日本先進会の財政解説シリーズ⑤財政とインフレの関係性

こんにちは。今回は「日本先進会の財政解説シリーズ」の5回目ということで、「財政とインフレの関係性」について説明します。

ここまでのおさらいですが、財政破綻には「狭義の財政破綻」、つまり「国債のデフォルト」と、「広義の財政破綻」、つまり「過度なインフレ」・「過度な金利上昇」・「過度な円安」がある中で、前回までの記事で、今の日本で国債のデフォルトは起きないということを説明しました。

ですので今回から複数の記事で、今の日本は「過度なインフレ」・「過度な金利上昇」・「過度な円安」が起きる状況ではない、ということを説明していきますが、まずは「過度なインフレ」から始めます。

そもそも財政とインフレは、どのように関係しているのか?

財政とは簡単に言えば、「政府がどのようにお金を調達し、どのようにそのお金を使うか」ということです。ただ、「財政とインフレの関係性」という観点で重要なのは「どのようにお金を調達するか」の方です。それは、政府がどのようにお金を調達するかによって、「国民全体がもつお金が増えるかどうか」が決まるからです。

政府がお金を調達する方法は、基本的に「税金」と「国債」の二種類があるのですが、結論から言えば、政府が使うお金(=財政支出)の金額を一定とした場合、そのお金を税金で調達すると「国民全体がもつお金は増えない」一方で、国債で調達すると「国民全体がもつお金は増える」のです。

たとえば政府の予算が100兆円(財政支出が100兆円)であるとしましょう。この100兆円を全て税金で賄うと、国民全体がもつお金は増えない一方で、100兆円を全て国債で賄うと、国民全体がもつお金は100兆円増えます。また、たとえば50兆円を税金、50兆円を国債で賄うと、国民全体がもつお金は50兆円増えます。

どうしてこのようになるのか?丁寧に考えてみましょう。

まず「政府が100兆円の税金を徴収して、100兆円の財政支出を行うケース」で、国民全体がもつお金は増えないというのは直感的にも理解できると思います。政府が日本の個人や会社から100兆円の税金を徴収すれば、当然、個人や会社がもつお金は100兆円減ることになります。つまりこの時点では、国民全体がもつお金が100兆円減るということですね。しかしその後、政府が徴収した100兆円で財政支出を行うとどうなるのかと言えば、国民全体がもつお金が100兆円増えるのです。これを全体としてみれば、100兆円減った後に100兆円増えるわけですから、元通りになるということです。これが「国民全体がもつお金は増えない(または変わらない)」ということの意味合いです。

ではなぜ、政府が徴収したお金で財政支出を行うと、国民全体がもつお金が増えるのかと言えば、それは非常に単純な話で、政府の財政支出は「政府が何らかの形で国民にお金を支払うこと」を意味しているからです。

たとえばインフラ整備なら、政府は建設業者にお金を支払います。たとえば社会保障の医療における診療報酬なら、政府は医師や医療機関にお金を支払います。あるいは、たとえば児童手当なら、政府は保護者にお金を支払います。要するに財政支出は、「政府が何らかの形で国民にお金を支払うこと」に他ならないのであり、だからこそ政府が財政支出を行うと、その分、国民全体がもつお金が増えるのです。

話を戻しましょう。ここまで、「政府が100兆円の税金を徴収して、100兆円の財政支出を行うケース」では、国民全体がもつお金は増えないということを説明してきましたが、では一方で、なぜ「政府が100兆円の国債を発行して、100兆円の財政支出を行うケース」では、国民全体がもつお金は100兆円増えるのでしょうか?

まず政府が財政支出を行うと、その分、国民全体がもつお金が増えるという部分は完全に同じです。違いは、一つ目のケースでは、政府が日本の個人や会社から100兆円の税金を徴収すると、個人や会社がもつお金が100兆円減るということだったのに対して、二つ目のケースでは政府が税金を徴収しないため、それが起きないということです。結論を簡単に言ってしまうと、「政府が100兆円の国債を発行する」というのは、「政府が100兆円の新しいお金を作る」ということを意味しているのです。

ではなぜ、「政府が国債を発行する=政府が新しいお金を作る」なのでしょうか?

残念ながら、これは文章で説明しても非常にわかりにくいため、ここでは書きません。しかしとにかく、簿記や会計の知識がある方であれば、きちんと考えれば理解できることなのですが、今の日本のように、政府が国債を発行して、そのほぼ全てを民間金融機関が引き受ける状況では、「政府が国債を発行する=政府が新しいお金を作る」なのです。そして政府が新しいお金を作り、そのお金で財政支出を行うということは、全体としてみれば、結果的に「国民全体がもつお金が増える」ということになるのです。

以上を踏まえた上で、財政とインフレの関係性を整理します。

財政で最も重要なポイントの一つは、「財源を税金にするか?国債にするか?」です。なぜそれが重要なポイントなのかと言えば、ここまで説明してきたように、それによって「国民全体がもつお金が増えるかどうか」が決まるからです。

そしてどんな国民でも、政府に税金を取られるのは嫌ですよね。政府に税金を取られれば、自分が自由に使えるお金が少なくなってしまうからです。つまり国民の人気を得て選挙で当選したい政治家(注:財務省ではなく、あくまで政治家)は、基本的には国民から税金を徴収したくないのであり、できれば財政支出の財源を国債にしたいのです。

では、政治家は財源を全て国債にして、実際に財政支出をどんどん拡大していくことができるのかと言えば、そう単純な話ではありません。その理由は、先ほどから繰り返しているように、「政府が国債を財源にして財政支出を行うと、結果的に国民全体がもつお金が増える」からです。国債を財源にして財政支出をどんどん拡大すると、国民全体がもつお金がどんどん増えてしまいます。もちろん「一人一人の国民」としては、お金がどんどん増えるのは嬉しいことですよね。しかし「国民全体」としては、お金がどんどん増えるということは、必ずしも良い結果だけをもたらすとは限らないのです。

それは、国民全体がもつお金がどんどん増えることは「インフレ」の圧力につながってしまうからです。

インフレとは、モノやサービスの価格が上がることです。では、どのような状況でモノやサービスの価格が上がるのかと言えば、それは「消費者がモノやサービスをどんどん求めていて、生産者が自信をもって価格を上げられる状況」です。ではどうすれば「消費者がモノやサービスをどんどん求める」ようになるのかと言えば、それが「国民全体がもつお金がどんどん増える」ということなのです。

以上、説明が長くなってしまいましたが、まとめると「政府が国債を財源にして財政支出を行うと、結果的に国民全体がもつお金が増えるため、それはインフレの圧力になる」というのが結論です。そしてもちろん、国債による財政支出を増やしすぎてはいけないのは、過度なインフレが起きてはダメだからです。想像に難くないと思いますが、過度なインフレ(モノやサービスの価格が急激に上がること)は社会経済を混乱させてしまうため、ダメなのです。

ただここで重要なのは、「国債による財政支出を増やしすぎてはいけないのは、過度なインフレが起きてはダメだから」ということは、「過度なインフレが起きない限り、国債による財政支出を増やしても問題はない」と言い換えられるということなのです。

では今の日本で、過度なインフレが起きているのかと言えば、全くそうではありません。過度なインフレどころか、黒田日銀が掲げてきた「たった2%のインフレ率」でさえも全く達成されていないのです。つまり、これまで政府は国債による財政支出を増やし続けてきたわけですが、それ自体は何も問題なかったということになるのです(財政支出の内容は別として)。

ではなぜ、今の日本(というより、ここ20年くらいの日本)では、ほとんどインフレが起きていないのか?そしてなぜ、過度なインフレが起きる状況ではないのか?それについては次回、ご説明することにしましょう。

(続く)

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