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短期記憶と意識

【疑問:アウェアネスに必要な0.5秒間の活動持続時間というのは、単にある事象の短期記憶を生み出すのにかかる時間を反映しているだけではないか。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】


 「0.5秒間の活性化の持続がアウェアネスに必要であることをどう説明するのかという問いには、また別の大きな問題があります。それは、記憶形成の果たしうる役割です。
 主観的なアウェアネスの唯一の有効な証拠とは、実際それを経験した個人のアウェアネスについての内観報告のみであることを、すでに述べました。しかし明らかに、被験者がそのアウェアネスを想起し、報告するには、ある程度の短期記憶の形成が起こらなければなりません。ついでに言えば、短期記憶、または「ワーキング」メモリーというのは、ある事象の数分後にその情報を想起するという人間の能力のために働いている記憶を指します。一度見ただけで7桁から11桁の電話番号を想起する能力が、このタイプの記憶の良い例です。さらに訓練を重ねなければ、人はその番号を数分で忘れるものです。長期記憶では、その上にさらにニューロンのプロセスが関与するおかげで、その効果が数日や数ヶ月、数年間持続します。
 学者によっては、アウェアネスに必要な0.5秒間の活動持続時間というのは、単にある事象の短期記憶を生み出すのにかかる時間を反映しているだけではないか、と主張します(リベット(1993年)におけるデネットの議論を参照)。この記憶形成が作用するとしたら、少なくとも二つのやり方があります。一つは、記憶痕跡の発生そのものが、アウェアネスの「コード」である場合です。もう一つは、ある事象のアウェアネスは意味のある遅延などまったくなしに発生するが、それが報告可能になるには、0.5秒間の長さの活性化が必要であるとう場合です。これらの選択肢のいずれについても、それを反証する実験結果があります。それについて簡単に説明します。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.68-69,下條信輔(訳))
(索引:短期記憶,意識)


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