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3 幼馴染の和さんは寂しがり

和「ごちそうさま…」

夕ご飯を半分以上残した和はあからさまに元気がない声色で、食事の終わりを告げるとトボトボとリビングをあとにして自室へと戻っていく。


和父「…和はどうしたんだ?」

娘の元気のない姿に心配になりながら、隣りに座ってご飯を食べている和の母親にに向かって父親が尋ねた。


和母「〇〇くんが大学のゼミの合宿でいないのよ」

和の母がそう答えると、和の父は合点がいったように若干呆れつつも安心したように椅子の背もたれに体を預けた。

和父「あぁ、なるほどね」

ゆっくりと座り直しながら味噌汁に手を伸ばして、何事もなかったかのように食事を続けるのだった。




和「はぁ~……」

和は部屋に戻るとベッド脇のテーブルに立てかけるようにして置いたスマホを眺めながらため息をついた。

画面には〇〇とのLINEのトーク画面があけられている。

今朝、〇〇を見送ったときにいれたメッセージの既読を最後に、和がその後に送ったメッセージには既読はついてついていなかった。

和「なんで返事返さないのよ……」


誰にともなくつぶやきながら、返事のないトーク画面を見続ける。

どんどんマイナス思考に陥りそうになる。

迷惑かな
私のこと嫌いなのかな
もしかして好きな人とかいるのかな

そんなことない。
必死にそう言い聞かすが一度傾いた心はどんどん悪い方向に傾き続ける。

私「うぅ…ぐすっ…」

涙が出そうになったその時だった。


ピロン

待ちに待ったLINEの通知音。

ハッとして顔をあげ、慌ててスマホを手に取る。

〇〇「〈よっ、元気か〜?w〉」


こっちの気も知らない呑気な返事に少しだけイラッとしながらも、返事のきた嬉しさに和はすぐに返事を返す。


和「〈元気だよ。てか、返事遅い(●`ε´●)〉」

〇〇「〈ごめんごめん。ゼミのフィールドワークとかでさっきまでずっとバタバタしてたからさ〉」

和「〈…でも、寂しかった〉」

思わず本音が漏れた。

メッセージを送信してから少しだけ恥ずかしさがこみ上げる。


〜♪

不意の着信音。
〇〇からのビデオ通話だった。

和はとっさに髪型を軽く手ぐしで整えてから通話に出る。

画面にはスウェット姿の〇〇が映し出された。

〇〇「寂しがりやの和〜、元気か?」

いたずらっぽく微笑みながら小さな画面の中で手を振る〇〇。

和「寂しかったのは〇〇でしょ」

少しだけ抵抗してみる。

〇〇「いやいや、さっき寂しかったって言ってたじゃんw」

和「むぅ」

頬を膨らませてみるが、〇〇と画面越しにでも会えて話せることが嬉しくてつい笑顔になる。


和「今なにしてるの?」

〇〇「さっきまでゼミのメンバーとかと夕飯食べながら飲んでて、今は解散してのんびりしてる」

そう言いながら少しスマホを引いて画角に背景を映し出す。
大学のゲストハウスでやると〇〇が言ってた。
思っていたよりもきれいな感じ。

和「いいなー、私もはやく大学生になりたい」

〇〇「えー、いいじゃん高校生。あの縛られた自由っていうか、あの時しか味わえない感覚っていうかさ」

和「まぁ、学校は楽しいけど」

けど、のあとに続く言葉を飲み込んだ。
〇〇と一緒にいれたら。
それを伝える勇気はまだない。


〇〇「まぁ、焦らなくてもすぐになれるさ。それよりも今を思い切り楽しみな」

〇〇の言葉にふふっと笑みをこぼす。

和「〇〇は楽しみ過ぎだけどねw」

〇〇「えー、ソンナコトナイヨ。いろいろ悩んでるし」

和「心こもってなーい。悩みなんて聞いたことないよ」

〇〇「いやいや、いろいろあるのよ。ゼミの課題大変だなーとか、バイト疲れるよなーとか、就活はじめないとなーとか……恋とか」

和「!?」


〇〇の最後の言葉に思わず反応する。

和「…〇〇は好きな人とかいるの?」

〇〇「んー、どうだろう。好きなのかな。よくわからない」

〇〇はそういうと、どこから取り出したのか飲みかけの缶チューハイをコクリと傾けた。

珍しく〇〇はなんだかしっぽりとした雰囲気で、お酒が入っていたためなのか、〇〇のこんな雰囲気は初めて見る。

和「そのひとはゼミの人?」

〇〇「え? ないない。ゼミの奴らはただの友達」

その言葉に少しだけ安心する。


和「…じゃあ、それってさ、もしかして…私―」

和が意を決して〇〇に問いかけようとしたまさにその時だった。


美月「〇〇〜、こんなところで何やってんのよ〜」

美波「あれ〜、電話中? もしかして彼女?w」


突然聞こえてきた女性の声。
その声の主たちは〇〇のカメラの画角に映り込んできた。
〇〇と同い年くらいで、和よりも少しだけ大人びた雰囲気の女性たち。
恐らくゼミの友人なのだろう。〇〇と同じような格好をしている。

〇〇「は? ち、ちげーよ! てか、あっち行ってろ!」


3人でスマホを覗き込むようにするので自然と距離が近くなる。

和「むぅ…」


美月「うわっ、かわいい! あ、〇〇の大学のゼミの同期で山下美月でーす」

美波「同じく梅澤美波です。てか、ヤバいかわいい。〇〇にはもったいないよ。え、彼女なの?」

〇〇「だから、ちげーって! 隣の家に住んでる幼馴染! てか、高校生だから絡むな!」

和「あ、えと、井上和です。よろしくお願いします」

どうしていいかわからずとりあえず挨拶をする。


美月「てか、飲み直そうって言ってるのに〇〇いないから迎えに来てあげたんじゃん!」

〇〇「わかったよ、すぐ行くから!」

そういいながら、美月は〇〇の腕を抱きしめるようにしながら掴む。

和「むぅ…」


美波「〇〇全然飲んでないでしょ。逃さないからね」

〇〇「いや! 別に逃げようとしてないからね!」

美波も反対側の腕を掴んで逃さないようだ。

和「むぅぅ…」


そんな姿を見ていた和の頬がかつてないほど膨れ上がっているのを〇〇は気づいていなかった。



和「お邪魔みたいだから切るね! じゃあね!」

〇〇「え!? あ、ちょ、和!?」


〇〇が止めようとしたが、一方的に和は通話を切った。


和「…〇〇のバカー!!!」



その後、〇〇からの折り返しやメッセージを完全に無視した和に、帰ってきてからずっといっしょにいることを強要されたのはまた別のお話。




つづく



この物語はフィクションです
実在する人物などとは一切関係ございません。

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