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とある一人の男が占い師になるまで #17 ~信用金庫職員編~

渉外係を担当し、試行錯誤を繰り返しつつも、とにかくお客様に好かれようと必死になって行動していた一人の男。
しかし、思うような成果は生まれず、様々な葛藤を抱えながらも、ひたすら日々の集金業務に右往左往していた。
そんなある日、一人のお客様から意外なご相談を受ける事となる。

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「すみません、このサービスに申込みしたいと思ってるんですけど」

私に声をかけてくれたのは、週に2回ほど集金に伺ってる市民センターの男性職員だ。

彼は一枚のパンフレットを持って私のところにやってきた。

『あ、これはお手軽ローンですね』

「前の担当者だった〇〇さんが私に勧めてくれて、丁度春頃になったら車を買い替えようと思っていたので、申し込みしたいんですけど良いですか?」

『は、はい、ありがとうございます!』

なんと、これまで先輩職員が一生懸命営業活動をしてくれていたおかげで、私は何の苦労をする事もなく、融資案件を1件獲得できてしまったのだ。
もちろん、実質的には先輩職員が獲得した案件に等しいのだが、ラッキーな事に、私の獲得案件としてカウントされる事になる。

「どうすれば良いですかね?」

『はい、えーとですね……』

しかし、ここで困った問題がある。
そう、私は融資の知識がほとんどないに等しいため、実際にどのような書類を用意してもらい、どのような流れで審査を進めていくのか、自分一人で上手く説明できないのだ。

『融資担当の者に確認して、次回お伺いした時に詳しく説明させて頂きます』

「分かりました」

本来なら、ここで私がしっかりと説明しなければいけないのだが、もし間違った説明をしてしまうとお客様に迷惑がかかってしまうので、一旦持ち帰って融資担当者に相談する事にした。
まあ一言で言ってしまうと、自信がなかったのである。

私は支店へ戻り、早速融資係の先輩職員に相談をした。

『すみません、お手軽ローンのお申込みをしたいというお客様からご相談を受けたんですけど、どうすれば良いですか?』

「えっ、凄いね!」

『あ、いえ、私が勧誘していた訳じゃないんですけど……』

私は事情を説明し、お客様に用意してもらうための必要書類や審査までの流れなどを一通り教えてもらった。
ただ、実際にお申込みをしてもらう時には重要事項などを説明しなければいけないため、さすがに私一人では難しいだろうという事で、その先輩職員についてきてもらう事になった。

再び市民センターに集金に向かった際に、私はお客様に必要書類を説明し、実際お申込みをして頂く日時を決めて、当日は融資担当者と一緒に伺う事を伝えておいた。

そしてお申込み当日、先輩職員と共に市民センターへ向かい、お客様から正式にお申込みを受けた。
ほとんど説明しているのは先輩職員であり、私は相槌ばかり打っているような感じだった。

正直、どっちが担当者か分からないぐらいだ。

もし私に融資係の経験があれば、おそらくお手軽ローンぐらいのお申込みなら私一人ですべて完結できていたはずだ。
しかも、今回表面的には私の営業成績にカウントされているが、前に担当していた先輩職員が推進していたおかげでもあるため、実質的には先輩職員の営業成績にカウントされるべき案件だと言えるだろう。

何だか私は複雑な気持ちになった。

とは言え、もし私がお客様に嫌われていたら、恐らく私にお手軽ローンをお申込みしようなどとは思わなかったのではないだろうか。
そういった意味では、少なくとも私は嫌われてはいないようなので、この調子で少しずつ成果を出していけばいいのかもしれない。

今度こそ、全部私の力で案件を獲得してみせる!

私の心の中で、何か得体の知れない熱き思いが沸き上がっていた。

To Be Continued ➤





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