起業について
「会社やらん?」
すべては土井原のひと言からはじまった。
そこらの経営学部あたりの大学生なら、毎週ルノワールあたりに集まって資金問題やら事業計画書やら人脈についてやらの話し合いがはじまるのだろう。
しかし、私立の文学部と美大生の、それも24歳になって6年がかりでようやく大学を卒業したばかりの2人だ。就職もしていた。
何より私の両親は教師、土井原の両親は画家(父は大学教授)で、経営とは遠いところにいる。
そこで私は言った。
「いいよ」
私が尊敬する歴史上の人物は、高山彦九郎と大塩平八郎。大塩の乱の檄文は暗唱できた。すなわち「知行合一」。
やると決めたら行動あるのみ、細々とした計画はすべて〈不純〉だ。
土井原の発言からひと月、私は会社に10月で辞めると宣言し、登記用の事務所を契約、合同会社設立の準備を終えていた。何も考えなければ、行動は早い。現実を見ていないから。
すると土井原は言った。
「やっぱり俺やめる」
半分は予想通りだった。そうなるだろうと考えていたから、何も驚くことはなかった。
「じゃあフラワーデザインの会社にしよ」
また、このタイミングで事業内容が決まった。
問題は資本金だった。
法務局に起業届を出すにあたり、資本金を記入しなければならなかった。そこでテキトーに50万くらい書いとけばいいやと書いたのだが、なんと「口座に50万入ってないとダメだよ」と言われてしまった。
どうも資本金は本当に持ってないとダメなようで、みんな定款とかはテキトーに好きな額を書いていると思っていた。よく考えなくても当たり前の話である。これが私立文系の脳みそだ。
二週間で50万、どうやって用意すればいいのか?
ギャンブルしかない。
当たり前だ。ここぞで当たらないようなら、運も神が味方しないのだから、起業なんか辞めた方がいい。
というわけで1日で100万の資金を用意できた。
あとは法人印をつくり、法務局に書類を出して、10月5日、合同会社風仙華が誕生した。
三日後には酔っ払って法人印を失くし、登記した住所も間違っていたため追加で2万払う羽目になった。
とりあえず会社は出来た。次は法人口座開設だ。
資本金50万の合同会社では、なかなか銀行の審査も厳しいだろうと思ってはいた。特にUFJやらみずほやらメガバンクでは無理だろうと。
PAYPAY銀行などは楽に出来るが、それでは信用が低い。
そこで日本政策金融公庫から先に融資を確約してもらうことで、銀行の審査を通る作戦に出た。公庫が融資したなら銀行も安心するだろうと。
作戦は成功。UFJで口座を作ることが出来た。
まあその後も色々あって、もうすぐ1年が経つ。法人の1年以内の倒産率が28%、個人事業主は40%に近いというから、こんな経営音痴でもなんとかやれている。
しかし、今振り返るとあまりにめちゃくちゃで、色々な人に迷惑をかけてきた。かなり反省している。過去に遡れるなら戻りたい。
これから起業を考えている人は絶対に真似をしないように、反面教師にしてもらいたいと思う。
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