見出し画像

遅延刺激によるマスキング効果

【遅延刺激によるマスキング効果:最大で100ms遅れた刺激は、先行する刺激の意識化を抑制する。遅延刺激が皮質への直接的な刺激の場合には、200~500ms遅れた刺激でも、先行刺激の意識化を抑制する。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】


 「二番目の証拠というのは、最初にテストしたものに続いて遅れた二番目の刺激の、逆行性の遡及効果に基づくものです。二つの末梢の感覚刺激の間に、逆行性、または遡行するマスキング効果があることが、よく知られています。最初の小さな微弱な光の点を囲む二番目のより強く大きな閃光は、最初の光に対する被験者のアウェアネスを遮断することができます。最初の微弱な閃光の後、最大限100ミリ秒間の遅れがあったとしても、二番目の閃光にはこうした効果があります(例としてクロウフォード(1947年)参照)。
 遡及性のマスキングはまた、皮膚への電気刺激においても報告されてきました(ホーリデイとミンゲイ(1961年))。一方の前腕に閾値の強さのテスト刺激を与え、閾値より上の条件刺激をもう一方の前腕に与えると、テスト刺激の閾値が上がります〔訳注=閾値が上がるとはすなわち、刺激強度を上げないと検出しにくくなるということ。〕テスト刺激の100ミリ秒後でも、この条件刺激は効果がありますが、500ミリ秒後では効果がありません。この、100ミリ秒の感覚での逆行性マスキングは、中枢神経系によって媒介されているに違いありません。なぜなら、テスト刺激と条件刺激は、それぞれ異なる感覚経路(つまり逆側の腕)を経由して伝達されるからです。
 この逆行性マスキングは、感覚的なアウェアネスについて私たちが仮定した遅れとどのような関係にあるのでしょうか? もし、アウェアネスを生み出すために、適切な神経活動が脳内で最大0.5秒間継続しなければならないのならば、その必要条件である時間感覚の間に二番目の刺激が伝達されると、この神経活動の正常な完了を妨げることになるでしょう。そして、これは感覚的なアウェアネスをブロックすることになるでしょう。末梢の感覚組織ではなく、脳レベルで(刺激に)反応する組織において、このようなマスキングが生じることを私たちは立証したいと考えました。またさらに、遡及性の効果を生み出す二つの刺激の間の時間的間隔が、私たちが主張する0.5秒間という必要条件に何とか近い値まで上げることができるかを検討したいと思いました。
 こうした目的を達成するために、私たちは体性感覚皮質に直接、遅延した条件刺激を与えました。最初の(テスト)刺激は、皮膚への微弱な単発のパルスでした。続いて、1センチ以上の大きなディスク電極を使って、皮質への遅延刺激を与えました。この刺激は比較的強く、皮膚へのパルスから生じる感覚の領域とオーバーラップする、(ほぼ同じ)皮膚領域で感覚が生じました。被験者は、この二つの感覚を、質感と強さ、また関与する皮膚の領域によって難なく区別できました。
 実際、皮膚パルスの後、200~500ミリ秒までの間に皮質刺激が始まったとしても、この遅延皮質刺激が皮膚のアウェアネスをマスクまたはブロックし得ることを、私たちは発見しました。ついでに言えば、遅延皮質刺激は、連発したパルスから成ります。100ミリ秒以下の皮質への連発刺激、または単発のパルスには、この遡及性のある抑制効果が《ありません》。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.58-60,下條信輔(訳))
(索引:遅延刺激によるマスキング効果)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?