日本先進会の財政解説シリーズ④なぜ日本政府は自国通貨建て国債のみを発行しているのか?

こんにちは。今回は「日本先進会の財政解説シリーズ」の4回目ということで、日本政府が発行しているのが自国通貨建て国債だけである理由について説明します。

前回のおさらいですが、今の日本で国債のデフォルト(政府が国債を返済できない状況に陥ること)が起きない理由は、「日本政府が発行している国債は全て日本円建てであり、政府の子会社である日銀が、政府に対して柔軟にお金を供給することができるから」ということでした。

ではなぜ、日本政府が発行しているのが自国通貨建て国債だけなのか?

この答えを一言で言うならば、「今までの日本経済が十分に強かったから」ということになります。ただこのような主張をすると、「日本経済が十分に強いなら問題ないじゃないか。なぜ政治で何かを変える必要があるんだ」という声が出てくることが予想されます。しかし私たち日本先進会の主張は、「今までの日本経済は確かに70~80点を取ることができていたが、このまま合理的な政策を実行しなければ、20~30年後にはたとえば20~30点になってしまっているかもしれない」ということなのです。だからこそ、全ての政策を支える「財政」について考えなければならないのです。

ではなぜ、日本経済が十分に強ければ、日本政府は自国通貨建て国債だけを発行することになるのか?これは言い換えれば、「なぜ日本は外国通貨建て国債を発行する必要がないのか?」という問いになります。

そもそも外国通貨建て国債というものは、経済基盤が弱い国の政府が、外国通貨(基軸通貨である米ドルのケースが多い)を手に入れるために発行するものです。ではなぜ経済基盤が弱い国の政府は外国通貨を手に入れる必要があるのか?それには様々な理由があるのですが、最大のポイントは「為替レートの安定」です。

経済基盤が弱い国というのは、「自国の生産力が十分ではなく、他国の生産力に対する依存度が高い国」ということです。そういう国の場合、たとえば国内の企業は、自国通貨を外国通貨に両替えすることによって、他国からモノを買うための外国通貨を手に入れるわけです。ただ、この「自国通貨を外国通貨に両替えする」ということによって、全体として「自国通貨の外国通貨に対する価値」は下がります。これが「為替レートが下がる」ということです。

問題は、為替レートが下がるということが、国民生活に悪影響を及ぼし得るということです。繰り返しになりますが、経済基盤が弱い国は自国の生産力が十分ではないから、他国からモノをたくさん買っている。それなのに自国通貨の価値が下がってしまうと、他国からモノを買うことが難しくなってしまうから、国民生活に悪影響が出てきてしまうということなのです。

ではどうするのかと言えば、政府が為替レートを安定させる必要があるのです。為替レートが安定すれば、他国からモノを買うことが難しくなることはなく、国民生活も安定します。では、政府はどうすれば為替レートを安定させられるのかと言えば、それは「為替介入」です。つまり外国通貨を売って、自国通貨を買う。これによって、自国通貨の価値を人工的に保つということです。そしてそのためには外国通貨が必要なのであって、だからこそ外国通貨建て国債を発行して、外国通貨を調達するということなのです。

以上を踏まえた上で、なぜ日本は外国通貨建て国債を発行する必要がないのか?

答えは明確で、日本は政府が為替介入によって為替レートを安定させる必要がないからです。それはなぜかと言えば、日本は国全体(基本的には企業)としては常に十分な外国通貨を稼いできたので、外国通貨をたくさんもっている。そのため日本国民は常に、自国通貨(つまり日本円)が相対的に安くなれば、ここぞとばかりに外国通貨を売って自国通貨を買おうとする。だからこそ、放っておいても自国通貨の為替レートが過剰に安くなることはないのであり、政府が為替介入をするまでもないのです。

そして、この「日本は国全体としては常に十分な外国通貨を稼いできた」というのが、まさに「今までの日本経済が十分に強かった」ということに他なりません。

国全体として外国通貨を手に入れる方法は、主に以下の3つです。
①日本からモノやサービスを輸出する(外国人旅行者からの売上も含めて)
②海外でビジネスを展開して利益を得る
③海外から投資資金を呼び込む

日本の場合、1980~90年代に特に日米間の貿易摩擦の問題(つまり日本の商品がアメリカを席捲し、アメリカの会社が利益を上げられなくなること)が深刻化するまでは①が中心でしたが、その後は②が増えていきました。日本できちんとした外国語教育を受けることもできなかった今の50代以上の方々が、異国の地で必死にビジネスを展開し続けてきた結果、これまでの日本は十分な外国通貨を稼ぐことができたのです。(ちなみに、政治家や官僚は、そういった民間企業の地道な努力をまるで「自分の手柄」かのように言っているケースが多い。)

以上が「今までの日本経済が十分に強かった」ということの意味合いであり、だからこそ、これまでの日本政府は外国通貨建て国債を発行する必要がなかった、つまり自国通貨建て国債だけを発行してきたということです。

ただ繰り返しになりますが、これは「今まで」の話に過ぎません。これからの日本経済には大きな懸念があるのです。経済的な「富」には、少なからず「奪い合い」の側面があります。世界の中で日本だけが経済成長することができなければ、20~30年後には、日本国民の生活水準は他国の後塵を拝してしまう可能性も十分にあります。それを回避するためには何が必要なのかと言えば、それが一人一人の国民を強くするための教育や、全ての国民が十分に安心して生きるための社会保障なのであり、それらの質を高めて、合理化するためにこそ、「財政支出の十分な拡大」が必要なのです。

さて、ここまで二回にわたって、今の日本では「狭義の財政破綻」、つまり「国債のデフォルト」は起きないということを説明してきました。

次回からは「広義の財政破綻」、つまり「過度なインフレ」・「過度な金利上昇」・「過度な円安」が起きないということについて説明していきます。

(続く)

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