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“恩送り”の精神が繋がり続ける大学へ。声優アニメソングコース・江原陽子教授が思う、人間性の大切さ

洗足学園音楽大学を卒業した後に幅広い領域で活躍する同窓生や、現在洗足学園にて教鞭を執る先生方にお話を伺う、洗足学園音楽大学同窓会コラム。

今回は声優アニメソングコースの設立時から現在に至るまで学生の指導にあたり、洗足学園音楽大学・大学院にて教授を務める江原陽子(えばらようこ)先生にお話を伺いました。

江原先生が思う、洗足学園の魅力とは

―― 洗足学園をどんな学校だと感じられますか。

私が洗足学園に勤め始めたのは声優アニメソングコースが設立された2016年なのですが、それまでは10年近くコンサート等の司会をさせていただいておりました。当初は主に小学校オーケストラのコンサートや入学式、卒業式で司会をさせていただいたのですが、楽器をはじめて手にしてから1~2年しか経っていない小学生たちがサントリーホールの舞台に立つ姿には驚きました! しかも、指揮は秋山和慶先生、ピアノは仲道郁代さんが弾いてくださって……。
小学生オーケストラに限らず、大学でも同じことを感じるのですが、学生の皆んなが「いいじゃないか!」って提案すると、先生方が動き出して、実現に向けて物事が進み出す。何かをやろうと決まった際のスピード感・実現力は、この学校の素晴らしいところだなと感じています。
 
プロの先生が結集して学生をサポートするので、普通ではないクオリティで物事が実現するんですよね。プロの先生が現場で働く姿を学生に見せることも素晴らしいことだと感じますし、音大に限った話ではなく「こういうことって夢だけど、実現したらいいよね」と口に出したら本当に実現する環境って少ないと思うんです。
司会として携わらせていただいた当初から、洗足学園は“夢が実現するところ”という印象が非常に強かったですね。

――アイデアを否定されるのではなく、尊重してもらえること。素晴らしい環境だと感じます。

夢が実現する学校だからこそ、学生の皆さんが「洗足に来てよかった」と思えるように、常に前を向いていかなければならない。そんな責任と使命は、常々感じています。
特に、舞台ってオーディションがあるじゃないですか。メインの子は目立つシーンが多いけれど、たとえセリフが少ない子でも前に出る場面を設けたり、光が当たるように演出を工夫したりして、全員が「やった!」と思えるような舞台を作りたいと、演出の先生と話しています。そのような意識で舞台制作を進めていけば、全員キラキラした目で舞台に立てるんですよね。
ただ学校を大きくするのではなく、どの学生も満足して卒業できるように、信念を持って教育の現場に向き合い続けること。それが何よりも大切だと感じます。

後輩へと代々受け継がれる“恩送り”

――毎年多くの学生が入学し、卒業します。普段どのようなことを意識して授業を行っていますか。

まず、社会に出たら恥ずかしい思いをしないように、1年生の最初の授業ではメールの書き方や、社会的なマナーについて教えています。今はLINEで連絡を取ることも多いですが、メールのやり取りはやはり基本なので!
 
音楽を勉強するうえで、きちんと時間をかけて学んでいかなければいけないことはもちろんありますが、これは知って臨んでほしいことは伝えてあげたいなって。私達が10年かかって分かったことを伝えることで、学生の皆んなが、その10年を先に進めることに使えるじゃないですか。
 
人に言われたからといって簡単には理解できないこともあるとは思いますが、そうすることでどんどん最適化されていきますよね。それが“教育“だと思います。

また、洗足学園は学生と社会を繋ぐキャリアセンターの機能が充実している点も魅力のひとつであると感じますが、先生が立っている舞台に学生も出演するとか、先生の演奏会に学生がバックコーラスで出演するとか、そのような形で先生方が現場に学生を引き上げてくださることもあります。だからこそ、礼儀・礼節をきちんと守ることはとっても大切で。
 
それに、外部に紹介できるような学生を育て、「この学生たちなら大丈夫です!」という自信のもとに、同じプロの舞台に立ってもらう。先生にとっても、学生にとっても、こんな素敵なことはありませんよね。

そうして育った学生が後輩にも同じようにして、代々受け継がれていく。恩返しじゃなくて、恩をいただいて恩を送っていく……、 “恩送り”ですよね。そんな恩送りがジャンルの垣根を越えて増え続けたら、音楽業界全体の質もさらに上がっていくのではないかと感じています。

声優アニメソングコースを卒業した学生の進路

――声優アニメソングコースの卒業生は、主にどのような進路に進んでいるのでしょうか。

声優事務所に所属する学生や、養成所に入る学生配信等で個人活動する学生に、一般就職をする学生もいます。
一般的には、オーディションを受けて実績を積み上げていくような形をイメージされることもありますが、声優事務所に入った方が実際受けることができるオーディションの数が多いという場合もあります。

――声優事務所ごとに、独自のシステムが存在するのですね。

そうですね。たとえば専門学校では学生が卒業するときにたくさんの事務所の方が来られて、多くの学生が養成所に入ると耳にしたことがありますが、当コースでは1社ずつ事務所の方に来ていただくようにしています。今後はキャリアセンターとも連携して広げていく予定です。

多くの学生を一度に採用していただいても、事務所の方針に合わなかったり、仕事のチャンスが得られないようだったらもったいないので、確実に事務所の戦力になる子を引っ張っていただく方が良いのでは?と考え、このような形を選びました。それに、きちんと「ここがダメだったから、ここを伸ばしてね」と言ってもらえた方が、その子の力にもなると思うんです。
そうして自分の伸ばすべきところや強みを再発見した学生も多く、一般企業からお声がけいただく学生も、これまで以上に増えてきました。

それ以外にも、音楽・音響デザインコースの先生からガイドボイス収録の制作依頼をいただくこともあり、学内のご縁がきっかけで学生のお仕事に繋がることも多々あります。
洗足は専門学校と違ってさまざまなコースが存在しますし、その中で多くの仲間や先生方との人脈を作ることができる。これは本当に強みだと感じます。

また、今年の1月に発売された『Pokémon LEGENDSアルセウス』では、1期生の卒業生と4期生の在学生が主人公(アバター)のキャラクターボイスを担当していますし、色々な形で声優アニメソングコースの学生や卒業生は活躍しています。
卒業生とこれから卒業を控えている学生が、自分達の実力でお仕事を掴み取ったことは、私達教員にとっても大きな光となりました。

コロナ禍における授業・演奏会の工夫

――コロナ禍に入ってから約3年が経ちました。どのような工夫を重ねて授業や演奏会を実施して来られましたか。

最初の頃は本当に大変でした! 私自身、Googleクラスルームって何?って状態でしたし、他の先生方からも「オンラインではできません」と言われることもあって……。
ただ、できないことを嘆いたってやるしかないじゃないですか。学生に「これはできないよ」と夢も希望もないことは言いたくなかったので、今できることは何かを考え続けて、工夫を重ねていきましたね。
 
たとえば、家で歌うと近隣の方の迷惑になってしまう可能性があるので、大きな声を出さなくていいようにバラード特集にしたり、楽曲へのイメージ共有のために近所をお散歩して、曲のイメージに合う写真を撮ってきてもらったりとか。
コロナ禍に入ったことで、これまで見落としがちだった課題を丁寧に取り組めたのはひとつの発見だったと感じます。

――コロナ禍に入らなかったら、そのような内容には取り組まなかった可能性もあると。

ただ、2年目になったらさすがに不満も出てくるじゃないですか。大学にも、世の中にも。だから、短くてもいいからそれを歌詞にしてみてって。そうしたら「課題が多すぎて死ぬ!」とか「なんで課題ばっかり出すの〜」とか、色々な歌詞が出てくるんですね。
 
申し訳ない気持ちになりつつも、それを今度は歌にしてもらったら、本当に皆んなさまざまな感性で動画を作ってきてくれました。自粛期間で料理が上手になった子は、料理が大好きになったことを可愛いPVにして送ってくれたんです。

――コロナ禍に合わせた形の授業が始まってから現在に至るまで、学生の皆さんにはコロナ禍以前と比べてどのような変化が表れましたか。

オンラインだからこそ自分を出せなかった学生が自分を出せるようになったり、皆んなの中にいると縮こまってしまっていた学生が、これまで以上に課題をやってきてくれたり……。“皆んなに見られていない”っていう感覚が、良い影響を及ぼすこともあるんだなと感じました。出席率も格段に上がりましたし!
 
少しずつ対面レッスンが始まってから、体の使い方を思い出してもらうために2~3ヶ月くらいはかかってしまいましたが、マスク着用や家にいたことで喉の状態が良く保たれていたこともあり、声の持ちはこれまで以上に良くなった学生も多かったんですよね。
それに、これまで当たり前のようにできていたことが急に難しくなってしまったことで、色々な想いがひとりひとりの歌に乗るようになったとも感じています。

2022年9月23日(金)、洗足学園音楽大学前田ホールにて実施された『Orchestra with Drama』の様子。(引用:声優アニメソングコースTwitter

やはり声を扱う現場なので、帰りに食事に行ったり、打ち上げをしないように常々言い聞かせていて。その怖さを徹底的に周知していたおかげで、ほとんどの公演が実施でき、公演の成功に繋がったと思います。

理想の学校像と、今後の展望

――江原先生の思う理想の学校像や、今後の展望について伺いたいです。

洗足学園が掲げる、“自立・挑戦・奉仕”。私自身、この教育理念にとても賛同しています。自分で考えて行動に移す、「自立」。自分ひとりではできないことも、周りの人と手を携えて「挑戦」する精神。自分がどう動けば相手を幸せにできるのかを考えられる、慈愛に満ちた「奉仕」の心。
 
私自身は奉仕が一番大切だと思っているのですが、その3つを学んだ学生が社会に出たときに、「洗足学園を出た学生は本当にいいね!」という評判を聞きたいです。演奏が上手とか仕事ができるとか、技術的なことはもちろん大切ではありますが、まずは「洗足学園の卒業生は人として誠実で、信頼できるよね」って。
 
何より、音や声に人間性は表れると思います。人間性を磨くことで、音も磨かれ、作曲家の時代背景や心情に思いを馳せられるようになる。それは誠実な“心根“さえあればできると思うのです。だからこそ、奉仕の心を持ち、自分で考えられる力を備え、友達と手を携えて挑戦する大切さを掲げた、この教育理念は素晴らしいと感じています。
 
そのうえで教員も学生も全員で学び、意見を出し合い、経験や知識を紡いでいく。そんな恩送りの精神が繋がり続ける大学になっていったらいいなと、私は思います。

Text and Photographed by 門岡 明弥

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