどいいじゃん」
まえに節約のために夜はエアコンをなるべく付けないようにしてると言う話をシェアハウスの住人たちにしたのを今更ながら後悔した。
〇〇「悪かったなビンボーで」
蓮加「そんなこと言ってないじゃん。むしろアイスを美味しく食べれるんだからいいことだよ」
そういうと、蓮加は慣れたように
というか当たり前のように〇〇のベッドにボフッと腰を下ろした。
蓮加「ほら、早く〇〇もこっちきなよ。アイス溶けちゃうよ」
蓮加は自らの隣をポンポンとたたいて、自らの横に座るよう促した。
あきらめて〇〇はゆっくりと蓮加の横に腰を下ろす。
ベッドが沈み込んだせいか
蓮加が体勢を整えようと少し腰を浮かすとそのままピトッとくっつくように〇〇に並ぶ。
そしてそのまま棒アイスを袋からとりだして口に含んだ。
蓮加「んー! おいし~!」
一本にしたら数十円の特売のアイスが、蓮加が口に咥えるだけでまるで違ったもののように見える。
〇〇はそんな考えを振り払うかのようにアイスを袋から出して自らも食べ始めた。
蓮加「〇〇の何味?」
〇〇「俺はパイン」
蓮加「ふーん、〇〇パイン好きなんだっけ?」
〇〇「いや、なんとなく気分だったから」
蓮加「そっか。ねぇ、蓮加もパイン食べたい」
そういうと蓮加は〇〇の返事を聞くまでもなく身を乗り出して、半ば〇〇に抱きつくようにしながら〇〇のパインアイスを咥えた。
ただアイスを食べているだけ
それなのに、妙に官能的な光景に思わず〇〇は胸をざわめかせる。
蓮加「んふっ、美味しい。ねぇ、〇〇もグレープ味食べたいでしょ?」
今度は蓮加が体勢を変えないまま、自らが持っていたアイスを見せながら〇〇に言った。
〇〇「俺はいいよ」
蓮加「遠慮しないで。〇〇はいつも遠慮するから」
〇〇「そんなことないよ」
蓮加「そんなことあるよ。〇〇が自分で食べないなら蓮加が食べさせてあげる」
〇〇「何言ってー ッ!?」
蓮加は自らのアイスの残りを口に含んだと思ったら、そのまま〇〇に口移しするかのように唇を合わせ、そのままキスをした。
蓮加の口からグレープ味が流れ込んでくる。
次第にアイスがなくなってもキスは終わらない。
味がなくなり、お互いの唾液だけがクチュクチュと卑猥な音を静かな部屋に響かせる。
蓮加「んはぁ… どう、美味しかった?」
〇〇「う、うん、まぁ」
なんて返したらいいかわからない。
目の前では目をトロンとさせ、欲情しかけた女性の目をした蓮加がゆったりと体重を預けてきて、気がつけばゆっくりと押し倒されていた。
蓮加「私はまだ味わい足りない。今日は〇〇をじっくり味わうから」
そういいながら蓮加は再び〇〇にキスをする。
そのまま、二人は暑い夜のなかで、熱い夜を味わうのだった。
おわり
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。