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目指すはコミュニティではなく、人種も年齢も不問の"ちょうどいいご近所感”

こんにちは、銭湯ぐらしPRチームです。新型コロナウイルスの影響で、心がざわざわする毎日が続いていますね。小杉湯となりは、いかなる日常でも、そばに居続けて、来る人にほっとしてもらえる存在になれるように、慎重に状況を考えながら準備をすすめています。

さて、今回のリレー記事の担当は、小杉湯となりの環境づくりを担当している宮さんです。


初めまして。銭湯ぐらしの宮 早希枝(みや さきえ)です。
私は小さな頃から親のお仕事の都合で引っ越しが多く、宮城や青森など主に日本の寒いエリアを中心に何年かに一度生活の拠点を移し、幼稚園から高校だけでも7回の転校を繰り返しながら育ちました。

車が必須な寒い地方だったからなのか、うちの家族特有だったのかはわかりませんが、物心つく頃からなにかにつけては8人乗りの大きな自家用車にせっせと4人分の大きな荷物とたくさんの毛布、家の中を走り回る犬とウサギを詰め込んで、家ごと移動するモンゴルの遊牧民のように祖父母の住む新潟や長野、北海道など車中泊をしながら旅をしていました。

寒い地方は、家の近くの銭湯でも当たり前に結構いい感じの泉質を兼ね備えた温泉が湧くし、祖父母の住む新潟や長野もそこら中で温泉が湧く温泉天国だったので、私の生活の中には、なにかのきっかけがあったわけではなくわりと自然に旅とお風呂がありました。


世界のお風呂で感じたしあわせな時間


大学を卒業し広告代理店に勤め始めた頃は、私にとって旅とお風呂はめまぐるしい毎日の速度を、落ち着いて世界を眺める速度に戻してくれるスイッチになりました。週末や少しの時間を見つけるといいお風呂と自然を求めてふらっと地方の温泉や銭湯に入りに行き、その場所の空気を感じて一息ついて、自分の時間の歯車を整える。

そんな旅を続けていたのですが、そのうちにだんだん国内だけでは飽き足らず、世界のお風呂にも興味を持つようになりました。信じられない大きさのアルプス山脈を目の前に、リュウマチの療養か何かで湯に浸かる水着のおばあちゃんと肩を並べて入るスイス。全裸でサウナや水風呂に入る文化の残るドイツ。山ひとつ切り開いて露天風呂作ったオーストラリア。ローマ時代の銭湯の遺跡が残るイギリス。

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世界のお風呂に入るたび印象に残るのは泉質や湯そのものではなく、言葉も人種もわからないし、入る方法も違うのに、”お湯に浸かって「あぁ気持ちいい」って思う時の、なんともやわらかくて幸せな感覚は万国共通なんだな“という不思議な安心感でした。

おじいちゃんも、おばあちゃんも、カップルも子供も、みんな湯に浸かっている時はだいたいいい顔しているんです。服と一緒に肩書きも貧富の差も全部脱いで、同じ時間を共有する。このやわらかいフィルターを通して見るその土地の人々や文化や景色は、知らない場所なのに一緒にお風呂に入ったことですごい親近感を感じたりもして。

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非日常の秘湯や高級温泉もいいけれど、『知らない旅先の土地のお風呂に、そこに住む人と一緒に入ってしあわせな気持ちに浸る』というちょっとマニアックなお風呂の楽しみが生まれてきた頃に出会ったのが小杉湯でした。

小杉湯での出会い

旅を通して見つけた風景や人との出会いをWEBで日記的に書き溜めていたら、東京銭湯というサイトで東京の銭湯の記事を書きませんか、というお声がけを頂く機会がありました。東京の銭湯をいくつか訪れて取材させていただいたのですが、銭湯ってお風呂の作りや壁画の絵が一つとして同じところはないので、知れば知るほどすごく面白い。

「なんでこんなところに鏡があるんだろう?」「なんで部屋の真ん中にお風呂があるんだろう?」「お庭だけやたら古いのはなんでだろう?」「この壁画の意味はなんだろう?」
何十年も続いてきた銭湯には、ひとつひとつ、その場所に積もった時間ゆえの歴史や理由があります。お風呂の気持ちよさはもちろんですが、私はそれよりも、銭湯で見つけたハテナの裏側にあるヒストリーや、どういう想いでお風呂屋さんをやっているのかのお話をオーナーさんに聞くのが大好きでした。

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取材で訪れる中で、家業であることによる後継者問題や利用者の減少によって、数十年の歴史に静かに幕を引いてゆく銭湯がたくさんあることを知りました。オーナーさんのスタンスも「斜陽産業」と言う人から、宿泊施設の併設やイベントで新しい取り組みを積極的に行う人まで様々。

『知らない旅先の銭湯やお風呂に、そこに住む人と一緒に入ってしあわせな気持ちに浸る』というニーズをこんなにバッチリ満たしてくれる場所が、どんどんなくなっていくのはもったいない。歴史的に見たら日本の生活に根付いた体験文化でもある銭湯が、今後増えていくであろう海外から日本を訪れる旅人や、その土地を知らない人にとっての”街の入り口”のような機能も持てたら、銭湯ってこれからの時代に必要な、新しい場所になるんじゃないか?

そんなことを考えていた矢先に訪れた小杉湯が、今までのどの銭湯とも違ったのは、小杉湯三代目のオーナー平松佑介さんの、今までの良さを残しながら、銭湯を新しい場所として生かそうというふつふつ沸くような熱量でした。
小杉湯専用に調合されたつるつるのミルク風呂、生の果実を手で切って贅沢に投入する季節風呂。どんなに疲れていてもスーパーサイヤ人並みに復活できる交互浴というお風呂の入り方の紹介。待合室の使い方。佑介さんは、今もそうですが、あの手この手で銭湯という場所を「毎日をちょっと豊かにする体験の場所」にしようという実験をしているように見えました。

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何度か取材に訪れるうちに、そんな話をして盛り上がっていたら「ちょうどいま隣のアパートで面白いことやりたいと思っているから、みやべえ住んでみない?」というミラクルなお誘いが。夫と暮らす家が隣駅にあったのですが、<週に一度銭湯のプロジェクトについて打ち合わせをする><どうせ取り壊すから部屋は好きに改造してよし>という面白そうな2つの条件、そしてその頃にはすっかり好きになっていた小杉湯のお風呂の気持ちよさに惹かれ、気づけばその数ヶ月後には六畳一間の風呂なしアパート、その名も「湯パート」で二拠点生活が始まりました。


小杉湯のあるくらし

小杉湯のそばで銭湯のある暮らしをしてみて感じたのは、まず小杉湯を利用する人の幅の広さ。高円寺という場所柄もあるのか、年齢が多様なだけではなく、開店直直後は風呂上がりにバッチリメイクしていくスナックのママ、夕方は小さな子供と一緒の家族連れ、夜中は仕事帰りの若い会社員や全身タトゥーのアーティスト、など時間帯によってタイプが変わりながらもいろんなタイプの街の人が訪れる場所であることが、小杉湯の一つの魅力だと思います。

次に、今まで地方でリセットしていたスイッチが小杉湯で完結できるということ。
頻繁に銭湯に入るようになって気づいたのですが、お風呂に入ってふぅってしている時って、人は自然に上を向くんです。忙しかったり疲れている時って目の前のことに集中してしまって、上を見上げることが少なくなると思うのだけど、余白のない日常の中ではそのことにすら気づいてないことも多くて。一日の終わりに小杉湯に入って、真っ白な高い天井を見るともなしにぼんやり見上げていると「あ、なんか今日下ばっか向いてたな」とか小さなことに気づいたりします。

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私はプライベートと仕事の境があいまいになりがちタイプなので、家に帰っても気持ちが切り替わらなかったり気づくと考え事が止まらないような時も、こうやってお湯に浸かって自然に上を向く時間に助けられていました。

こんな場所が日常にあるのは贅沢だなぁと心から思いました。

 湯パートに暮らしていた私の部屋は1階にあったのですが、私は雨の日の小杉湯も大好きでした。雨の日に窓を開けると、しとしとと瓦に当たる雨の音。その合間にカポーンと響くかろやかな桶の音。銭湯の天井に近い湿った窓から漏れる柔らかい光。ちょっとトリップしちゃうくらい、しっとり気持ちのいい時間でした。

小杉湯となりは小杉湯と同じように、光を幾重にも取り入れる設計の建築になっていて、きっと晴れた日はとても明るくて気持ちがいいと思うのですが、実は私は雨の日に小杉湯となりの1階でカポーンを聴きながら湯上りの一杯を楽しんだり、2階の畳でゆっくり仕事したりするのを密かに楽しみにしています。

となりができたらぜひやってみてください。


あたたかい中距離の「ご近所感」

もともと転勤族で「地元」とか「幼馴染」というものに縁遠く、どちらかというと、いつでもどこかに飛んでいけるような感覚が心の片隅にあった中で、湯パートで出会った住人たちはとても特別な存在でした。

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みんな<どうせ取り壊すから部屋は好きに改造してよし>と言う条件を存分に生かし、建築家の部屋は芝が敷かれ、編集者の部屋は本棚に埋め尽くされ(しかも寝床はテントが張ってあった)、映画好きの人の部屋は映画のポスターや部屋の真ん中に置かれたプロジェクターを映すためだけに真っ白に塗られた壁がありました。

その全員が週に一回集まって、頭を寄せ合っては銭湯で自分のやりたい面白いことを出し合ってみんなでやってみる。「銭湯ぐらし」や、「湯パート」という名前もみんなで決めました。

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いつも会うわけではないけれど、ゴミ捨てとかお掃除とかくらしのルールを一緒に決めて、お腹が空いたらご飯をもらいに行ったり、エアコンが動かないと言って涼みに来たり。

2階の角に住んでいた塩谷ちゃんは、小杉湯で働いていたのでだいたい裏口から庭を通り、私の部屋の窓から入ってきました。入り口よりも私の部屋を突っ切った方が早いから、というただそれだけなのですが、ソファで本を読んでいると「みやべえいるー?」と声がして、窓を開けると「いやー今日は働いたわー」とか言いながらただ部屋を突っ切って出ていく。たまにお茶を飲んだりもしましたが、こちらも特に気を使わず「おつかれさま」と送り出す。

 家族や昔からの友人のような親密な”近距離”でもなく、仕事上の付き合いだけのような”長距離”でもない。銭湯でたまたま会う、とかそういう感覚にも似た、約束や待ち合わせをしなくてもいい、でも何かあったら頼ることのできる”中くらいの距離感”はとても居心地のいいものでした。

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暮らし方や働き方がどんどん多様化してきている時代だからこそ、都心でも地方でも、こういうハンモックのネットのように人の暮らしがゆるくつながる感じはこれから必要になっていくのではないかなと思います。

銭湯ぐらしはよく”銭湯を活用してちょっとおしゃれなコミュニティを作る人たち”という風に見られることがあるようなのですが(笑)、全然そんなことはなくて。
湯パートが解体され、共に暮らしていたメンバーで銭湯ぐらしを会社として作り直した今も、私たちが作りたいのはコミュニティという響のようなかっこよさよりも、みんなの暮らしを持ち寄って「いいね!」って感じを広げていくような、長屋のようにがやがやした手触りのある、中距離の「ご近所感」だと思っています。


原点は銭湯で出会った台湾の女の子の言葉

銭湯ぐらしをはじめてしばらくした頃、「高円寺に台湾人の部下がいるのだけど、友達がいないから会ってみてくれない?」という紹介で出会った台湾人の女の子を一緒に小杉湯に連れて行ったことがありました。

初めて会った彼女はとても爽やかな気持ちの良い印象で、日本語がペラペラではないし近所には親しい友人もいないから、2年間高円寺に住んでいるけどあまり街のことは知らないの、と話していました。小杉湯の入り方を教えながら一緒にお風呂で交互浴して、少しごはんを食べて「またね」と別れて。その後2ヶ月くらい経ってからまた彼女とランチをする機会があったので、せっかくだからお風呂はいって行こうと2回目の小杉湯に向かいました。

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ミルク風呂に浸かりながら「実はあのあと、何回か1人で銭湯に来たの」と彼女は言いました。「無理に話さなくても自分が街の中の一部であるみたいな、サイレントコミュニケーションがすごく良かった」と。

服と一緒に肩書きや国籍を脱いで、気持ちのいい時間を一緒に共有するやわらかい世界。
彼女の「サイレントコミュニケーション」という言葉は、私が小杉湯に出会った頃から感じていた感覚をそのまま言語化してくれたようで、ストンと心に響きました。

旅先で焚き火を囲んで話をしたり、綺麗な夕日を一緒に見たり、お風呂に入ったり。
知らない人同士が偶然出会い、いい時間を共有して、自分以外の少し遠くの人のことを想えるような時間や場所が増えていったらいいなという、価値観のベースができたきっかけになる出来事でした。
 
今は、日本の地方を海外に紹介したり、地方の魅力を旅として伝える体験を作るインバウンドと旅づくりのお仕事もしているのですが、旅も銭湯もそういう意味では一緒なのではないかな、と感じています。


銭湯のあるくらしと街をつなぐ場所に

「小杉湯となり」は国籍・年齢の関係ない多様な人が集まったり、日常が少し豊かになるような、予想していなかったあたたかい小さな出会いが生まれたり、この街のことを知るきっかけになったり。みんなのくらしを持ち寄って、今まで感じてきた銭湯のよさを街に拡張していく場所になったらいいなと思っています。

例えば、長くこの辺りに住んでいても、行きつけの飲食店でもない限り、実は街の人と知り合う機会はとても限られているし、前出の友人のように実は知り合いもそんなにいないまま暮らしている人も多い。高円寺は映画みたいな人生を歩んでいる人がごろごろいるので、街の人のストーリーを伝えるようなブースが1階にあるとちょっと街との距離が近くなるのかな、と考えています。

他にも、ずっと続いていく場所になることを目指して、ゴミを減らすため自分の飲む分だけビールを持って帰ることができるタップボトルを検討したり、銭湯の裏側を体験できるツアーを企画したり、オープン後には同じ価値観を持つ企業や街、地方との連携も少しずつ進めていきたいと思います。

まずは小さくですが、銭湯のあるくらしが小杉湯となりを起点に広がっていくように。
街に開かれた家のような、あたたかい場所にしていきたいですね。



宮 早希枝
株式会社銭湯ぐらし取締役 渉外担当
2009 年より大手広告会社にて企業と生活者を結ぶさまざまなプロモーションの企画から運営に従事。2017年より独立。(株)wondertrunk&co.にて日本の地域観光資源を活用した国内インバウンド案件における統合プロデュースに従事。日本の地方の魅力を海外に伝える旅を作っている。見たことのない楽器とお茶を集めるのが好き。

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銭湯で得られるような「余白のあるくらし」づくりを目指し、建築・デザイン・音楽・事業開発など、さまざまなメンバーが集う、クリエイティブチームです。
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