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遅延刺激による遡及性の促進効果

【遅延刺激による遡及性の促進効果:遅延刺激が皮質への直接的な微弱な刺激の場合には、最大400msの遅れた刺激でも、先行刺激を遡及して強める。すなわち遅延刺激は、条件によってマスキング効果と促進効果の両方を持つ。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

 「また私たちは、遅延刺激が最初の皮膚感覚をマスキングする代わりに遡及的に促進、または強化することができるという、驚くべき発見をしました。これは、遅延刺激を生み出すのに、より小さい電極を使って感覚皮質に接触したときに発見しました。この実験では、最初の微弱な皮膚パルスとして、5秒間の間隔を置いた同一のパルスを二回送ります。被験者は、二番目の皮膚刺激(S2)が一番目(S1)と比べて同じか、弱いか、強く感じられるかを報告するように指示を受けます。二番目の皮膚パルスS2の後、50~1000ミリ秒間の間隔をおいて、遅延皮質刺激を与えます。ほとんどの試行において、皮質刺激が始まると、それがS2の後、最大400ミリ秒以上遅れていたとしても、S1よりもS2の刺激のほうが強く感じされると被験者は報告します。〔訳注=S1はS2に対して通常抑制的な効果を持ち、したがってS2は、S2を単独で提示した場合に比べ、弱く感じられる。しかし、この場合、皮質連発刺激によってS2はS1による抑制効果から解放され、より強く感じられる。先行刺激S1の有無と電極の大きさなどの要因によって、マスキングが起こるか促進が起こるかが決まる。〕
 その後、私たちは、テスト刺激と条件刺激の両方が、同じ電極を経て指の皮膚に与えられた場合の遡及性の促進(または強化)について、ピエロンとシーガル(1939年)がすでに報告していたことを発見しました。最初の刺激、または(二番目の)テスト刺激が閾値より下である場合に、効果が見られます。テスト刺激の後、20~400ミリ秒間の間隔を置いて閾値より上の条件刺激が続く場合、知覚可能になります。
 これは明らかに、微弱な皮膚パルスによって生じた意識感覚が、約500ミリ秒間遅れた二番目の入力によって遡及的に修正され得ることになります。このことは、皮膚刺激のアウェアネスを生み出す0.5秒間の脳の活動、という私たちが仮定した必要条件を十分にサポートします。
 遡及性の促進という発見が、重要な理論上の要因として、こうした考えをさらに支持することになりました。遡及性のマスキング/抑制については、遅れた皮質刺激がそれに先立つ皮膚刺激の記憶の形成を単に混乱させているだけだ、という主張がありました。この主張は、脳の広範な領域への全体的な強い電気刺激が(電気ショック療法の場合のように)最新の記憶を破壊するという事実に、ある程度基づくものです。しかし難治性のうつ病に罹っている患者への治療目的で与えられるこのような電撃によるショック療法では、脳の大部分が強く興奮するため、結果として発作が生じます。私たちが扱っている遡及性の効果を得る場合は、皮質の中に局所的な発作を起こすのに必要な強さよりもはるかに微弱な力で、感覚皮質の小さな領域に限局して、遅延刺激が与えられています。従って、遡及効果のあるマスキングが記憶を破壊するという主張は、非常に弱いものです。しかも、遡及性の促進では、記憶の喪失はまったくありません。被験者は二番目の皮膚刺激を、一番目の条件刺激よりも強いものとして記憶しているのです。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.60-63,下條信輔(訳))
(索引:遅延刺激による遡及性の促進効果)


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