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意識現象と量子力学

可能性の領域である新しい観念は、確率的な法則に従って、非決定論的に発生する。新しい観念は、世界3につなぎ止められ、検討され、テストされ、不適切なものは消去され、最適なものが生き残る。(カール・ポパー(1902-1994))



 「P――もちろん、それはたいへん難解な問題です。それに関連して多くの考えをもっていますが、それらはまだまだ練り上げられていません。
 まず第一に、量子論的な不確定性が、ある意味で助けにはならないことにもちろん同意しますが、それは単に確率法則に導くだけだからであり、自由な決定のようなものが確率的事柄であるとは言いたくないのです。
 量子力学的な不確定性の困難は二つの部分からなっています。第一に、それは確率的です。このことは、偶然的事柄ではない自由意志の問題にそれほど助けにはならないのです。第二に、それはわれわれに非決定論しか与えず、世界2への開放性を与えません。しかし、遠回りの仕方で、自由意志の決定が確率的事柄であるという誤ったテーゼに身をゆだねることなしに、量子論的な不確定性を用いることができる、とは考えます。この文脈では一点についてだけ述べましょう。新しい観念は遺伝的な突然変異に著しく似ています。そこで、しばらく遺伝的な突然変異についてみてみましょう。突然変異は(放射線効果を含む)量子論的な不確定性によってもたらされるようです。したがって、それらもまた確率的で、それら自身元来選択されたものでもなく、または適切なものでもないが、不適切な突然変異を取り除く自然淘汰が次に働くのです。さて、われわれは新しい観念、自由意志の決定、そして類似のことに関して同様の過程を考えることができます。すなわち、可能性の領域は、提案の――いわば大脳によってもたらされた可能性の――確率論的、量子力学的特徴をもつ集合によってもたらされるのです。これらの上へ、一種の淘汰圧が働き、世界3につなぎ止められ、そこで検討し、そこの基準でテストするところの心に受け入れられないような提案と可能性を消去するのです。これが、それらのことの起こる仕方でしょう。そして、彫刻家が像を作るために石を刻み、不要部分をすてるように働く抑制ニューロンの示唆を私がたいへん好むのは、この理由からでした。」
(カール・ポパー(1902-1994)『自我と脳』第3部、DX章、(下)pp.767-768、思索社(1986)、西脇与作(訳))

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